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魔王のもとへ

 マクロイドが事情を説明する中で、アクアが踏み込む。


「聖剣はあくまで最後の切り札というわけか」


 シュウは端的に述べると、アクアと正面から対峙する。闘士と魔法使い……接近戦となれば圧倒的に闘士の方が有利のはず。だが、

 彼女の拳が炸裂する。シュウはそれを腕で見事に防御した。鈍い衝撃音が響くが、彼は身じろぎ一つしない。


「……体術の手ほどきは、誰に受けたの?」


 アクアがふいに問い掛ける。シュウはそれに笑みを浮かべ、


「アーガスト王国フェディウス王子の側近、エンスからだ。魔王の魔力による身体強化と相まって、君の攻撃を防ぐことができるようになった」


 シュウが手刀による反撃。アクアは楽々避け、距離を置く。

 そこへ、今度はナーゲン。一瞬で間合いを詰めると、横薙ぎを繰り出した。


「おっと」


 シュウはそれもまた腕で防ぐ――黒騎士との戦いぶりを見れば、ナーゲンの力は他の戦士などと比べ抜きんでていると思う……それを、シュウは軽く防いだ。


「悪魔のようにいかないぞ」

「承知の上だよ」


 軽く答えたナーゲンは、さらに攻撃を叩き込む。それをシュウは腕で捌き始める――が、


「ふっ!」


 ナーゲンの鋭い剣閃がシュウの首筋を捉えた――が、それも甲高い音が生じる。通用していない。


「急所の防御は最大限行っているさ」


 シュウは答えつつ一歩退く。そこへ、今度はアクアが接近する。

 ナーゲンも追撃を行う。やはり接近戦となれば圧倒的に二人が有利。しかし、戦いぶりを見て、決定打があるのかどうか――


 対するシュウは後退し、右足で地面を勢いよく踏みつけた。瞬間、足元にある影が轟き――突如刃のように鋭く隆起する。

 ナーゲン達はすぐさま反応し止まる。同時に刃が地面から離れ、射出された。


 それを防ぎにかかったのはナーゲン。素振りでもするような軽い動作で刃を消し飛ばし――


「なるほど、事情はわかった」


 ルルーナの声が聞こえた。意識をそちらへ向けると、彼女やカイン達が俺に視線を送っていた。


「謎の力というわけだが、試してみる価値はある」


 ……戦いに集中していたわけだが、マクロイドはどんな風に話したんだ? なんだか俺に期待を寄せる態度だが。


「あ、あの……言っておきますが、確証は――」

「無いが、その力が魔王に通用しないとも言いきれない、だろ?」


 マクロイドがニヤリと笑う。だが顔は余裕が無いように見えた。怪我により脂汗が出ているのが、そう感じる原因かもしれない。


「例えシュウに通用しなくても恨みはしないぜ。後はレン、お前の決断次第だ。その力を用いてシュウに攻撃……当然俺達がフォローする」


 決断次第……そこで、シュウと相対する三人以外の表情を窺う。リミナやノディは事の成り行きを見守るような顔。マクロイドやルルーナは俺に対し期待を抱くような表情。一方カインはどこか傍観とした様子であり、ジオは半信半疑といった雰囲気。

 けれど共通しているのは、全員が俺の言葉を待っているということ……だから、思案する。シュウと戦うかどうか。


 そもそも俺は黒騎士とすらまともに戦えないような状況。それでシュウと相対し、通用するのかどうか……加え、技術的な問題もある。ナーゲンやアクアとシュウは技術面でもある程度戦えている。仮に俺の持つ技法がシュウに通用するとして、当てられるのかどうか――


「カイン、ジオ。二人はどうする?」


 考える間にルルーナが問う。両者は俺やルルーナを一瞥し、考える素振りを見せ、


「……俺は、従おう」


 カインが声を発する。それに合わせるように、ジオもまた頷いた。


「私も協力しましょう。現状を打破できる可能性があるとしたら……やるべきです」


 話が進んでいく……と同時に、俺はシュウを見据えた。ナーゲンとアクアは距離を取り様子を窺うような状況。

 そこで、またも彼と目が合った。瞳はどこか澄んでいて、俺に純粋な問い掛けをしていた。


 ――君は、戦わないのか?


「……やります」


 触発された、というわけではなかったと思う。けれど、自然にそう答えていた。


「決まりだ……リミナとノディは、ここに待機していてくれ」

「わかりました……勇者様」


 マクロイドの言葉にリミナは同意し、俺へと顔を向けた。

 言葉は発さない。俺を心配する視線だけが向けられる……きっと、言いたいことを押し殺しているのだろう。


「……大丈夫さ」


 俺は彼女へ告げる。根拠があるわけではなかったが……不安になっていても仕方がない。


「レン、余計なことを考える必要はない。俺達が攻撃を食い止める。お前はただ、シュウに最高の一撃を当てることだけ考えろ」


 さらにマクロイドから言われ……ふと、戦士達を見回す。少なからず負傷し、全力で戦えるとは思えない。その状況下で、彼らは俺の剣をシュウに当てるため動く。


 その時、シュウの足元からさらに刃が生み出された。それは一つではなく十数にもなり、地表から一気にナーゲン達へ向け放出される。

 即座に回避するナーゲン達。さらに後方に控えていたフロディアさえも回避に転じ、大きく後退。けれど幸い、俺達の所まで到達することはなく、何事もなかった――


「――行くぞ」


 ルルーナが号令。同時に、彼女は駆け出した。


「……ほう? まだやるのか?」


 気付いたシュウが興味深そうに呟き、さらにフロディア達がこちらを見て声を掛けようとした。けれど続いてマクロイドや俺が走り始めたため、瞳の色を驚愕に変える。


「手があるようだな」


 シュウは微笑を湛えながら、戦闘態勢に入る。俺は向かう間に場を確認。唯一残っている黒騎士はなぜか妨害することもなくシュウの後方に控えている。気にはなったが動く様子は無かったため、無視しても良いだろう。

 そしてシュウの攻撃方法……先ほどの刃に注意する必要はあるのだが、そこはマクロイド達に任せた。俺は指示通り、当てることだけに集中させる。


 思い出すのは、ベルファトラスで見たあの夢。英雄アレスから教え込まれた、暖かい力。


 シュウから刃が放たれる。それを先陣切ったルルーナが弾くが、数が多く全てを捌ききれない。けれどマクロイドがフォローを入れ、さらに残った刃をカインが薙ぎ払う。

 一方のジオは俺の傍に控え、眼前に迫る攻撃を防ごうとする構え……打ち合わせをしたわけでは決してない。しかし己が役目を自分で決め、四人は無言で連携している。


 全ては、俺の剣を当てるため……それに応えるべく、神経を研ぎ澄ませ魔力を集中させた。

 さらにシュウの猛攻が激しくなる。警戒したのかそれとも戦いを面白がっているのか……笑みを絶やさない彼の胸の内を把握することはできず、不気味に思いながら、走る。


 攻撃に対し、ルルーナの足が僅かに鈍る。見ると明らかに刃が鎧に食い込んでいる……彼女自身の結界である程度防いではいるが、限界近いのか――

 すかさずマクロイドが援護。彼女へ迫る刃に横薙ぎし、見事破砕した。けれど、さらに後続の刃がやって来る。


「――カイン!」


 ルルーナが叫ぶ。同時にカインは俺のことを一瞥し、


「行くぞ、ついて来てくれ」


 端的な言葉。それに俺が頷くと、彼は俺の真正面に立ち、駆けた。

 さらにジオも合わせるように前に出て、二人はまるで俺の盾になるよう動く。その時シュウはもう間近であり、ルルーナとマクロイドが勢いよく刃を振り払った。


 それにより一瞬だけ、攻撃が来ない空白の時間が生じる――瞬間、俺達三人はルルーナ達をすり抜け、シュウへと迫った。


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