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聖剣の謎

「英雄が持っていた剣の所在は、彼自身の所在と共に大きな謎だった」


 ――俺達は、闘技場内にある客室でナーゲンから詳しく話を聞くことになった。ちなみにガラス製のテーブルを挟んで上等なソファが三つずつ向かい合うようにして置かれている部屋。なおかつ窓の外からは闘技場の舞台が見下ろせる……VIP席なのだろう。

 位置関係は俺とナーゲンが向かい合うように真ん中に座り、右にリミナ、左にフィクハ。向かい側は俺から見て右にセシル。そして左にライラが座って話を聞いている。


「魔王を滅ぼした後、英雄と名のついた者達は各地に四散した。その中で所在がわからなかったのは根無し草であったリデスと、アレスの二人。リデスはまだ公の場に出ていたため色々な話が出ていたが、アレスについてはほとんど情報がなかった」


 そこまで語ると、彼は大きくため息をつく。


「……アレスの件はセシルから聞いたよ。さらに後日、国からの正式な報告も来た……大変、残念だ。そして結局、どこで暮らしていたかなど、わからずじまいだ」


 彼の言葉を聞き、俺は仲間達と目を合わせた。リミナは小さく頷き、フィクハも同意するように、


「いいんじゃない?」


 一言。それにナーゲンは首を傾げる。


「どうしたんだい?」

「……英雄アレスの件ですが、わかったことがいくつかあります」


 俺は前置きをして、彼に夢のことを語った。まあ、具体的な地名などが出てこないので、アレスが暮らしていた場所を探す手掛かりにはならないのだが――


「ふむ、そうか。個人的には奥方と娘さんの所在が気になるな」

「けど、現時点で確かめる術はありませんね」

「分かり次第調べればいいと思うよ。で、こちらが現状把握できていることは――」


 ナーゲンは言うと、天井を見上げ思考しながら話す。


「一番重要なのは、ザンウィス殿に聖剣の鞘を渡したことだ。話によるとその時点で所持していた剣は聖剣ではなかった……そして、今見つかった」

「どこにあったんですか?」


 リミナが問う。ナーゲンはすぐさま彼女と目を合わせ、答えを告げる。


「ルファイズ王国の、とある遺跡だ」

「……え?」


 俺は驚いた。遺跡?


「そう、遺跡……の、前に。レン君、セシルから記憶喪失だと伺っているんだけど、ルファイズ王国ってわかる?」


 問われ、俺は首を左右に振る。


「よし、その説明からだね。えっと、ベルファトラスの東側にある国で、大陸一の領土を保有する国だ。さらにはその領土に準じ、軍事力も多大に保有している」

「そうですか……で、その場所から剣が?」

「そうだ。ルファイズ王国西部にある遺跡を調査していた時、偶然剣が発見された。それを解析した所、英雄アレスの聖剣だと判明した」


 と、ナーゲンは語り、指を二本立てる。


「ここで疑問点は二つある。一つは、なぜ遺跡に聖剣があったのか……その遺跡は、魔王との戦争で魔族が作った地下要塞だ。なぜそんな場所に聖剣が置かれていたのか」

「魔族が奪ったということでは?」


 フィクハが問い掛ける。するとナーゲンは肩をすくめた。


「そうだとしたら、遺跡なんかに置くより魔界に持ち帰るはずだ。それなら永久に人の手に渡ることも無い」

「それもそうか……で、二つ目は?」

「彼はなぜ、聖剣を手放したのか」


 ナーゲンの言葉に、俺達は沈黙する。


「話によると、アレスはフィベウスに行く前にザンウィス殿に頼んで勇者を見つけるべく行動していた。それに鞘を用いること自体はなんら不思議ではない。けれど、剣の方まで手放すというのは、どう考えてもおかしい」

「何か理由があったということなんでしょうが……」


 フィクハが述べ、首を傾げる。


「聖剣を手放す理由なんて、思いつかないかな」

「しかも、真実を知るのは非常に難しい。唯一知っていそうなのは、シュウくらいだが……」


 ナーゲンは言葉を濁す。何が言いたいのかはわかり切っていた。


「……いずれにせよ、聖剣は見つかった。まだ公にはされていないため、くれぐれも口外しないように」

「わかりました」


 俺は頷き――同時に一つ、懸念を抱く。


「あの、ナーゲンさん」

「ん、何?」

「その、戦士団演習中に襲撃された時、相手は一つ予言をしました。近い内に会うだろうと」

「その話は聞いているよ。実際、私に聖剣移送時の警護依頼が来ている……転移魔法を使えれば良いのだが、ルファイズ王国は防衛上の理由で転移魔法の使用が全面的に禁止されていて、設備もない。よって、人員を集め移送することになる」

「それが、予言のことだと?」


 聞き返すと、ナーゲンは頷き俺達をぐるりと見回した。


「フロディアを始め、戦士団の面々も同じ見解だ。つまり彼らは遺跡から聖剣を見つけ出したことを内通者によって知り、それについて言及した……もっとも、なぜほのめかすようなことをしたのか……聖剣を奪うだけなら、知らんふりをしたまま襲撃すればいいはずだ」

「そこに人々を集めたかったんじゃないの?」


 セシルが発言。それにより、俺達は視線を注ぐ。


「ほら、聖剣を奪うのと同時に、厄介なルファイズ王国の騎士団を倒したいとか」

「倒したいって?」


 首を傾げる俺。対するセシルは「あくまで仮定の話」と前置きをして、続けた。


「戦士団を演習時潰そうとしたように、今度はルファイズの騎士団を標的にした。次の行動をほのめかすことで騎士を集め一網打尽にしようと考えた、とか」

「……無茶苦茶な話だと思うんだが。リスクが高すぎるだろ? そんな作戦普通するか?」

「あの人なら、やりかねないかな」


 俺の反論に対し、今度はフィクハが口を開く。


「リスクを顧みず敵をおびき出し一ヶ所に集結。そこに魔法を撃ちこむ……シュウさんは悪魔やモンスターを退治する時、よくそうやって戦っていたよ」

「それを、騎士団相手にやろうっていうのか?」

「かもしれない……けど、大陸最強と謳われるルファイズ王国の騎士団相手に実行しようとするのは、何か策があるのか……それとも……」

「どちらにせよ、彼らが来る可能性は高いわけだ」


 会話に、ナーゲンが口を挟む。そして話を強引に戻す。


「ここで議論していても始まらないし、一旦やめにしよう。それで、私は依頼を請け明日には出発する。で、セシル」

「はい」

「明日からの訓練はマクロイドが見ることになっている。レン君達にも紹介するように」

「わかった」

「……お一人で、行くんですか?」


 思わず尋ねた。口上からセシルも行かない様子だが――


「ああ、そうだよ。ベルファトラスからは私一人。マクロイドも候補に挙がったが、最終的に私だけだ」


 そう言うと、ナーゲンは微笑を浮かべる。


「君達も当事者……よって、同行したいという気持ちが少なからずあると思う。けど、大変申し訳ないが今回出番はないよ。なぜなら――」


 彼は一拍置き、俺達に告げた。


「今回はルファイズ王国にいる現世代の騎士。さらにフロディアやアクア。さらにルルーナやカインに加え、他にも現世代の戦士や魔王と戦った人物……そういう人達が出てくるからね」


 ――聞いた瞬間、肌が粟立った。戦力が集結する……そしてそれは間違いなく、総力戦。


「聖剣の重要性を考えた末の結論だ……よって、君達まで出張る必要は無いよ」


 ――柔らかい口調だったが、俺は足手まといだと言われているような気がした。ナーゲンを見返すと相変わらず微笑を浮かべ、先ほどの言葉が本心かどうかを察することはできない。

 リミナやフィクハ。ライラも同様に思っているのか良い顔はせず……そうした中、ナーゲンは態度を気にも留めず言った。


「さて、マクロイドには明日から訓練を行うよう通達しているから、レン君達は今日一日休むといい。旅の疲れもあるだろうし、何より明日からの厳しい訓練に備えないといけないからね――」

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