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幻影の顕現

「勇者レンの記憶が無い君にとっては、理解しがたい内容なのは想像に難くない」


 畏怖を抱く間にも、シュウは話し続ける。


「いや、ラキは勇者レンにもこのことを話していないと言っていたな……だとすれば、勇者レン自身もラキの本質的な行動理由は把握していないのだろう」

「どういう、ことだ?」


 俺は剣を握り締め、問う。


「ラキは、何のためにこんなことをしている?」

「さっきも言った通り、私に話す資格はない。まあ、仮にあったとしても君に伝えはしないだろうけど」


 語り、シュウは面白おかしく笑う。こちらの態度を見て、ひどく楽しんでいる様子。


「で、だ……こうして名乗り出た以上、話が終われば君達とは戦わざるを得なくなる……他に質問があれば今の内に受け付けるが、どうだい?」


 優しげに問う彼。それは微笑を伴ったものだったのだが、体の芯から恐怖が湧きあがってくる表情。


「戦う、おつもりですか?」


 リミナがそうした雰囲気に負けじと尋ねる。


「この場に……どれだけの人がいると思っているのですか?」

「それもまた、今回の実験に関する計画だからな。私としては予定通りと言わざるを得ない」


 ――そう答えた瞬間、俺は目の前の英雄を奇異に感じた。

 この場には魔王を直接倒したわけではないにしろ、魔王との戦いで活躍した英雄が二人いる。加え、高位の魔族を討つことができる現世代の戦士や騎士もいる……その状況下で、戦うというのか?


「勝てると、お思いなのですか?」


 リミナが再度尋ねる。彼女もまた、シュウに不審の目を向けていた。

 それに対し、彼は言及せず肩をすくめるだけ……余裕ともとれる態度。


 もしかして、何か手があるのか? 英雄や現世代の戦士達を相手にして、ここまで余裕ということは――


「その辺りは、ご想像にお任せしよう」


 考える間に、シュウが口を開く。


「よし、今度はこちらか一つ……レン君、質問がある。君も修行が進んでいるだろう……その中で、アレスから教え込まれた技法を、経験から引き出してはいないか?」

「……何?」


 唐突な質問に、俺は彼と目を合わせた。


「教え込まれた……技法?」

「例えばの話だ……もし、何もないならばそれでいい」


 シュウはあっさりと話を切り、俺達に一歩近づく。途端に俺とリミナは後ろに一歩下がり、武器をかざす。


「他に訊きたいことはあるかい?」

「……なら、何で俺に擬態魔法が通用しないかわかるか?」


 なんとなく、話を振ってみる。するとシュウは「ああ」と思い出したように呟いた。


「そのことか……色々と推測しているが、そうだな……私に傷でもつけられたら、話してもいい」

「……わかったよ」


 奥歯を噛み締め、相手を見据える。覚悟は、できた。


「よし、質問もないようだし……始めるとしようか」


 始める――俺は先に仕掛けるべきか考える。今向かったとしてもダメージを与えるのは……難しいという結論となり、動かない。それはリミナも認識しているようで、踏み込むようなことはせず、槍を向けながらシュウの動向を窺うような構え。


 俺は改めてシュウの装備を確認。手ぶらであり、どのように戦うのか見当もつかない。

 ただ彼はあくまで魔法使い。直接的な戦闘であれば勝機があるのでは、と考えることもできるが――


「賢明な判断だ」


 その時、シュウが声を上げた。


「飛び込んできたなら一撃で再起不能にしてやろうと考えていたんだが」


 シュウは笑みすら湛えながら語る。一撃……どうやって――

 考えようとした瞬間、シュウの右手が動く。そして、先から魔力が生じ、


「勇者様!」


 リミナの声――同時に、


「光よ」


 淡々としたシュウの声が響いた。

 刹那、俺はリミナから聞かされた勇者レンとの決闘を思い出す。そうか、魔石なんかを使った、無詠唱攻撃――


 俺は咄嗟に氷の盾を生み出し、剣とクロスさせて防ぎにかかった。シュウの手先から生じたのは光弾。それが盾に直撃し――爆音と爆煙が周囲を包みながら、後方にすっ飛ばされ、天幕の外へと投げ出された。


「ぐっ!」


 声と同時に背中を地面に打ち付ける。痛みはほとんどなくすぐさま体勢を立て直し――横に、起き上がろうとするリミナを視界に捉えた。一緒に吹き飛ばされたらしい。


「――どうした!?」


 横から声。首を向けると、こちらに気付いたマクロイドが近寄ってきていた。


「敵襲か!?」

「……マクロイド、さん」

「確か、君が二人を連れてきたんだったか」


 シュウの声。マクロイドはそれに反応し、粉塵が舞う天幕を睨む。


「……この声は」

「それにより、犠牲者が少なくなったのは事実だ。君は良くやったと褒めるべきなのかな」


 煙の奥よりシュウが現れる。既に擬態魔法は解かれているため、マクロイドの目が険しくなり、周囲にいた騎士達も戦闘態勢に入った。


「やれやれ、ルルーナの言っていた最悪のパターンというやつか」

「レン君も言っていたな。彼女は察しが良いから、私のやっていることが実験だと気付いたようで」

「やはり、そういうことか……なら」


 と、マクロイドは剣を抜き、シュウと向かい合う。


「ここでお前を、叩き潰す――」


 そう彼が告げた刹那、俺達から見てシュウの右――そこに、一人の人物が接近し、剣を薙いだ。


「っ!?」


 瞠目しつつ見ると、その人物は白い外套を着たカイン――


「おっと」


 対するシュウは左腕で防ぎにかかった。それで防げるというのか――考える間に剣は弾かれ、カインは大きく後退する。

 驚き、俺はシュウの左腕を見る。ミーシャと同様、その腕は黒く硬化していた。


「シュウ、あなたも魔族の力を所持しているというわけか」


 今度はフロディアの声。見ると、天幕からアクアと共に歩み寄る姿。

 加え、後方にはルルーナやジオ……そして、ナーゲンがいた。


「シュウ、あなたの計画、ここで終わらせてもらう」


 フロディアが宣言――同時に、シュウは肩をすくめ、

 右腕を、さっと上げた。同時に、指先から魔力が発せられた。何かの合図か――?


 直後、俺達の背後から体を震わせる程の魔力が生じる。驚き振り返るとそこには、


「な……?」


 呻いた。月夜の下――陣地の外に、巨人が出現していた。


「ミーシャに頼んで作らせたゴーレムだ。彼女の力を利用し、転移させた」


 ゴーレム……異世界に来てすぐに遭遇したマジックゴーレムを思い出させる、半透明な魔石のゴーレムだった。身長は十メートルを軽く超え、色は夜でわかりにくいが紫ではないかと思う。


「あれとミーシャという魔族……それが、実験最後の戦力か?」


 ルルーナが、俺から見てシュウの左側に回り込みながら問う。すると彼は首を左右に振った。


「あれは、最終戦力の一つに過ぎない……メインは、私だ――」


 言葉の瞬間、ゴーレムが出現した時と比べ物にならない魔力が生じる。

 一瞬、息をすることを忘れるような濃密な魔力……さらに吐き気を催すような感覚。これは、瘴気……?


「……馬鹿な」


 その時、フロディアから声が発せられた。明確な、驚愕。


「その、力は……」

「本物ではないさ。あくまで疑似的だ。幻影とでも呼べばいい」


 シュウは肩をすくめ目を見開くフロディアに応じる。視線を転じると、ナーゲンもまた驚いている様子。これは――


「……魔王」


 ナーゲンの呟きが、ひどく鮮明に聞こえた。魔王……まさか魔王の力を、シュウは再現しているというのか?


「魔王を倒し、魔の力に浸り……その過程で辿り着いた、私なりの魔王の魔力だ」


 ナーゲンの声に応じるようにシュウは答える。瞬間、マクロイドを始め全員がシュウを威嚇するように魔力を発し、完全な戦闘態勢に入る。


「言っておくが、実験だからといって容赦はしない。もしふがいない結果に終われば……私は、君達を容赦なく殺す気でいる」


 言葉の瞬間、後方から重い足音。ゴーレムが、歩き始めた。


「それでは、始めようか――」


 そしてシュウは呟き両腕に魔力を収束させる……今この場で、幻影とはいえ、魔王との戦いが始まろうとしていた――


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