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戦士と魔王の攻防

 カインの突撃に対し、黒騎士は反応。双方は刃を交わそうとした――が、カインは攻撃しようと見せかけ横へと逸れた。

 そのまま突破しシュウを攻撃する構え……黒騎士が俺達に積極的な攻撃をしないと判断したが故の決断のようだ。


 現状、シュウと相対しているのはルルーナ一人……だが、フロディアを始め他の面々が黒騎士達を仕留め始めたため、全員でシュウへ攻撃するのも時間の問題。

 カインはそれよりも一歩早く接近し、ルルーナと共に剣を薙ぐ。彼が右で彼女が左――しかも相当な魔力を収束させ、俺は今度こそシュウにダメージを与えられるのではないかと――思った。しかし、


 直後、つんざくような金属音が響く。シュウが二人の剣を、硬化した両手で防いだことによるものだ。


「さっきも言った通り、並みの高位魔族なら終わっていただろうな」


 シュウは極めて冷静に告げる……その間にフロディアは杖をかざし、マクロイドが猛然と駆ける。

 だが次の瞬間、またもシュウの影が膨らんだ。増援――先ほどまでの悪魔や竜と違い、際限なく生み出せるのか?


 カインとルルーナはそれにより距離を取る。直後、今度はシュウを囲うように黒騎士が出現。先ほどまでとは一転、防戦の構え。なおかつカインがスルーした黒騎士も、シュウを守るべく走る。


 しかし――


「――おらぁ!」


 裂帛(れっぱく)の声と共にマクロイドが突撃を敢行する。それを迎え撃つのは黒騎士一体。彼の剣戟を正面から受け、捌くと反撃しようとしたが、


「ふっ!」


 僅かな呼吸と共にマクロイドが連撃。速い――黒騎士が攻撃する前に、刃が胴体に入った。

 それにより僅かにたじろぐ黒騎士。そこへ追撃の刺突を頭部へ放ち――刺さった。これにより黒騎士は消滅する。


「中々強かったぜ」


 端的に告げる。同時にルルーナが黒騎士を一体倒した。それはカインが無視した奴であり、これで残る黒騎士はシュウを囲っている……四体だけとなる。


「タネは既に理解しているよ、シュウ」


 そこへ、今度はフロディアが発言する。


「一見シュウの魔力により生み出しているように見えるが……違う。生み出すための主な魔力は、懐に潜ませた魔石だな?」

「……ご名答。さすがだな」


 シュウは隠すことなくあっさりと応じた。


「魔王の力をそのまま悪魔に流用できれば良かったんだが、さすがにそれは無理で、開発中だ」

「そして、魔石の魔力が無くなれば当然、生み出せなくなる」

「かつ、そちらは悪魔の能力を理解し、通用しないと言いたいわけだな?」


 次の言葉を予測したらしいシュウが言う。それにフロディアは押し黙り、杖を向けることで応じた。


「さすがの適応力といったところか。今の僅かな攻防により生み出した悪魔の能力を把握。なおかつ瞬時に倒せるよう魔力の収束方法を変えた……もう少し時間が掛かると思ったが、この辺りは想定外だったな」

「語る表情は、余裕のようですね。まだ手があるのですか?」


 ジオが切っ先を向けつつ問い掛ける。それにシュウは苦笑した。


「本来なら今の攻防で数人倒れてくれるはずだったんだが……」


 彼は一行を見回す。全員健在……というわけにはいかず、シュウと直接交戦したカインは負傷している。さらに見た目上わからないが、ルルーナもシュウと戦った以上怪我をしているかもしれない。

 考える間に全員が沈黙し、シュウに視線を注ぐ。一挙手一投足を見逃さないよう最大限の警戒……こちらが優勢にも見えるが、魔王の力を持つ英雄だ。全員の表情は険しい。


 シュウは体や首を動かさないまま視線を巡らせる。対する黒騎士は身じろぎせず、まるで時間が止まったかのように物音を発さない。

 奇妙な静寂が生じる……動物や虫の声も途絶えており、ほんの僅かに風の音が耳に入る程度。けれど空気の質が違う。張りつめた……いや、立っているだけで背中から汗が噴き出すような空気。


 果たして、誰が先に動くのか。動けば均衡が崩れ、状況が大きく変化するのは間違いないだろう。だからこそ誰もが慎重になり、シュウを見据え一番良いタイミングを探っている。

 ここで、一つ懸念が頭に浮かぶ。英雄達は連携なんて取れていないだろう……先ほどの攻防も向かってきた黒騎士を一人一人が迎え撃っただけで、連携と言えばカインとルルーナが同時攻撃したくらいだ。


 単独で魔族を倒せる彼らにとっては本来それで十分のはずだが、今回は違う。状況に合わせ、誰かと連携しシュウに仕掛ける必要がある。そうでなければ、先ほどカインのような結末となり、負傷するだけになってしまうだろう。


 沈黙が続く。やがて風の音すら聞こえなくなる。俺はこの状況が崩れ去るのが怖いと感じるようになり、戦いが始まればどうなってしまうのか……不安すら頭に浮かぶ。

 その中でシュウの目だけが動いている。ひどく奇妙で、まるで彼だけ時を止められていないような――


 刹那、視界に動く人物を捉える――マクロイド!


 一歩で大きく間合いを詰める彼に対し、黒騎士が散開した。加えルルーナやカイン。さらにジオが前に出て、後続にナーゲンとアクアが控えるような形となる。

 先行するマクロイドが黒騎士と相対する。双方の剣が激突した時、他の黒騎士へとルルーナ達三人が襲い掛かった。


 彼らにはもう、黒騎士の能力は対応できている。ならばこのまま押し通り、シュウに攻撃するのではないか――


「一つ、言い忘れていた」


 シュウが動かないまま口を開く。直後、黒騎士を仕留めようとしたマクロイドの剣が、大きく弾かれた。


「魔石の魔力量によって悪魔の質は大きく変化する。よって、先ほどよりも強くなっているぞ?」


 黒騎士の反撃。今度はマクロイドが防戦に回る。さらに――


「ここで数を減らしておかなければ、面倒なことになるだろうな」


 シュウがなおも呟き、足を前に出した。

 来る――悟ると同時に、アクアが後方から一気に間合いを詰めた。黒騎士と交戦するマクロイド達を抜け、シュウへ突撃しようとする。


「君の相手はそいつだ」


 すると、シュウの言葉――同時に、アクアの背後に新たな黒騎士が出現した。

 けれど、他のものと容姿が違う。鎧に剣というのは同じだが、被っている仮面の色が、白ではなく血のような真紅。


 アクアはすぐさま反転し、黒騎士が動き出す前に接近、拳を腹部に叩き込んだ。

 空気を振動させるような衝撃音が響いたのだが、黒騎士は滅びない。


 ならばと、ナーゲンやフロディアが仕掛ける――けれどそれは、マクロイド達の援護をしないという意味にもなる。

 そこでシュウが嘆息するのを目にした。


「やはり、英雄達を相手にするのは骨が折れるな……ここまでしないといけないとは」


 加えて感想を漏らす……それは、心底面倒そうな声音で、とても死闘を繰り広げている人物が発したものとは思えないくらい、呑気なものだった。

 同時に彼は動く。対するマクロイド達は黒騎士相手にてこずり、シュウの動きを抑えることができない。


 その時、俺はシュウと目が合った――彼は笑み、こちらに来るかどうかを視線で問い掛ける。

 俺は沈黙で応じた。というより、それ以外の選択肢は無かった。


 動かぬ間にシュウが歩む。俺は――剣を強く握り直し、走ろうか迷った。しかしその前に、


「最初の脱落者は、君だ」


 宣告。同時にシュウは相手へ駆けた。マクロイドを始めとした黒騎士と単独で対峙する四人は、一瞬だけ彼に視線を送る。しかし先ほどよりも強化された相手に対し、動きを大きく制限され、対応できない。


 その時、アクア達が猛攻を仕掛けたことにより真紅の仮面を持つ黒騎士が光となった――しかし、


「退場願おう」


 シュウが、目標へ向け手刀を放った。


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