表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/596

二人の覇者

 走りながら込める魔力は今までとは異なりかなり特殊……しかもブレスレットをはめた状態ではないため、僅かに力が発露する。


「……ほう?」


 マクロイドもその魔力に気付いたのか声を上げた。直後、俺は彼目掛け横に一閃した。

 果たして――渾身の一撃のつもりで放った斬撃は、易々とマクロイドの剣に当たり、止まった。あれ?


「変わった魔力の加え方だな」


 剣を噛み合わせながら、マクロイドは告げる。


「それは、英雄アレスから教え込まれた技法か?」

「……はい」

「ふむ、少なくとも壁を超える技術とは違うタイプの技だな」


 あ、やっぱりそうか。となると、結局この技は――


「魔族と戦うものとは異なる技ってこと?」

「おそらく、な……」


 何か考えがあるのか、マクロイドは剣を下ろすと俺のことを見つつ無言となる。


「あの……?」


 その反応に俺は首を傾げる他なく、周囲から発せられる、他の闘士達が剣を打ち合う音が耳に入り――


「お待たせ」


 後方から、セシルの声が聞こえた。

 あ、来たのか。振り向くとリミナ達が立つ間を通り抜け近寄る彼が。


「剣を新調してきた……マクロイド、今はどんな感じ?」

「ひとまずレンの腕を見ていた所だ……次は、ライラといこうか」

「はい」


 短く答えたライラは、剣を静かに引き抜く。そしてマクロイドはなおも俺のことを気にする様子を見せ……少しして、表情を戻した。


「レンはとりあえずここまでだ。休んでいてくれ」

「はい」


 頷き、俺はライラと入れ違うように引き下がった。






 その後、ライラに続きフィクハやリミナも打ち合った。ライラはせめて一太刀でも、という構えを見せ時に鋭い剣閃を放ったのだが、マクロイドはあっさりと防いだ。これが実力の差というものだろう。

 フィクハやリミナに関しても言わずもがな……の、はずだったのだが、リミナについては少し違った。


「やあっ!」


 戦士ではないとリミナは前置きしたのだが、マクロイドは構わないと言い、槍を差し向けた。で、それを彼は受けたのだが――


「おおおおっ!?」


 驚愕と共に、後方にすっ飛んだ……おいおい。

 しかも盛大に背中を壁に打ち付ける。大丈夫か、これ?


「だ、大丈夫ですか!?」


 リミナが構えを崩し慌てて駆け寄る。するとマクロイドは手を向け彼女を制す。


「怪我は無い……いやあ、すまんすまん。ドラゴンの力が入っているのはわかっていたんだが、ちょっと甘く見ていた」


 戦場でこんなことになれば命取りだと思うのだが……まあ、実際悪魔なんかと戦う時は、大丈夫か。彼だって闘士であり、覇者だから。


「しかし、その力は目を見張るものがあるな……上手く御すことができれば悪魔なんかも力だけで倒せるぞ。本格的に戦士となるつもりはないか?」

「お断りさせて頂きます」


 丁寧に返答するリミナ。一片の迷いも無い声音だったので、マクロイドも「すまん」と言い、引き下がった。


「よし、それじゃある程度わかったから、そろそろ相手を決める……が、その前に一つ訊きたい――」

「ちょっと待った」


 そこで、今度はセシルが呼び止めた。


「僕とはやらないの?」

「お前の技量なんてわかりきっているだろう。戦うだけ無駄だ」

「何? 僕の方が上だから勝負する必要は無いって?」


 なんだか喧嘩腰なんだけど……どうしたんだ?


「……ほう、お前がそんな舐めた口きくとは」


 対するマクロイドもなんだか険悪な態度……やはり闘士同士そりが合わないのだろうか。いやでも、周囲の人達は普通に会話をしているし、仲が良い姿も見える……あ、そうか。


 闘技大会の覇者同士だから、こんな雰囲気なのか。


「セシル、お前は少し俺を見くびり過ぎじゃねえか? 言っておくが、ナーゲンの指導でようやく壁を超えたお前は、まだ俺の敵じゃあ――」


 瞬間、凄まじい速さでセシルは剣を抜き、二筋の斬撃を見舞った。けれどマクロイドはすかさず反応。斬撃をあっさり弾くと、警戒を込めて一歩後退する。


「やれやれ……お前はもう少し、好戦的な性格が収まればなぁ」

「言っておくけど、僕はナーゲンさんの言葉だから従順に頷いただけで、あんたの下で訓練するなんてまっぴらごめんだ」


 セシルは宣言すると、右手に握る剣の切っ先をマクロイドへ向ける。


「ここで決着をつけないか? 僕があんたより上だと証明できれば、ナーゲンさんにも訓練しなかった説明ができるしね」

「……やれやれ」


 マクロイドは歎息すると、俺達を一瞥する。


「すまんが、少しばかり待ってもらえないか?」

「え、あの……」

「レン、まさかやめろとは言わないよね?」


 セシルからの言葉。殺気がこもっており、思わずたじろぐ。


「ま、こうなっちゃあこっちも黙っていられないからな」


 その間にマクロイドは好戦的な笑みを宿し、戦闘態勢に入る。二人を見て、残りの俺達は数歩分、その場から引き下がった。


「……二人の間だけ空気が違いますね」


 横にいるリミナが呟く。確かに、広い訓練場の中で二人の間だけ空気が黒い。一般人が近づいたら、気絶してしまいそうな雰囲気。

 両者はそこで無言となり――マクロイドが剣先をセシルへ向け、空いている左手で挑発するように手招きをした。


 それにセシルは反応――直後、一気に彼は間合いを詰めた。

 俺は無意識の内に意識を集中させ、二人の攻防をつぶさに観察する。セシルの剣が連撃を放つべく左右に開き、対するマクロイドは剣を両手持ちにすると大きく息を吸い込んだ。


 そしてセシルの剣がマクロイドを左右から襲う――それこそ、相手をバラバラにしそうな勢い。完全に殺す気でかかっているのがわかる。

 対するマクロイドは、先に到達しそうになった右腕の剣へ自身の刃を向けた。刹那、その剣戟を容易く防ぎ、さらに剣を引き返し左の剣を弾くべく動く。


 セシルも速いが、マクロイドも負けてはいない……いや、難なく捌いている。しかも彼は一本の剣で。剣を引き戻し反対側の剣を防ぐという行動を考えると、彼の方が速いのではと思う――


 マクロイドの防御によって、セシルはたまらず後退した。左右からの同時攻撃を防がれてしまい、彼は苛立った表情を示す。

 そうした状況下で、マクロイドが告げる。


「速度はかなりのものだ。だが、魔力強化の度合いが俺よりも低い現状で、速度で俺を上回ることは――」


 言葉の途中でセシルが動く。あくまで双剣を差し向ける。

 マクロイドはすかさず反応。僅かばかり刀身から魔力が発せられ――勢いよく、振り抜いた。


 結果、右腕の剣と衝突すると突如剣が砕かれた……いや、むしろコナゴナに。


「うわっ!」


 これにはさすがのセシルも後退。どうやら、これで勝負あったようだ。


「ほら見ろ、そういう結果になる」


 マクロイドは悠然と語り、剣を鞘にしまった。


「お前の場合は特に剣が問題だな。良い武器を見つけないと、話にならない」

「……わかったよ」


 どこか悔しそうにセシルは言うと、剣をしまう。朝新調したのに、もう変えないといけなくなった。


「さて、話を戻そう」


 そして、マクロイドは俺達に首を向ける。あ、そういえばさっき何か言い掛けていたな。


「訓練を行う前に、一つ訊きたいことがある」


 改めて切り出すマクロイド。俺達は黙って彼の言葉を待つ構えを取り、


「ここにいる人間の中で、聖剣の警護に行きたいと本気で考える者はいるか?」


 予想外の言葉が投げかけられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ