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魔王の策謀

「……アクア、退いてくれ」


 彼女を見たフロディアは指示を送る。これで、残るはフロディアとナーゲンのみ。


「さすがに無傷は予想していなかったようだな」


 言葉を受けアクアが下がる間に、シュウが悠然と告げた。


「聖剣でも傷をつけることができない……さて、他に手はあるのか?」


 ――直後、フロディアとナーゲンが武器を構え、対峙する。フロディアは無傷だが、ナーゲンは先ほどの魔法を受け多少ながら負傷している。そちらは戦闘に支障が無いことを祈るしかない。


「さて、フロディア。現状そちらの方が不利という状況で……今まで静観していたわけだが、とうとう参戦するか?」

「……さて、ね」


 杖をかざしたままフロディアは肩をすくめる。


「ふむ、少なくとも方針を転換する気はあるようだな」


 シュウが告げる。現状で戦法を変えるようだが……まだ手があるのか?


「どうやら、こちらの状況に気付いている様子……まあ、その辺りを隠し通せるとは思っていなかったが」


 何……? 俺はシュウとフロディアを交互に見る。両者は沈黙し、答えを聞くことはできない。


 そこで俺は改めて思考する。フロディアはここまで積極的に戦いに参加しては来なかった。聖剣があるためという見方もできたが……ナーゲンに聖剣を渡してなお変わらぬ態度であるため、それだけが理由ではないようだ。


「広範囲魔法に警戒しているんですよ」


 近くにいるジオの声がした。顔つきを見て疑問に思っているのを察したらしい。


「シュウ殿の手持ちには、陣地内を崩壊させるような魔法がいくらでもあるはずです。それをせず私達を一網打尽にしないのは、フロディア殿がそれを相殺できると踏んでいるからです」

「そうした魔法に応じるために、フロディアさんは積極的に戦っていないと?」

「ええ。実際黒騎士交戦中もあの方はシュウ殿に目を光らせていたようですし……もっとも、シュウ殿が無闇に魔法を使用しないのは別の要因もあるかと思いますが」

「正解だよ、騎士ジオ」


 聞こえていたのかシュウが話し出す。けれど視線は、フロディアに向けたまま。


「いくら魔王の力だと言っても、ベースが人間である以上、限界は来る……無駄な力を使わないよう立ち回っているのさ」

「……あっさりと、喋るんだな」


 フロディアが杖を構え直しながら言う。するとシュウは笑い、


「わかっていたはずだ。それに、話して好機ありと向かってくる方が、聖剣を奪える可能性が増すからな」

「……ナーゲン」


 彼の言葉にフロディアは、嘆息を大いに交え名を呼んだ。


「させないさ」


 そこでシュウが右腕を突き出す。途端に腕に魔力が走った。


「もし引き上げると言うのなら……あるいはストレージカードに戻そうものなら、そういう挙動をした段階で一気に攻めさせてもらおう……とはいえ、フロディアとしてはそれは望むところかな?」


 ――なんとなく、策の読み合いの様相を呈してきた。シュウは現状聖剣を奪うべく動いている。もしフロディア達がストレージカードに聖剣をしまうとすれば……シュウが襲い掛かるのは間違いない。

 しかし、フロディアから見ればシュウに魔力を消費させることができる……そこで大いに消耗させれば、勝機を見いだせるわけだ。


 そんな状況下で、両者は胸に抱える策をどう成功させるかを思案し、睨み合っている……どちらが有利なのか、はっきり言ってわからない。

 加え、俺はどうすれば良いのか……逃げるにしてもシュウが見逃す真似はしないだろう。いや、逃げるふりをしてシュウに魔法を使わせることもできるか――?


「レン」


 そこへ、マクロイドの声。彼は俺の前に立ち、怪我をものともせず超然と剣を構えている。


「もう一度、いけるか?」


 一瞬、何を言われたのか理解できなかった。


「……もう、一度?」

「ああ。アクアもこちらに近寄って来たことだし、もう一回くらいはチャンスがあるだろ」

「まだ、やるつもりなのか?」

「なんだよ、一度弾かれただけであきらめんのか?」


 マクロイドが不満を込めた言及を行う。


「レン、お前は気付かなかったのかもしれないが、例の魔力を収束させた時、あいつはかなり用心して腕に結界を構築していた。おそらくだが、奴はお前の力がどういうものなのか知っている……つまり」

「奴に貴殿の剣が通用するかもしれない、というわけだ」


 ルルーナが言う。既に臨戦態勢に入っていた。


「私も同様に感じた……先ほど通用しなかったのは、壁を超える技術が関係しているのだろう。先ほどレン殿は、もう一つの力を集中させ過ぎた結果、壁を超える技術がおろそかになっていた」

「その二つを、組み合わせろということか……」


 呟きつつ、俺は剣を握り締める。もし二人の言ったことが本当なら、壁を超える技術と暖かな力を組み合わせれば、シュウにダメージを与えることができるかもしれない。


「私も、協力するわ」


 そこへ、アクアの言葉。彼女が参戦し、これで俺を含めて六人。


「けれど、彼に一太刀浴びせてどうにかなるのか、という懸念はあるのだけれど……」

「その一撃で、終わらせればいい」


 今度はカインが端的に告げる……言うのは簡単だが、ハードルは果てしなく高い。


「とはいえ、このまま突っ込んでも先ほどのように押し返されるのがオチだ。フロディア達の状況を鑑みて、行動を起こす必要が――」


 そうカインが語った時――俺は、シュウの立っている場所に違和感を覚えた。

 すかさず注視する。見た目に変化はない。けれど、頭の中で何か警告が発せられていた。


 シュウは相変わらずフロディアと向かい合っている。そして、彼の後方には黒騎士――

 まさか――俺は一つの可能性に行き着く。同時に、今度はシュウが仕掛けた。


 一瞬、叫ぼうか迷った。けれど俺の考えは予感でしかなかったため、躊躇……した直後、


穿(うが)て――精霊の剣!」


 シュウが魔法を発動させる。右腕から光が伸び、それが螺旋を描きながら一本の剣と変化しフロディア達へ向かう。

 加え、彼の足元から漆黒の刃。複合攻撃であり、フロディア達も応じるべく杖や剣をかざした。


 まずい――なんとなく直感していた。後方の黒騎士。まだ動いていないが、もしこの状況で何かあるとしたら、あちらの方ではないのか。

 フロディアの結界が発動する。それにシュウの魔法が衝突し、せめぎ合う。漆黒の刃は一瞬で消えるが、螺旋の光は消えない。


 そこでナーゲンが動く。前傾姿勢となり、シュウの魔法を防ぎ切った直後仕掛けるという雰囲気を見せた。

 けれど螺旋の剣は消えない。そればかりかシュウがさらに近づく。このままでいくと結界と正面衝突する――そんな風に考えた時、


 黒騎士から、多大な魔力が膨らんだ。


「――なっ!?」


 近くにいたジオが呻く。同時に、アクアが叫んだ。


「みんな、伏せて!」


 言葉の直後、黒騎士から魔力が放出した。津波のように全てを覆うような衝撃波。威力の程はわからないが、もしあれがシュウの力を大いに使うものだとしたら、相当な――

 衝撃波は粉塵を巻き上げフロディア達を飲み込む。加えてこちらへと迫り、俺はアクアの指示通り地面に伏せようとした。


 瞬間、粉塵の波が襲来する。暴風が体中を襲い、あやうく吹き飛ばされそうになる。そして――

 ドスッ――俺の足元に、何かが刺さった。


「え……?」


 呻くと同時にそれを見た。漆黒の剣。


 まさか、今の攻撃に潜ませて剣を――考える間に風が収まる。そして、

 地面にさらに剣が飛来した。驚き反射的に視線を移す。それは、


 英雄アレスの聖剣だった。


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