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山頂への道

「では、馬を用意してください」


 ゼノンが言う。直後、周囲の騎士が慌ただしく動き出した。


「マクロイド殿。こちらも馬はありますから、それを使い一旦山頂付近まで向かいましょう」

「ああ、それがいいだろうな」

「救援には、私やマクロイド殿。加え……お二方も?」


 彼は俺とリミナを見ながら問う。


「ああ、二人も連れて行く」


 マクロイドは即答。対するゼノンはやや不安が残るのか、確認を取る。


「お二人は、壁を超えていると?」

「従士の彼女はまだだ。けれどドラゴンの血を所持していて……こちらの大きな助けとなるだろ」

「ドラゴン……ですか、わかりました」

「そういえば、ドラゴンで思い出したが……ノディは来ていないのか?」

「いますよ。聖剣の警護をしています」

「ノディ?」


 会話に俺が聞き返す。それにマクロイドが反応し、


「ルファイズ王国内にいる、ドラゴンの魔力を封じ込めた武具を持つ騎士だ」


 へえ、ドラゴンの武具……そういう物も存在するんだな。


「そいつもまた壁を超えた騎士……ルファイズ側も結構な面子を揃えたようだな」


 マクロイドはそこまで語ると、難しい顔をした。


「しかし擬態魔法対策が通用していない……出鼻をくじかれた形だな」

「勇者様であれば、対抗できるかもしれません」


 そこへ今度はリミナが発言。それにマクロイドは疑問を抱いたのか眉をひそめた。


「対抗?」

「その辺りは聞いていらっしゃらないみたいですね。勇者様はその擬態魔法が通用しないんです」

「レン、本当か?」

「ああ。実際演習の時、擬態魔法を透かして相手を見ることができたよ」


 それがこの場所でも通用するかどうかはわからないが……考えていると、マクロイドは強く頷いた。


「もしかすると、突破口になるかもしれないな……やはり、レンを連れて来たのは正解だったようだ」

「同じように見ることができるかわからないけど……怪しい人物がいたら、呼び掛けることにするよ」

「頼んだ」


 マクロイドが述べた時、騎士達が手綱を引っ張り馬を連れて来た。


「ゼノン、山頂付近にまだ馬はいるのか?」

「おそらくは……なので、使い潰すつもりで急ぎましょう」


 ゼノンは語ると、自身が乗っていた馬に騎乗。次にマクロイド。そして今度はリミナ――と、ちょっと待て。


「あ……」


 リミナは馬に跨った瞬間、俺のことを見て気付く。


「大丈夫ですか?」


 彼女は確認。それに俺は……試しに乗ってみる。もしかしたら経験があって、操作できるかもしれないという期待をしつつ、鞍についている鐙に足を掛けた。

 次の瞬間、俺は無意識の内に足へ力を入れ――勢いよく馬に乗った。同時に手綱を握り、操作できると確信する。


「だ、大丈夫ですか?」


 再度リミナが問う。俺はそれに頷きつつ、マクロイドへ目を移す。


「行こう」

「だな……ゼノン、案内してくれ」

「はい!」


 応じたゼノンは馬首を漆黒の道へ向ける。そして走り出し――俺達は追随し始めた。






 山越えをするといっても道自体は比較的整備されており、移動に困るようなことはなかった。とはいえ悪魔に目をつけられないよう月明かりの下で移動を行っており、暗がりにより操作に苦労する。


「レン、四苦八苦しているようだが大丈夫か?」


 マクロイドが俺の隣へ来て問い掛ける。こっちは手綱をどうにか操作しつつ、小さく頷く。


「あ、ああ。なんとか」


 体の内に経験があるので、それを引き出しつつどうにか馬を進めているような状況。これが結構大変で、しかもペースが早いためついていくのでやっとというのが今の俺。

 まあ、置いてきぼりにならないだけマシだろう……思いつつ馬を走らせる。


 山自体は標高がそう高いわけではないのだが、山頂へ辿り着くには時間が掛かっている。山道はなだらかな坂で、結構曲がりくねっていることが主な要因だ。


「しっかし、面倒な事態になったもんだ」


 馬上でマクロイドは呟く。首を一瞬だけ向けると、彼はこちらに視線を注いでいた。


「正直、英雄や戦士がいる以上、来ないと思っていたんだがなぁ」

「勝てる、と踏んでいるのかもしれない」

「よほど自分のことを過信している気がするな……まあ、奴から見れば聖剣さえ奪い取ればいいわけで、戦う必要はないんだろうが」

「もし精鋭に囲まれたら、どうするんだろう?」

「さあな。まさか突撃してくるわけじゃあるまい」


 肩をすくめるマクロイド――その時、


「来たようですよ」


 前方を走るゼノンが言う……山頂に到着したというわけではない。


「悪魔か」


 俺は呟き、彼が頭上を見上げていたため視線を上へと向ける。月明かりしかないため見えにくかったが、悪魔が滑空する姿が見えた。


「私が迎撃します。他の方はご自身の身を守ることを最優先にお願いします」


 ゼノンは俺達に言うと剣を抜く。月明かりに照らされ、その刀身が僅かに煌めき、


「ふっ!」


 迫る悪魔へと、一閃した。

 マクロイドと同様、風の刃か何かだろうか――と思ったのは一瞬。放った剣先から光が僅かに漏れ、青い一筋の剣戟と化し放出された。


 対する悪魔は身を捻って避ける。そしてなおも最短距離で俺達へ迫ろうと動いたのだが――ゼノンは同様の刃を数本放ち、その一つが悪魔の頭部に直撃、見事倒した。

 彼も強い……壁を超えていることや分隊長をしていたことを考えれば、悪魔を易々と倒せるのはむしろ当然かもしれない。


「結構数が多いですね……」


 考える間にゼノンは呻く。見ると、上空にはこちらに迫る悪魔がちらほらと存在している。


「しょうがねえな。おいゼノン、危なそうなら俺が援護してやる」


 そこでマクロイドが剣を抜く。声に反応したゼノンは首を向け、少しばかり申し訳ない顔をした後、


「お願いします」


 と告げ、剣を空へ振った。刃が生み出され、悪魔を貫く。


「しかし……この悪魔はどういう経緯で出て来たんだ?」


 マクロイドは剣を握りしめながら誰に言うわけでもなく呟く。すると、近くにいたリミナが反応を示した。


「経緯も何も……シュウさんの仲間が土地の魔力を活用して生み出したのでは?」

「いや、それはないな」


 彼は意外にも断定する。俺は驚き、思わず問い返した。


「何か理由が?」

「二人にはわからないかもしれないが、土地の魔力によって生成された悪魔やモンスターというのは、魔力の流れや質に独特の癖がある。今回戦う悪魔については、その癖が一切ない」


 言葉の直後、ゼノンの光の刃が悪魔を倒す。


「そういう癖がないような悪魔を作り上げたのか……いや、そんな偽装する理由も見当たらないし、ここは別の手段によって作り出された存在と見ていいだろ」

「他の手段とは?」


 尋ねたのはリミナ。その間にゼノンはまたも悪魔を倒す。


「俺が思いつくのは、魔族が生み出した、とかだな」

「そう仮定すると、敵の中には魔族がいることになるな」


 俺は呟き……これまで魔族と直接戦った経験がないのに気付く。


「シュウさんは魔の力に魅入られているらしいから、いても不思議じゃないけど……」

「怖いか?」


 マクロイドが面白おかしく問う。それに俺は苦笑し、


「怖くはないけど、心構えだけはしておくよ」

「それがいい。ま、安心しろよ。もし出現したら俺がどうにかしてやるさ」


 自信満々に語るマクロイド。俺はそんな彼に「頼むよ」と告げ、ゼノンに顔を向ける。

 さらに悪魔を倒しているところだった……この調子でいけば怪我も無く山頂に到達できそう――そんな風に考えつつ、俺は馬のペースを速めるべく手綱を握り直した。


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