表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256/596

前哨戦

「――明かりよ」


 シュウが魔力を生じさせる中、フロディアが明かりの魔法を使用。

 彼は杖を軽く振り、それを陣地上へと放り投げた。光はかなり大きく、陣地内をしっかりと照らす。


「ジオ、悪いが騎士を避難させてほしい」


 その後、ジオへ指示を出す。この場は彼が仕切るようだ。


「現状、シュウは私達以外に眼中はないようだ。ひとまず陣地を離れれば、襲っては来ないだろう」

「そんな戦力も、もうないからな」


 シュウが横槍を入れる。なおかつ魔力を維持したまま、俺達へ怪しく笑んだ。


「土地の魔力から偽のドラゴンを生み出していたが、さすがにそれも限界があるわけだ。種明かしをするとあれもまた開発途中の魔法でね。魔力を長時間収束させないと生み出せないというわけだ。フロディア達がこちらのルートを使うのは読めていたので、先んじて仕掛けておいたのだが……」

「ずいぶんと余裕だな、ペラペラと話すとは」


 ルルーナが剣の切っ先を彼に向けながら言う。


「どういう風の吹き回しだ?」

「言っただろう? 実験だと。この幻影の力を確認するためには、是非とも君達に全力を出してもらいたくてね。騎士が襲われないとわかれば、こちらに集中できるだろ?」

「反吐が出るな」


 ルルーナは吐き捨てるように告げ、不審の目を送る。他に理由があるのかもしれない――そう彼女は、考えている様子。


「ルルーナ、カイン……そしてナーゲンとマクロイド」


 その間に、フロディアがさらに言う。


「四人はシュウを見張り、この状況を維持してくれ」

「維持? フロディアはどうするつもりだい?」


 シュウに視線を向けながらナーゲンが問う。


「私は……アクアと共に、背後のゴーレムを倒す」


 俺は彼らに視線を送る――瞬間、炸裂音が生じた。アクアが地面を蹴り上げて衝撃波を生み出し、囲うように設置された天幕の一つを吹っ飛ばした。その奥にはゆっくりと歩みを進めるゴーレムと、足元に人影が一つ。気配を探ると、ミーシャであるとわかった。


「前哨戦だな」


 シュウが軽口を叩くように呟く。途端ルルーナやカインが一歩間合いを詰めた。


「――全員、退避!」


 そこへジオの指示。すぐさま他の騎士達は移動を開始し、各々が陣地を出るべく動き始める。


「ジオさん、私は――」

「ノディさんは、ここに残ってください」


 ノディが口を開きかけた時、フロディアから指示が行われる。


「そしてレン君、リミナさん……お二方も待機を」


 ――なぜそうした指示をしたのか、俺にはわからなかった。戦力的な観点から言えば、間違いなく足手まといのはずなのだが。

 けれど、理由を訊く余裕はなかった。ゴーレムが俺達を踏みつぶそうと近づいてくる。


「フロディア、私が先行する」


 アクアが歩き出す。天幕を吹き飛ばしたことによりできた空間を抜け、陣地の外へ。やや遅れてフロディアも進む……シュウのことは気になったが、俺は二人から目を離せなくなった。


「さすがのミーシャも、英雄と現世代最強と謳われた闘士が相手では、分が悪いかな?」


 シュウの傍観者的な物言いが耳に入った――直後、アクアが駆け、ゴーレムへ一気に接近する。

 すぐさま人影――ミーシャが動いた。同時に緩慢な動きではあったがゴーレムが右腕を振り上げ、振り下ろそうという気配を見せる。


 アクアの能力を考えれば、その一撃が当たるはずはない、と思う。だがゴーレムはそのまま彼女目掛け手刀を放った。

 瞬間、俺は指先に魔力が凝縮しているのを感じ取る。もし地面に着弾すれば、それが衝撃波となって周囲に拡散するかもしれない……アクアやフロディアは無事だとしても、その余波で退く騎士や、こちらにも被害が及ぶ可能性だってある。


 対するアクアは、俺と同じように思ったらしく……手刀を真正面から受けるべく立ち止まり、右手をかざし掌底を放った。

 ゴーレムの攻撃を弾くのだろう――先ほど竜を吹き飛ばした一撃を見れば、相殺くらいは可能かも……そんな風に思った瞬間、


 双方の拳が衝突する――結果、轟音と共にゴーレムの右腕……肘から先が消失した。


「え……?」


 びっくりしている間に、アクアは跳んだ。目標はゴーレムの腹部。そこへ、掌底を叩き込むつもりのようだ。

 彼女に対し次に動いたのはミーシャ。攻撃されまいと右腕を振り、突如地面から漆黒の刃を生み出し――


 それを、フロディアが杖をかざし止めた。


「あなたの相手は私だ」


 彼が高らかに宣言するのを聞いた直後、ミーシャの動きが止まり、なおかつアクアの掌底がゴーレムに直撃した。


 もしかすると、体に大穴が……予想をした直後、腹部に亀裂が入り、大きく穴が空いた。さすが――と思った所で、さらにゴーレムが傾いた。

 いや、違う……掌底により、ゴーレムが吹き飛んだ。


 俺は声もなく目を見開く。あれだけの質量のものを掌底一発で――


「さすが、最強の闘士だ」


 シュウが、感嘆の声を発した。


「引退して、腕が落ちたのではないかと思っていたのだが……まだまだ現役だな」

「いいのか? そんな余裕で」


 ルルーナの声。目を移すと、さらに一歩近づいていた。

 彼女にシュウは肩をすくめ、同時に後方から爆発でもしたような轟音と共に、地面が振動した。


 振り返ると、ゴーレムが横倒しになっている姿。そして、アクアが追撃を入れるべくさらに駆ける姿が見えた。どうするのか事の推移を見守っていると、アクアは先ほど以上に跳躍し、右足を天に向ける。

 かかと落とし――理解する間に彼女の右足がごゴーレムへと炸裂した。刹那、爆音と共に先ほど以上に地面が振動し、ゴーレムを中心として魔力による白い衝撃波が発声。彼女達の姿が見えなくなる。加え、攻撃による突風がこちらを襲い、陣地に残っていた天幕を大きく揺らした。


「単なる体術がこれほどの威力とは、アクア殿の力には感服する他ないな」


 シュウの言葉。俺はそちらに視線を向けようか迷ったが、衝撃波が収まり彼女の姿が見えたため、注視する。

 ゴーレムはいなくなっていた。あの一撃によって跡形もなく消し飛ばしたらしい。残るはミーシャ。彼女はフロディアと対峙し、微動だにしていない。


「フロディア対ミーシャか。さすがに、勝つのは難しそうだな」


 なおも続くシュウの発言。余裕を大いに含んだ声音であったため、俺としては何か策があるのかと、勘ぐってしまう。

 いや、待った……彼はこの戦いを実験と称していた。となるとミーシャの能力を確かめようとするのが、目的ということなのだろうか? とはいえ、この戦いで場合によっては彼女自身の命も危うくなりそうだが――


「良いのか? あいつを放置しておいて」


 カインの声。今度こそ振り向くと、俺から見てシュウの右側を陣取り、剣を構えている。


「実験などと称し戦わせるのはいいが、フロディアと戦えば滅されるかもしれないぞ」


 彼は俺と同じ見解。しかし、シュウは首を左右に振った。


「心配はしていない。ああ見えてミーシャは高位魔族だからな」


 それが答えとでもいうのか――再度振り返る。フロディアとミーシャは動かない。その間にゴーレムを倒したアクアがゆっくりと二人へ歩み寄る。

 二対一という状況……それに彼女はどう迎え撃つのか。俺はフロディア達へ視線を送り続ける……その時、


 先に動いたのは、ミーシャだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ