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黒騎士

「馬鹿の一つ覚えだな」


 新たに出現した悪魔に対し、マクロイドはそう評した。


「で、さっきの奴らと何が違うんだ?」

「戦ってみればわかるさ」


 自信ありげに告げるシュウ。それにマクロイドは嘆息し、やれやれと肩をすくめた。


 俺はその間に悪魔を観察する……体全体が漆黒かつ人型であったため悪魔と評したのだが、それまでに見て来た悪魔とは一線を画す雰囲気を持っているのは間違いない。

 頭部の兜を始め、小手、鎧具足と全身が防具で覆われ体が見えない。加えて顔の部分は、仮面のようなもので覆われていた。それは模様の無い、白の仮面。さらに手には漆黒の長剣……悪魔と言うより、黒騎士と表現した方が良いかもしれない。


「さて、それでは改めて……始めようか」


 シュウが淡々と告げた瞬間、悪魔――いや、黒騎士が四散する。数は全部で五体。けれどシュウはさらに指を鳴らし影から黒騎士を生み出す。

 それを阻もうと、カインが接近し剣を薙ぐ。対するシュウは左手で防ぎにかかり、両者は交戦を開始した。


「そういうことかよ」


 マクロイドが何かを理解したらしく、声を上げる――俺もなんとなく察しがついた。黒騎士に時間稼ぎをさせておいて、確固撃破するのが目的なのかもしれない。

 だが、黒騎士が彼らを食い止められるとは思えない……考える間にルルーナが交戦に入った。黒騎士から放たれた斬撃を、まずは受け流し――


「っ!?」


 俺の耳に、彼女の驚愕の呻きが聞こえた。それが明確な隙となり、黒騎士はルルーナへ再度攻撃を加えた。


「――このっ!」


 彼女は即座に持ち直し、魔力を開放。剣を弾き、黒騎士の身へ縦に一閃した。それによって鎧にしっかりと傷をつけたが、一撃とはいかず黒騎士はなおも執拗に攻撃する。


「うおっ!?」


 続いてマクロイドの声。見ると一撃を剣で受け、ややたじろいだ様子。

 そこへ黒騎士が追撃する。マクロイドは体勢を立て直し、防御の構えを取る――その時、横から光の槍が飛んできて黒騎士の頭部へ突き刺さった。放ったのは、フロディア。


「言うだけあって、強いな」


 彼は端的に告げると、向かってくる黒騎士に杖を振りかざす。その奥ではアクアが敵の懐に飛び込み拳を叩き込む姿。これで吹き飛ぶのでは――と思ったのだが、黒騎士は僅かに身じろぎをした程度。

 さらに視線を巡らせるとナーゲンが黒騎士と剣を交錯させていた。ほんの一時鍔迫り合いを行い、ナーゲンが押し返し剣戟を加える。


 その一撃は俺から見れば軽い動作……しかし刃がしかり黒騎士の右脇腹に食い込み――両断した。


 倒せた――かと思うと、新たに生み出された黒騎士二体がナーゲンへ向かう。キリがない。他の面々はどうかと視線を巡らせると、ジオは黒騎士相手にてこずっている様子。目論見通り、シュウと戦っているのはカインだけだ。

 彼らが苦戦するような相手――俺としてはどうすべきなのだろうか。交戦していないのは俺とリミナ、そしてノディの三名だけ。


 この三人で、カインの加勢に向かうべきか……? だが、俺やリミナが相手になるようなレベルなのか――

 思案する間に、黒騎士の一体がこちらに向かってくる。


「……リミナ」

「はい」

「援護するよ」


 リミナに続きノディも応じる。俺は深く頷くと、剣に力を加え黒騎士へ踏み込み、斬撃を放った。

 黒騎士はすぐさま反応し剣で防御――瞬間、勢いのついていたはずの剣戟が、完全に止まった。


 今度は黒騎士が動く。俺の剣を弾くと刃を差し向けようとした。

 食らうのはさすがにまずいと断じ、回避に移る。けれど黒騎士の剣閃は速く、間合いを脱する前に届きそうになる。


 ひとまず剣で防御を――かざした瞬間、ふいに剣の軌跡が見えなくなった。驚いていると、黒騎士が剣を引き戻し刺突に切り替えたのだとわかった。こちらはそれを薙ぎ払い弾こうとしたが……力が強く、止まらない。


「――やっ!」


 そこへ、ノディが横から割り込み黒騎士の剣を大きく弾く。結果刺突は軌道が逸れ、俺は身を捻りどうにか避けきった。


「炎よ!」


 間髪入れずリミナの魔法。炎の槍が黒騎士の頭部に命中……したが、身じろぎすらせず俺やノディへ突撃を開始する。


「くっ!」


 俺は呻きと共に体勢を立て直す。同時に今度はノディが前に出た。

 黒騎士は狙いを彼女に定めたらしく、体を向け対峙する。


「――やああっ!」


 瞬間、ノディの刀身に魔力が生じ、渾身の一撃を放つ。黒騎士は剣で防ぎ対抗。衝突の瞬間金属音が耳に響き……双方の動きが止まる。

 それは、間違いなく黒騎士に隙が生じた瞬間。


 すかさず俺は仕掛ける。拙い連携ではあったが功を奏し、こちらの全力が、黒騎士の右肩口へと入り――

 刃が、止まった。


「っ!?」


 壁を超える技術はきちんと使用した。けれど、ほんの少し鎧に傷をつけただけで、動かなくなる。

 斬れない――理解した刹那、黒騎士がノディを弾き飛ばした。次いで俺に剣を見舞うがこちらはどうにか回避。事なきを得た。しかし、


「……ノディさん」

「うん……どうも、私達では勝てないみたい」


 俺の言葉に、ノディはあっさり結論付けた。


「ジオさんは攻撃できているみたいだから、騎士で対抗できるのはあの人だけ……正直、手の打ちようがない」


 彼女から声が発せられる間に、黒騎士が猛然と襲い掛かる。俺達は後退を余儀なくされ、場合によっては陣地を離れることも考慮に入れる必要があるかもしれない――

 その時、黒騎士は動きを止めた。俺やノディも合わせるように停止し、相手の動向を窺う。けれどやはり、襲ってこない。


「退くのを、追おうとしないということでしょうか」


 槍の切っ先を向けながらリミナが言う。となれば……俺達は目の前の騎士を倒せない限り、足止めとなる。

 他の面々が来るのを待つしかないのか――思った時、シュウの立つ場所で破裂音が生じた。


 反射的にそちらを向く。カインが魔法か何かを受け、こちらへ向かって飛ばされている光景が目に入る。


「――おおおっ!」


 刹那、ルルーナが大振りの一撃で黒騎士の首を両断し――倒した。続けざまにシュウへと走り、カインの穴を埋めるべく迫る。


「さすがだな」


 シュウの呟きが、俺にも聞こえた――同時にルルーナの剣とシュウの右腕が交錯する。

 一方のカインは、空中で体勢を立て直し見事な着地を決めた。その背後には、俺達と対峙する黒騎士――


 即座に双方が振り向き、打ち合いを開始する。黒騎士の鋭い剣戟をカインは上手く捌き、反撃。

 斬撃の速度は、集中してどうにか知覚できるギリギリのレベル。刃は黒騎士の左肩を捉え、カインは斜めに一閃。僅かにたじろいだため、多少なりとも効いているようだ。


 だが黒騎士は後退せず攻撃。対するカインはそれを横に移動し避けると、一瞬で黒騎士の背後――つまり、俺達の正面に回った。


「ふっ!」


 僅かな呼吸と共に、黒騎士の背中へ剣が入る。下から上へと刃は流れ、黒騎士の動きを大きく止めた。

 刹那、カインの剣に魔力が集中する。決めに掛かるつもりらしい。


 黒騎士が振り返りながら薙ぎ払おうとする。だがカインの剣が圧倒的に速く、その首に刃が触れ――飛んだ。

 そして黒騎士は声も無く光となる。これで俺達の目の前からはいなくなった……が、無力感が胸に満ちる。


「……無事か?」


 一息ついて、カインは首だけ振り向き俺達に尋ねた。

 こちらが一様に頷くと、彼は安堵した顔を見せ、


「どうやらこの悪魔は、シュウへ近づこうとする人間だけを阻もうとするようだ……場合によっては他の騎士と同様、退却した方がいい」


 そう言い、彼は歩き出す――そこで、気付いた。外套の右肩付近に、出血したと思しき赤色が滲み出ていた。


「カイン、その傷――」

「問題ない。剣は振れる」


 彼は告げると、疾駆する。その目標は、新たに出現した黒騎士だった。


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