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竜の戦術

 雷撃が形を変えたのと同時に、漆黒の竜は俺に爪をかざそうとした。けれどこちらの雷によってそれは阻まれ、目の前が閃光に包まれる。

 俺はすかさず退き、事の推移を見守る……やがて光が消えた時、正面には頭部周辺のない不気味な竜が立ちつくしていた。


「これなら……」


 倒せたと思い口を開いた――いや、魔力が収束し始めた。


「これでも駄目なのか……!?」


 驚き、どこが弱点なのか考える。その間に視線を転じると俺から見て竜の左側面にノディ。右にリミナがいて、どちらも困惑の表情を浮かべていた。

 俺はひとまず二人へ相談しようと口を開きかけた――その時リミナの背後、森の奥から何かが迫って来る姿を、暗がりながら発見した。


「――リミナ!」


 叫んだ直後、彼女も気付いたのか反射的に振り返る。同時に再生を果たした竜が声を上げ、森の奥から――全身を黒の鎧で覆われ、頭部に二本の角が生えた悪魔が出現した。

 その右手には剣。リミナは即座に槍をかざした。


「刃よ!」


 そして魔法を発動。今度は風の刃であり、真正面から押し寄せる悪魔へ降り注ぐ。

 しかし、衝撃により僅かに動きを止めたものの、効いていない。


 ――魔法の威力が足りなかった、と解釈することもできた。けれど俺は頭の中に別の推測が浮かび上がる。

 すなわち、その悪魔は壁を超えているのではないか。


「リミナ! 俺がやる!」


 すかさず駆ける。同時に竜が俺に腕を放った。呼応しているような動作にも思え――すかさず回り込んだノディが剣戟により腕を両断した。

 その間にリミナを越え、森の入口に立つ。刹那、悪魔が接近し斜め上から斬撃を放った。


 俺は体を捻り避ける。壁を超えている以上、氷の盾で防御するのは危険と判断したためだ。

 そして、反撃。右手に魔力を集め、剣戟を見舞う。それは刃を通し悪魔の右腕に入り、僅かに抵抗はあったが鎧に食い込み――俺は、一気に薙いだ。


 剣は右腕から左腕まで横一線に入る。悪魔は吠え、一撃にも構わず剣を振り上げようとしたが、隙が大きくこちらの二撃目が先だった。今度は縦。勢いをつけた振り下ろしにより、頭部に剣が入る。

 瞬間、悪魔が光となる。倒した――と同時に、後方から竜の雄叫びが聞こえた。


 振り返ると、悪魔と同様光となり消えていく竜の姿。それを見て呼応していた、というより悪魔が竜を操っていたと考えた方がよさそうだと思った。


「……とりあえず、倒したな」


 呟きつつ、俺はリミナとノディを見る。


「どうやら悪魔があの竜を生み出していたみたいだけど――」

「土地の魔力を活用して、と言った方が正しいね」


 俺の言葉に、ノディが口を開いた。


「さっきのドラゴンもどき、斬った感触から土地の魔力とかなり結びついているのがわかったよ。足が再生した瞬間、土地から魔力を吸い出しているのも確認できた。さっきレンさんが戦った悪魔も同様。なおかつドラゴンの魔力を制御する役割を持っていた上、壁を超える技術を持っていたみたいだね。そして戦法は、ドラゴンもどきが敵を引きつけている間に悪魔が仕掛ける、といったところかな」


 解説に、俺は驚くしかない。剣越しに触れただけでそこまで理解する……彼女もまた、優れた騎士というわけだ。


「で、ここは山の中腹だから土地の魔力はまだ少ない……下に行けば行くほど再生能力が上がると推測できる、気合を入れ直さないと」

「山頂付近にいる騎士達は、大丈夫でしょうか」


 ふいにリミナが呟く。するとノディは「大丈夫」と断定し、説明を加えた。


「ああいう土地の魔力を活用する存在というのは、魔力が途切れる場所では生存できないものだよ。あそこまで結び付いていたらその条件が適応されるでしょ」

「山頂で魔力は途切れていると?」

「事前に調査した結果、山頂周囲から遺跡側が同一の魔力で、非常に濃度が薄い。で、今私達がいる場所の魔力は、山頂を越えて森に入った辺りから、下山した草原一体に広がっている……というわけで、山頂や遺跡周辺では生み出せないと思う」

「解説、ありがとうございます。となると相手がそれを使ってきた以上、上にいる騎士達は捨て置いたというわけですね」

「だろうね。舐められてるような気もするけど……ま、狙われないで良かったと思おう」


 言った後、ノディは俺達へ呼び掛けた。


「それじゃあ、進もう。さっき以上に、周囲を警戒しながら、ね」






 以後、断続的に竜の声は聞こえたが、俺達の目の前に現れることはなかった。馬がないため移動は遅かったが、障害も無かったので想定していたよりはだいぶ早く下山できた気がする。


「さて、下りた……けど」


 ノディは呟きつつ、前方から聞こえる咆哮に顔をしかめる。俺もまたそちらを見つつ……誰かが生み出した明かりの下で、交戦しているルルーナ達の姿を確認した。

 そこにいたのは先行していたルルーナとマクロイド。そしてもう一人、漆黒の衣服の上に蒼い胸当てを着込んだナーゲンがいた。加え、山を下りたその場所に竜が――五体。


 一瞬援護に向かうべきかと思い足を踏み出そうとしたのだが、ノディに止められる。


「待った。大丈夫そう」

「大丈夫、って……」


 呟いた時、一際大きい竜の雄叫びが上がった。見ると真正面に竜と、対峙するルルーナの姿。

 竜が先んじて爪を振りかざす。対する彼女はそれに剣で応じた――そして二つが交錯した瞬間、ゴアッ――という重い音と共に竜が大きくのけぞった。


 正面から受けるだけではなく押し返す――俺が驚き目を丸くする間に、ルルーナは別方向へ目を移す。そこには、突撃しようとする悪魔。

 彼女は一呼吸も置かずにそちらへ剣を薙ぐ。刃の先から赤い光が現れ、それが一筋の矢となり悪魔を貫く。結果あっさりと消滅し、のけぞった竜も消え去った。


「――おらっ!」


 続いて、マクロイドの声。見ると、悪魔と竜が同時に襲い掛かる様子と、彼が剣を縦に振り下ろす光景が見えた。

 彼は衝撃波か何かを生み出し、相手を怯ませる気なのだろう――そんな風に思ったのは一瞬。刹那、轟音とともに竜を飲み込むような衝撃波が生まれ、後方にいたもう一組の悪魔達すら覆い、見えなくなった。俺は小さく呻きつつじっとその場所を注視。


 やがて衝撃波が収まり……悪魔達の姿は跡形もなく消えていた。


「大丈夫、そうですね」


 横にいるリミナが驚きつつ呟く。俺は頷く他なかった。

 さらに一行の攻勢は続く。最後に残った二体に相対するのはナーゲン。彼は動かぬまま二体同時に迫る竜を見据える。


 彼のことなので俺は一切心配していない。むしろ、どのように戦うのか大いに興味があり観察……そして、竜が爪を向ける。


 刹那、彼は動いた。けれど瞬きをして目を開けた時、彼の剣は一閃し、竜を見事に両断する。再生するかと思いきや、そのまま竜は消える……何か特殊な攻撃だろうか?

 次いで仕掛けた悪魔も、彼は何気ない動作で避け、一閃。それによりあっさりと消滅。ルルーナやマクロイドのような派手な動きは一切ない。けれど、速やかに敵を撃滅する。


 さらに残っていた竜と悪魔のペアもあっさりと斬り――短い戦いは終わりを告げた。


「さすが、といったところねぇ」


 感嘆の声をノディが発する。俺は小さく頷きつつじっと三人を見守っていると……ルルーナが気付いた。


「来たか。そっちは遭遇したか?」

「一体だけですねー。そちらは?」

「この場にいたのは十体強だな」


 間延びしたノディの声にルルーナは淡々と答え、俺達を手招きした。

 それに従い、俺達は彼女の下へ。次いでマクロイドやナーゲンも近寄り――


「ひとまず、フロディア達と合流しよう」


 そう言い、ルルーナは先んじて歩き出した。


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