魔族との攻防
最初に悪魔が着地した場所は、俺の間近。反射的に剣を振り、雷撃を放つことでそいつを倒した。
「ゼノン! リミナ! 任せた!」
続いてマクロイドの言葉――瞬間、ゼノンは弾かれたように動き、空中にいる悪魔へ向け刃を放つ。
「光よ!」
次いでリミナの魔法。それにより着地寸前だった悪魔の迎撃に成功する。
そして俺は――ミーシャへ走る。この場で彼女を倒すことができるのは俺とマクロイドだけ……ならば、彼女の相手をしなければ。
刹那、今度はミーシャから瘴気が噴き出した。先ほどのような圧倒的な出力ではなかったが、強化されたのは間違いない。
「おらっ!」
マクロイドが先行して斬りかかる。そちらもまた魔力を収束させ、瘴気に負けないようなプレッシャーをミーシャへと注ぐ。
両の攻撃が衝突し、再び衝撃。だが結果として斬撃はミーシャによって完璧に防がれた。破片も飛び散らない。
「馬鹿の一つ覚えだな」
ミーシャは評すると同時に押し返し、両腕を振った。手刀――しかし、左腕に黒い塊が収束するのを俺は見逃さなかった。
「ふっ!」
そこで接近し、一閃。彼女はそれに反応しマクロイドへ向けようとした左を、俺に差し向けた。
剣が腕に触れると、またも金属的な感触……けれど今までと異なるのは、その左手が鋭い刃のように変化していたこと。マクロイドへ突きこもうとでも思っていたのだろう。
ミーシャは俺の攻撃を受け切ると、さらに瘴気が膨らんだ。来る……転移か、それとも高速移動かわからないが――
彼女が動く。俺は迎撃の構えを取り、彼女を注視――そして、
俺とマクロイドの隙間を通り抜けようとする姿を、しかと捉えた。
「……っ!?」
ミーシャはこちらがついてこれると察したようで、僅かながら驚く。その間に俺は剣を向け、一撃加えようとした。
瞬間、マクロイドも反応し彼女の首筋へ剣を薙いだ。またも同時攻撃。これなら――と、思った時彼女に剣が入る。
防御はしていない。急所を避けるように身を捻った程度。強行突破するつもりなのか。
「――ちいっ!」
次に声を発したのはマクロイド。相手の意図を察したようだが、攻撃は中断せず一閃した。結果、彼の剣は右肩口に直撃。鮮血が宙を舞ったが、倒すには至らない。対する俺の刃は彼女の左脇腹に。けれど、刃が僅かに食い込みはしたがそれ以上入らない。
刹那、ミーシャは反撃。指の先端を鋭くし俺には刺突を放った。
即座に俺は回避に移る。だが接近していたためよけられないと悟り、剣の腹で受けた。直後、体が僅かに浮くような感覚を抱く。予想以上に力が強く、踏ん張りきれない。
「くっ!」
やむなく反動に任せ後退。一方のマクロイドはかわし――隙が生じる間に、ミーシャは俺達を突破した。
俺とマクロイドは同時に後を追う。しかし猛然と駆けるミーシャに追いつくことができない。そして彼女は、魔道砲の柱へと向かい――それを阻むように、リミナが立ちふさがった。
「リミ――!」
叫ぼうとした矢先、ミーシャの腕が振るわれる。それにリミナは槍をかざし相手の手刀を受ける構えを見せる。
傷は負わせられなくとも、ドラゴンの力で押し返す――そういう意図がわかった。それに俺は不安を抱き、剣を握り締めながら走った。
ミーシャは右の手刀を見舞う。リミナは反応できているらしく、眼で追いそれを槍で弾いた。瞬間耳を響かせる金属音が生まれ――
「なっ……!?」
ミーシャの驚愕の声が聞こえた。
見ると、手刀を放った右手から黒い塊がボロボロと落ちた。槍の刃を受け、損傷している様子――
「そういうことかよ!」
マクロイドが叫び、背後から剣を薙ぐ。対するミーシャは察知したようで即座に横へ逃れた。剣は空を切り、ミーシャはこちらから距離を置く――同時に、俺の周囲に悪魔が二体、飛来した。
意識がそちらに持っていかれる。悪魔は咆哮もなく無言で右腕で突きを見舞う。こちらはそれを避けると、即座に胸部へ向け一撃。消滅。
続いてもう一体――そちらはマクロイドへ向かっていた。彼はすぐさま風の刃を放ち事なきを得る。だが、ミーシャに付け入る隙を与えてしまった。
彼女の瘴気が濃くなり、両腕を縦に振り下ろす。瞬間、手先から漆黒の刃が生じ、闇夜に溶け込みながら猛然と柱へ迫る。
それにリミナがすかさずカバー。けれど槍で弾けたのは一つだけで、さらに衝撃が大きかったのか。僅かに体が硬直。
瞬間、もう一つの刃が柱のど真ん中をブチ抜き――破砕した。
「――やれやれ、本当に面倒な奴らだ」
ミーシャは愚痴を零すように語ると、俺達へ悠然と視線を送った。
「正直、ここまで予定外のことが続くと、お前達を呪いたくなるな」
言いながら、右腕を地面へ向け振った。すると、服の袖からパラパラと黒い破片が落ちる。リミナが傷をつけた時のものだろう。
「従士のリミナ……その槍はどうやら、壁を超える力を持っているようだな」
解説――彼女の言葉に、リミナの槍を見る。確かあれは、アクアが用意した物だったはず。
「……だが目的はある程度果たした。この辺りで、退かせてもらおう」
「逃がす気はないって言っているだろ?」
マクロイドが一歩近づく。気付けば彼はミーシャと対峙しており、烈火のごとき魔力を放っている。
「悪いが、お前はここで終わりだ」
「それはない。なぜなら――」
言うや否や、周囲から気配。悪魔や、モンスターだ。
「逃げるために、最後の戦力を残していたからな」
直後、悪魔が飛来する。ゼノンが即座に応戦し悪魔を倒したが――数は十体近く。さすがに全面的なフォローはできない。
「――おおっ!」
俺は叫びつつ手近にいた悪魔を倒す。それに応じるかのように周囲には咆哮の合唱が轟き、上空からは不気味な鳥の鳴き声が響く――
「さらばだ」
ミーシャは言うと同時に、足元に魔方陣を出現させる。マクロイドがすかさず間合いを詰めるが、その進路を悪魔四体が阻んだ。
彼はそれらに、横からの一撃を加える。悪魔達は四体全てが防御に回ったのだが、それも空しく一刀で例外なく消滅した。
さらに彼は剣を薙ごうとして――止まる。もうそこに、ミーシャの姿は無かった。
「ちっ……最後の最後でやられたか」
舌打ちし、マクロイドは周囲にいる悪魔へ斬りかかる。俺もまたそれに呼応するように滑空してくる鳥型のモンスターへ雷撃を放ち、倒した。
リミナやゼノンも迎撃を開始。周囲にいる騎士達も応じ始め、短時間で出現した悪魔達を倒すことができた。
「……倒した、が」
俺は呟きながら魔道砲を見る。柱はミーシャの魔法により潰され、使えないことは一目瞭然だった。
さらに視線を転じ、フォザンを目に入れる。周辺には騎士達が守るように待機し、数人が怪我の治療を行っていた。
「……勇者様、お怪我は?」
そこへリミナが近づき、質問。俺は「大丈夫」と答えた後、槍を見た。
「リミナ、その槍だけど……」
「私も、知りませんでした。けど、なぜ教えられなかったのかはわかります。私の性格をあの人は理解していたようなので、教えれば勇者様のために無理をすると思ったんでしょう」
「そうか」
彼女の言葉を聞きながら、再度周囲を見る。破壊された設備と怪我人。ミーシャは目的を果たしたと言っていた――つまりそれは、こちらの情勢が悪くなっているということに他ならなかった。