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遺跡前の攻防

 それから幾度となく爆発音が耳に入り……やがて、遺跡近くまで到達した。その時になって金属音も聞こえてきた。騎士達が交戦しているのだろう。


「マクロイドさん! どうします!?」


 御者台のパルアが問い掛ける。するとマクロイドは僅かに思案した後、前方に移動し天幕を開けた。

 俺にも真正面が見える。遺跡に続く道のようで、明かりらしき光が前に見えた。


「そのまま突っ込め!」


 そして彼は指示する……って、大丈夫なのか?


「いいんですか?」


 パルアも不安だったのか問い掛ける。それにマクロイドはすかさず頷いた。


「この辺に停めればモンスターが襲ってくる可能性もあるだろうが。その護衛のために人員割くよりは、突撃して馬車と遺跡を同時に守った方がいいだろう」


 ……なんか無茶な方法のような気もするが……まあ、一理あるので黙っておく。


「わかりました!」


 パルアは二つ返事で応えると、手綱を握り直す。そして速度を上げ、遺跡へ一気に迫っていく。


「リミナ、レン。準備をしておけ」


 マクロイドは言うと、傍らに置いてある剣を腰に差した。俺やリミナも戦闘準備を始め、光が近づく――

 その時、馬車を阻むかのように黒い影が前方に現れた。それを見たマクロイドはすぐさま立ち上がって剣を抜き、


「悪魔か!」


 告げた瞬間、一閃した。

 彼を注視すると……剣先から魔力が発せられ、一陣の風と化し目標へ向かっていく。


 対象に視線を送る。彼の言葉通り、そこには筋骨隆々の悪魔がいたのだが――刃をその身に受け、一撃で光となった。

 力はやはり申し分ない――考えている間に、とうとう馬車は遺跡に到着した。


「これは……」


 途端に、俺は呻く。そこは紛れもなく、戦場となっていた。


 そこは周囲を森に囲まれた、土の見える円形の広場。端の方に切り株が見えたので、開拓したのだろうと推測できる。

 続いて目に入ったのは遺跡入口。広場入口から見て正面奥にあり、地面の一部分が隆起し、地下へ誘うようにぽっかりと口を開けていた。大きさは精々、大人が三人並んで入れる程度のもの。以前足を踏み入れた遺跡は入口が石だったので人工物的な印象を受けたのだが、今回は単なる洞窟のような感じで、遺跡というのは語弊があるような気もした。


 また、遺跡入口周辺には白いローブを着た調査員らしき人物がいる。彼らを純白の鎧を着た騎士が護衛し、同じような装備の騎士がそれぞれ悪魔と交戦していた。


「そのまま入口近くまで行け!」


 マクロイドが指示を飛ばし、パルアは広場のど真ん中を突破する。周囲からは驚きの声が上がり、悪魔もそれに反応しこちらを窺う気配も見せる。しかしマクロイドはそれをめざとく見つけ、風の刃を放ち悪魔に付け入る隙を与えない。

 そして遺跡入口正面で馬車が止まる。すかさず俺は下車し、周囲にいる騎士に声を掛けようとした。


「……あなたは!」


 けれど騎士の一人が叫んだ。視線の先にはマクロイド。どうやら、救援だと認識したようだ。


「悪いな、遅れて……とはいえ、結果オーライかもしれんな」


 マクロイドは呟きつつ、近くに迫ろうとしていた悪魔を風の刃で斬り飛ばした。


「レン、リミナ。状況把握の前にこいつらの殲滅だ」

「わかった」

「はい」


 俺とリミナは相次いで答え、戦闘態勢に入る。視界に確認できるのは悪魔が主だが、よくよく見るとモンスターの姿もある。青という色合いの鱗を持つ体長三メートル程の大トカゲや、翡翠のような深い緑の体毛に覆われた狼……そうしたモンスター達は、今まで見たものと比べ異質な魔力を所持しているように感じた。


「この場にいるやつらで壁を超えた能力を持っていそうなのはいない……油断しなければ大丈夫だろう」


 そんな時、マクロイドから声が来た。


「二人は連携して対処してくれ。それとパルア、お前はきっちり馬車を守れ」

「了解です」


 彼がにこやかに応じ――瞬間、マクロイドから好戦的な気配が生み出された。


「さあて……準備運動くらいにはなるか」


 ゆらりと、彼の体が動く。その間に一体、悪魔が体当たりを仕掛けた。

 大丈夫なのかと一瞬不安を覚えたのだが――彼は、即座に悪魔を正面から縦に両断する。剣戟は恐ろしく早く、知覚できるレベルを超えていた。


 やはり、強い――改めて思いながら俺は視線を戻す。近くにいたトカゲ型のモンスターが騎士を弾き、俺達へ近づこうとしているところだった。


「勇者様」

「ああ、わかっている」


 リミナに呼ばれ俺は剣を構える。そして地面を突き進む大トカゲに対し、弧の軌跡を描いた雷撃を放つ。

 大トカゲは即座に回避に移った――ようだが、雷撃の速度が一歩上回り、頭部に一撃入り光となって消えた。


「よし、次だな……」


 この調子なら案外早く倒せるかもしれない――考えながらリミナに視線をやると、槍をかざしつつ微笑を浮かべる彼女がいた。


「……リミナ?」


 思わず問うと、彼女は自覚したのか慌てて表情を戻した。


「あ、すみません――」


 謝った直後、近くに悪魔が飛来。さらに緑の狼が俺に向かって突撃を敢行する。


「リミナ――」

「私が悪魔を!」


 俺の言葉を遮るように彼女は言う。ならば――狼へ視線を送る。牙を剥き出し突進する姿を目に留めつつ、まずは牽制目的で雷撃を放った。

 対する狼は即座に身を捻り回避。そして反撃とばかりに飛び込んでくる――しかし、今の俺にとっては非常に遅いものだった。


「ふっ!」


 僅かな呼吸と共に剣を構え直し横に回避。次いで狼の頭部を下から斬り上げた。

 瞬間、狼は断末魔の悲鳴を上げ、消滅。すぐさまリミナに視線を移すと、向かってくる悪魔へ槍の先端を向けているところだった。


「炎よ!」


 直後放ったのは、魔力を凝縮した炎の槍。悪魔は魔力に反応したか腕を交差させ防御の構えを取る。

 そして両腕と炎の槍が衝突する――以前のリミナならば、槍は悪魔の腕を焦がす程度だったかもしれない。けれど今の彼女にはドラゴンの力がある。


 直撃した瞬間、悪魔の腕が消失する。そればかりか胸を貫き、悲鳴すら上がることなく光となって消えた。

 リミナにとっても、この場にいる面々は相手にならないか……頼もしさすら感じつつ、俺は彼女に視線を送る。


 その表情はやはり微笑――すると自身の顔つきにまたも気付いたか、罰悪そうに俺を見て表情を戻す。


「すいません、戦場なのに――」

「何かあるのか?」


 剣をかざし周囲の動向を見ながら問う。


「敵と戦えて楽しい、なんてわけないだろ?」

「はい……その、こうして勇者様とまた共に戦うことができて、良かったと思っているんです」


 ――彼女の言葉に、はたと気付く。そうか、俺とリミナが二人で戦ったのは、アークシェイドの本拠地戦以来だ。


「それに、今回は私もお役にたてそうです……頑張りますから」

「ああ、頼む」


 俺はすぐさま返事をすると、リミナに一つ確認を行う。


「リミナ、槍を扱うことについてはどうだ?

「まだまだだと思いますが……ここにいるモンスターは直情的な動きしかしない様子。それならなんとかなります」

「なら……俺の背後は任せた」


 指示に対し――リミナは一瞬目を見開き驚いた。けれどそれもすぐに収まり、


「わかりました。訓練の成果、お見せします」


 言って、槍を構えるリミナ。それを見て俺は力強く頷くと、来ようとしている悪魔を見据え――改めて交戦を開始した。


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