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英雄の策

「レン、確認するが二人は本物か?」


 アクアとジオが近寄ると同時に、マクロイドが声を発した。

 問われ、俺は二人を一瞥。アクアの方は間違いないと断定でき……続いて、ジオに目を向ける。


 純白の鎧は他の騎士と変わりないが、手から足まで全てが白で覆われ、なおかつ兜まで被っているのが特徴と言えば特徴。髪は銀で胸辺りまであり、それを首元辺りで縛って垂らしている。

 顔立ちは清涼、爽やかという言葉が似合うもの。ひどく澄んだ黒い瞳を持っていることに加え、どこか潔癖な印象を受けた。装備全てが白だからかもしれないが――


「銀の長髪を持った、いけすかない野郎に見えているか?」

「ひどい言い草だな」


 マクロイドの言葉に、ジオが苦笑する。見た目と比べやや太めな、聞いていて心地よい声。


「レン君、久しぶり」


 続いてアクアからの言葉。俺が「はい」と返事をすると、マクロイドが彼女へ言及した。


「アクア、俺達がいるのに敵を吹き飛ばすな」

「ごめんなさい。今後気を付けるから」

「まったく……で、レン。どうだ?」

「怪しい点はないかな」

「他の騎士達は?」


 問われ、ぐるりと見回す。ジオと共に戦っていた騎士に目を向けてみるが、


「少なくとも、ミーシャやシュウさんはいない」

「そうか。おい、ジオ」


 と、マクロイドはこの場を仕切るように発言する。


「話は聞いているかもしれないが、彼が勇者レンだ。で、シュウ達の擬態魔法を見破ることができるんだが……自己紹介は後にして、ひとまずそれを確認しないか?」

「そうだな。先に済ませよう」


 ジオは同意すると、陣地を手で示した。

「ひとまず陣の中へ頼むよ」


 言葉と同時に、俺達は歩き始めた。






 陣地に入るとすぐ、杖を肩に担いだフロディアと遭遇した。格好は以前と同様青いローブ。金髪が彼に流れ、傍目では中々様になっている。

 彼は俺と再開の言葉を多少交わした後、改めて陣地を見回した。


「しかし、やはりシュウだな……私の魔法が一切通用しないとは」


 険しい顔で……さらにどこか悔しそうな雰囲気でフロディアは語る。


「この場に君が来てくれたのは本当に良かった……というより、いざという時の策として君を同行させるべきだったな」

「……仕方ないんじゃないですか?」


 俺は彼と同じように見回しながら返答する。


「今回の面々は、精鋭ですよね? 先ほどマクロイドさんや、アクアさんの戦いぶりを見ていて……必要ないというのは、事実だったわけですし」

「そういう見解で、なおかつ色々と要素もあったからナーゲンは行くべきではないと言っていたんだけど」

「要素?」


 聞き返すと、フロディアは小さく肩をすくめた。


「将来性、かな」

「将来性?」

「この戦いはシュウが出てくる可能性もある以上、かなりの危険がつきまとう。場合によっては私達の中に死者が出るかもしれない……そうしたリスクの中、成長の余地があり今後シュウとの戦いに参戦する君達を、連れて来たくは無かった、というわけさ」


 語ったフロディアは、俺に微笑んだ。


「この場にいる騎士達は精鋭だが、壁を超えている騎士はゼノンとノディ。そしてジオの三人だけだ。他の騎士はそれを踏まえて作戦を組み、戦うようにしている……けれど、君は彼らと連携するのも難しいし、なおかつシュウにマークされている可能性が高い。だからこそ、ナーゲンは参戦を遠慮した」


 そこまで語ると、彼は肩をすくめた。


「結局、戦闘面以外で君に頼る必要が出てしまったわけだけど」

「……あの、フロディアさん。根本的な質問をしていいですか?」

「なぜ君に擬態魔法が通用しないのか?」


 先読みした彼の言葉。俺は深く頷いた。


「そこが気になるというか……」

「例えば英雄アレスから何か訓練を受けたとか……君は記憶喪失なわけだし、この辺りは推測しかできない。だから今のところはどうとも言えないね。とはいえ君が魔法に抵抗力があることだけは事実だし、気味が悪いかもしれないけど利用させてもらおう」

「はい……それで、ですね」


 俺は陣地を一通り確認し、言う。


「怪しそうな人はいません……少なくとも、シュウさんやミーシャも」

「なら、大丈夫そうだな。それでは、少し休憩するといい。本来は仮眠でもとってもらうのが一番なんだが、この状況下ではそれも難しいだろう。けどせめて、体を休めておいてくれ」

「はい」


 承諾し、視線を横に向ける。近くにリミナが立っており、小さく頷くのが見えた。ちなみにノディ他騎士達は陣地を動き回っており、態勢を整えているような状況。

 既にマクロイド達も移動している。どうやら俺とリミナは彼らとは別で休むことになりそうだ……そう思った時、一つ疑問が生じた。


「そういえば、フロディアさん。聖剣はどこにあるんですか?」

「ここに」


 彼は胸のあたりをポンポンと叩く。なるほど、ストレージカードか。


「実の所、馬車はダミーでそちらに気を引かせ……という風に目論んでみたものの、さすがに相手も把握していたようで、馬車を狙うケースは皆無だった」

「とすると、フロディアさん達に直接?」

「ああ。悪魔や裏切者により混沌とした状況の中で、掠め取ろうとしたのだろう。それは失敗し、今度は偽物の竜や悪魔が出現し、今に至るというわけだ」


 そこでフロディアは困った顔を示す。


「移送手段については色々と考えたよ。シュウだってストレージカードを使う可能性が高かったため、聖剣に魔法を使い収納できないようにするという案もあったんだが……そんな魔法はあっさりと破壊されてしまうだろうと結論付け、逆に始めからカードに保管したというわけだ」

「なるほど……それで今日はここで休み、明日から移動再開ですよね?」

「予定としては、ね。ひとまず状況を確認しどう対応するか決めるよ」


 そう言うと、フロディアは歩き出した。


「私は他の面々の様子を見てくる。二人は休んでいてくれ」


 言い残し、彼は足早に天幕の一つへと入った。

 そして俺とリミナが残される……どうしようか相談しようと首を向けた時、


「勇者様、大丈夫ですか?」


 彼女が先に口を開いた。


「……俺の方は大丈夫だよ。そういうリミナは?」

「ドラゴンの力が入っていますし、現状疲労はありません」

「そっか……なんだか羨ましく思えるな」


 答えつつ、俺は肩を回す。


「こっちは移動に加え戦い詰めで疲れてきた……注意力が散漫になるようなレベルではないけど、少しばかり休まないと朝までもちそうにないな」

「私が見張りますから、勇者様は仮眠をとられてはどうですか?」


 提案としてはありがたいのだが……リミナは本当に大丈夫だろうか。


「私のことはご心配なく。眠らなくても大丈夫ように魔法で体の維持もできますし」

「……そうか。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「はい」


 リミナが頷く。俺はそこで再度周囲を見回した。騎士にどの天幕に入ればいいかを訊きたいのだが――


「どうしましたか?」


 横から騎士の声。どうやら俺達に気付き声を掛けてくれたらしい。


「あ、はい。休めと言われ、どの天幕に入ったらいいのか――」


 言いつつ俺は声のした――方向に振り返った。そこで、


 動きが、止まる。


「どうしました?」


 当該の人物がにこやかに語る。鎧姿ではなかった。

 完全に硬直してしまう。そして、先ほどのルルーナの言葉が蘇る。


 そこにいたのは――黒衣に身を包んだ、英雄シュウだった。


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