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覇者の問い掛け

 突然の話題転換に、俺としては驚くしかなかった。


「急にどうしたんだ?」


 先ほどまで敵意を示していたセシルでさえ困惑顔。それにマクロイドは至極真面目に答える。


「いや、俺としては純粋に本心を訊きたいわけだ」

「行きたいと言えば行かせてくれるのかい? というか、マクロイドは断ったんじゃないの?」


 セシルが問うと、マクロイドは小さく笑う。


「ナーゲンには言っていなかったが、正式な通達の後別の人間から請われてなぁ。お前達には悪いが、近い内に行くつもりだったんだ」

「ふうん、そう」


 セシルは彼の言葉に腕を組み、思案。


「……僕としては、行きたいわけだけど」

「お前はやめとけ」


 即答だった。当然ながら、セシルは口を尖らせる。


「理由を訊いてもいいかい?」

「悪魔やモンスター相手なら、お前も後れを取ることは無いだろう。壁を超えているため、話に聞く悪魔の力を取り込んだ人間に対しても、十分対抗できるだろう」

「なら――」

「だがなあ、お前には致命的な問題がある……武器はどうするんだ?」


 彼の問いに、セシルは押し黙る。あ、なるほど。そういうことか。


「お前、フィベウス王国で戦った時剣が破壊されたんだろ? で、ナーゲンから長剣二本で戦うよう言い渡され……今まさに、俺に剣を破壊された。そんな状況になったらお前は死ぬぞ。だからやめとけ」

「……武器か。確かに、そこは不安だね」


 多少間を空けてセシルは応じる。顔は不満を残していたが、声は納得した響きを持たせていた。


「で、セシル。お前、行くのか?」

「……わざわざ死地に歩むことも無いね。僕はパスさせてもらうよ」


 返答したセシルは、続いて俺達に視線を送る。


「で、君達はどうするの?」

「……どうするって言われても」


 唐突な展開で、俺は即答できない……が、


「この場にいる方々は、全員が行きたいと思っているはずです」


 リミナが言った……確かに、その気持ちはある。


「そうか……だがまあ、連れて行けると思ったのは二人だけだが」


 二人……? 俺達は沈黙し、言葉を待つ。セシルも気になったのかマクロイドの言葉を待ち、やがて――


「まずレン。お前は大丈夫だろう」


 と、話し始めた。


「壁を超えているのは無論のこと、剣の強度もかなりいい……というか、聞いた話だと英雄の剣だったな。それなら大丈夫だろう」


 ――リデスの剣については聞いているらしい。


「もし行きたいと思うなら一緒に連れていくが、どうだ?」


 問われ、俺は仲間達を一瞥する。フィクハやライラ……そしてリミナでさえも小さく頷いていた。

 彼女達の顔を見て、俺は決断する。無論、答えは――


「行きます」

「よし」


 力強い答えに、マクロイドは力強く頷いた。


「それで、二人目は?」

「ああ」


 今度はこちらが問うと、彼は視線を動かし、


「君だな」


 リミナを指差した。


「え……ええっ!? わ、私ですか!?」


 名指しされるとは思っていなかったらしく、リミナは素っ頓狂な声を上げる。対するマクロイドは当然だと言わんばかりに深く首肯した。


「そうだ。槍も中々の品質だし、問題ないだろ」

「で、ですが私は壁も超えていませんし――」

「そこだよ。レンやセシルもそうだが、根本的に勘違いしてないか?」


 マクロイドが言及。それに俺達は全員首をひねった。


「お、やっぱりわかってないようだなぁ……あのな、壁を超える技術というのは魔族に傷をつけたりするのが役目で、それが生き残ることと直結はしないんだぞ」

「どういうことだよ?」


 セシルが質問。すると、マクロイドは俺達を見回した後説明を加える。


「教えてもらったかどうかわからないが、相手へ攻撃を通したり逆に防いだりするのは壁を超える技術の役目。しかし相手を弾き飛ばしたり、逃げたりするには純粋な魔力強化能力が必要だ。で、だ……明らかに勝てない魔族と相対した場合、必要なのは相手に傷をつけたり攻撃を防ぐ方法じゃない」


 そこまで語ると、彼は肩をすくめる。


「勝てない相手に向かって行っても返り討ちにあうだけだ。防御するにしても生半可な結界では破壊されるのがオチだ。よって、今回の場合力任せに吹き飛ばしたり、魔力強化をフルに活用し逃げることができる……言わば戦わずして対処できる能力のある者こそ生存率が高くなる。今度の戦いで必要なのは、そういう能力というわけだ」


 ……俺達は魔族と対抗するために壁を超える技術が必要だと考えていたが、そこばっかりに捕らわれていてもまずいということか。


「この場にいる全員に言っておきたいのは、今度の警護は敵を倒すことじゃなくて剣を守ることが主目的だ。それに加え歴戦の人物達が出るとあっては、戦力面で出番がないのは間違いない。だから求められるのは、怪我をせず自力で逃げることのできる生存能力だ。セシルの場合は能力は高いが、武器を破壊されてしまうという点がまずい。ライラもそれと同様で、フィクハはそもそも単独で戦うとなると非常に危ない。けれどレンは武器の力……そしてリミナは常人には無いドラゴンの力によって対処できるだろう。その辺が、連れていくことのできる理由だな」

「……わかりました」


 俺は小さく頷くとリミナと目を合わせる。彼女は緊張を示すような硬い表情を見せていたが……やがて、頷いた。


「もし勇者様が行くのであれば……私は、それに従います」

「そうか」


 応じ、マクロイドを見る。そこで、一つだけ質問を行った。


「なぜ……俺達を連れて行こうと?」

「一応理由はあるんだが、その辺りの話をするのはパスさせてくれ」

「どうして?」

「俺の中でも意見がまとまっていないからな……ま、一つ上げるとするなら、勘だな」

「勘?」


 またずいぶんな理由だな。そんな適当で大丈夫なのか?


「なんとなく、今回の警護で二人……特にレンが必要になってくるような気がしている」

「俺が……ねえ」


 首を傾げる。そう言ってもらえるのはありがたいが、歴戦の戦士が集まる場所に活躍の機会はあるのだろうか。


「出番、あるんだろうか……」


 俺の呟きに、マクロイドは「その時はその時」と言い、


「必要無ければ退散すればいいだけだ。レン、リミナ、それでもいいなら同行するか?」


 再度の問い。そこで俺は改めて、


「はい」


 返事をした。次いでリミナも同様に声を上げ――結論は、決まった。


「ま、今回ばかりは仕方ないかな。レン、土産話よろしく」

「セシル……ピクニックに行くんじゃないぞ?」


 俺は多少脱力しながら答えた後、改めてマクロイドに目を移す。


「出発は、明日?」

「ああ。それと残った面々だが、指導する者を用意しておくから、明日もここに来るように」

「僕は別にいいだろ?」


 セシルが問う。闘技大会の覇者である以上、俺も彼については別にいいんじゃないかと思ったのだが――


「セシル、お前には特別コーチとしてアルダナを用意した」

「げ……!」


 途端に嫌な顔をする彼。


「って、ちょっと待って! あの人だって警護に行けるレベルじゃないか!」

「あの馬鹿みたいな出不精の奴が行くはずないだろうが。というわけで、頑張れ」


 ――なんだかよくわからないが、セシルは嫌な顔をしているので相性が悪いのかもしれない。

 そこでふと、フィクハとライラへ視線を送る。それにフィクハが気付き、


「ま、死なない程度に頑張ればいいんじゃない?」

「……そうだな」


 軽い口調で会話を行う――けれど、胸中では総力戦という事実を思い出し重い戦いだと感じた。

 加え、言いようもない不安が頭の中をよぎった……シュウ達は必ず来る。そんな予感が、こうした考えの原因だった――


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