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彼女の正体

 俺が名を口にした瞬間、その場にいた全員がミーシャに視線を注ぎ、驚いて警戒を示す。魔法を解除したらしい。


「お前は……シュウの助手か」


 マクロイドが切っ先を向けながら告げると、ミーシャは笑った。


「やれやれ……成功すると思った直後、これだ」

「何をする気だった?」


 ゼノンもまたマクロイド同様、剣で威嚇しつつ問う。


「先ほど行動した通りだ」


 ミーシャはあっさり返答すると、唐突に腕をかざした。


 それに反応したのはマクロイド。彼はミーシャに迫り、間合いに入った瞬間斜めに一閃した。

 対する彼女は左腕を差し向けるだけで足を動かさない。まさか、それで防ぐつもりか――


 刹那、旋風が吹き荒れた。マクロイドが放った斬撃の衝撃によるもの……そして、


「そういえば、シュウ様があなたの下を訪れた時も、戦おうとしたな」


 世間話でもするような声音で――マクロイドの剣を左手で受けながら、彼女は言った。


「好戦的なのは相変わらずのようだ……まあ、今回の場合は無理もないか」

「……貴様」


 マクロイドが重い声を発する。まさか正面から――そういう感情が、俺に背を向ける彼から伝わってくる。


「そう驚くな。私とて英雄と共にいる身……このくらいはできる」


 言うと同時に、彼女は剣を弾いた。マクロイドは即座に後退し、距離を置く。

 そこで、一つ気付く――防いだ彼女の左腕。長袖なので腕の部分がどうなのかわからないが……手の先が黒く硬化していた。


「……あんたも、イザンなんかと同じというわけか」


 俺がそう零した――瞬間、ミーシャの眉がつり上がった。


「ほう、私が奴らと同じに見えるのか?」

「……違うと?」

「確かに見た目は同じだな。だが違う。全く違う」


 答えると共に、彼女は手を左右に広げた。直後、肌色だった右手も同様に黒くなっていく。


「奴らは、あくまで私の模倣に過ぎん」

「模倣……?」

「そうだ。つまり……私は」


 彼女は一拍置き、俺達に言って聞かせるように告げた。


「――オリジナルだ」


 瞬間、彼女から魔力が噴き出した――いや、違う。魔力のようなものではあったが、本能的に体が違うと呼び掛けていた。

 突如、俺は体中から虫が這いまわるような感覚を抱き……さらに、背中に氷の板でも当てられたかのような寒気がした。魔力を放出し、威嚇するようなものとは大きく違う。それは根源的な恐怖を与え、彼女から逃げ出したくなるような異常な気配――


「瘴気、か」


 マクロイドが呟く。


「そういうことか……お前、魔族だったんだな」


 魔族――その事実に俺は瞠目し、ミーシャを凝視する。その間に、マクロイドがさらに続ける。


「お前の力をシュウが活用し、他者に力を分け与えていたと」

「そういうことだ。ただそれはあくまで実験に過ぎず、結局私のように魔族そのものになれるようなこともない……つまり、失敗ばかりだった」

「魔族を生成するのが目的だったと?」


 今度は俺が問う。するとミーシャはこちらに視線を移し、肩をすくめて見せた。


「なぜそうしたかは面倒だから語るつもりはない……が、それをすることで計画が順調に進んだ、というのは確かだな」

「力を与えると誘い、協力者を増やしたと」


 吐き捨てるようにゼノンが言った。そうか、勧誘のためにそのような力を作ったのか。


「しかし、解せない……なぜ魔王を打ち倒した英雄に、魔族が協力を?」

「簡単な話だ。シュウ様に協力することで我が利する……ただ、それだけのことだ」


 ――それは、シュウが魔王を復活させる、ということだろうか。


「まあ、その辺りの話はやめにしよう……そもそも、人間達は根本的に勘違いしているからな。話しても、理解できないだろう」

「何?」


 聞き返したゼノンに対し、ミーシャは唇を大きく歪め、不気味に笑う。


「お前達人間は、敵の正体を見ることができていない……それが、答えだ!」


 告げた直後、彼女は俺達へ向け跳んだ。なおかつ両の腕をふりかざし、攻撃態勢に入る――狙いは、マクロイド。


「俺に攻撃とは――!」


 彼は呟き、すかさず迎撃に移る。俺やゼノン、そしてリミナも迎え撃つべく態勢を整える……問題は、俺の剣が通用するのかどうか。

 不安を感じながら、俺はミーシャが手刀を放つのを視界に捉えた。


「おらっ!」


 それを、マクロイドは薙ぎ払う。両者の攻撃が衝突するとまたも突風が生じ……ミーシャは、負けじと彼に迫る。


「ちいっ!」


 マクロイドは舌打し後退。その間に俺は右に回る。合わせてゼノンが左に移動し、リミナはマクロイドの後方で槍を構えた。

 対するミーシャは俺達を一瞥し――唐突に後ろへと下がった。


「壁を超えている人間が、三人か……」


 言うと、真正面にいるマクロイドへ目を向ける。


「特にマクロイド……お前が最も厄介だな」

「逃がすつもりはないぞ?」


 挑発的にマクロイドが言うと、ミーシャは再度笑みを浮かべた。


「こっちのセリフだ」


 言うや否や、彼女は再度突撃を敢行。目標はやはり彼で、一瞬で迫ると手刀を放った。

 対するマクロイドは剣により受け流し、魔力を膨らませながら反撃に転じた。それにミーシャは右腕で防御の構えを取り二つが衝突。結果、剣の切っ先が腕に食い込み――つんざくような金属音が周囲を包んだ。


「さすがに、簡単には殺せないか」


 そんな中、ミーシャは淡々と呟く。腕からは、僅かながら黒い破片が飛び散った。先ほどとは異なり、ある程度通用しているようだ。


「おっと、さらに出力を上げないと駄目か」


 ミーシャは腕を見て口を開いた。直後、周囲の瘴気がさらに濃くなる。


「おおっ!」


 直後マクロイドは叫びつつ追撃を行う。まっすぐ刺突を放つと、ミーシャは紙一重で避けた。


「――はああああっ!」


 そこへ、今度はゼノンが叫び仕掛ける。それにミーシャは反応を示し、どうするか僅かに逡巡した。

 よって、俺は今しかないと感じ足を踏み出した。ミーシャはそれにすぐさま気付き、俺のことを一瞬だけ見た。


 壁を超えていないリミナだけは動いていないが……三人による同時攻撃だ。さすがにこれを防ぐ手立てはないだろう……思いながら彼女に迫る。

 最初に、マクロイドの剣戟が炸裂する。烈風の一撃にミーシャは再度腕をかざし、受けた。やはり通用していないのか、などと思ったのは最初だけ、斬撃により、またも破片が飛び散った。


 確実に効いてはいる。けれどミーシャは表情を崩さない。何か策があるのか、それとも単なるポーカーフェイスなのか――


「ふっ!」


 そしてミーシャは怪我をもろともせずマクロイドへカウンターを行う。手刀は彼のわき腹を僅かに掠めたが、傷を負うには至らない。


「技量的に、難しいかもしれないな」


 彼女は避けられたことに対しそう評する――同時にゼノンが迫り、縦に剣戟を見舞った。これにミーシャは黙って右手をかざし、手のひらで刃を受ける構え。

 果たして――剣と手のひらが衝突し、僅かながらミーシャが身じろぎしたのだが……攻撃は、通用していない。


「っ!」


 俺は間合いに入る寸前だったのだが、それを見て反射的に足を止めた。彼の攻撃が通用していない……そうである以上、俺の攻撃が効くかどうか――


「来ないのか?」


 ゼノンの剣を押し返すと同時に、ミーシャは俺に尋ねる。こちらは動けない。すると、彼女は小さく笑う。

 それを見た俺は――負けられないと一転、攻勢に転じた。さらに態勢を立て直したマクロイドが剣を向ける。


 今度は二人の同時攻撃。対応するミーシャは左右の腕で防ぎにかかった。マクロイドの剣を右、俺の剣を左。

 そして――刃が直撃。金属でも斬るかのような感触を手先から感じ取ると共に、手応えが無いと悟る。やはり、効かないのか。


「――レン!」


 瞬間、マクロイドが叫んだ。同時にミーシャを勢い任せに吹き飛ばし、俺に向け言った。


「もう一度いくぞ! それで――決める!」


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