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新たな技

 セシルが剣を振ると同時に、俺は相対するべく剣を放つ。双方の剣が噛み合い、セシルは衝撃の反動で腕の動きが鈍る。

 やはり、単純な力勝負では俺の方が強いようだ……けれど力任せに勝負はせず、剣を弾き防戦に回る。対するセシルは連撃を加えるべく動く――と思いきや、やや速度を落とし攻撃する。様子見、ということだろうか。


 その攻撃を、俺は難なく(さば)く。反撃に転じようか一瞬迷うが……ひとまず剣を弾くだけに留める。

 するとセシルは動きに警戒を抱いたか、一歩下がる。ずいぶん慎重な反応――


「守りを優先する構えだね」


 彼が、ふいに口を開く。


「あわよくばカウンターを決めて……とか、考えているのかい?」

「……そこまでできるとは思っていないさ」


 問いに俺は応じつつ、次の手を考える。もしセシルが攻勢に転じれば、こちらも相応の手段を取る必要が出てくる。


「そう、なら――」


 セシルは呟き、走る。先ほどまでとは異なる鋭い動き――同時に、俺は半ば反射的に左腕に魔力を集中させた。

 それに彼は気付いたのか僅かに目を細める。しかし攻撃は止まらず、左手の剣が俺へ放たれる。こちらはそれを受け流し後退。


 続いて右手の剣。それを防ごうかと俺は剣を構え直した――直後、引き戻した左の剣が向かってくる。

 同時攻撃――当然手数の少ない俺は不利。力で弾き返すという選択もあったが、いくら俺の方が上であっても、セシルが目論見通り吹き飛んでくれるとは思えなかった。


 だから、俺は新たに習得した技法を用い、左腕をかざす。


「っ!」


 セシルは短く呻いたが、構わず両の剣を振り抜く。それに対し俺は剣で左の斬撃を防ぎ、右の攻撃に対しては――


「――なるほど、そう来たか」


 セシルが感嘆の声を上げる。同時にナーゲンや、ライラを除く仲間達の視線が集まるのを感じた。

 彼が放った右の斬撃――それを、俺は左腕に形成した氷の盾によって防いでいた。






 ルルーナやカインから地獄の訓練を受けていた時、一つ指摘を受けた。


「貴殿の攻撃能力は、現時点でも強力だ。反面、防御についてはかなり甘い」


 確かにこれまで、俺は剣に力を注ぐ手法ばかりを強化してきた。逆に防御についてはほとんどやっていない。

 ちなみに俺は無意識の内に攻撃を防ぐため、膜のような結界を張っているらしい。けれどルルーナ達から言わせればそれは最低限のものであり、シュウ達と戦っていくには心許ないとのことだ。


「貴殿は強力な一撃を持っている。それを活用するには攻撃を防ぎ切りカウンターを狙う、といった手法も有効になってくるだろう。戦略の幅は多い方がいい。というわけで、早速防御のやり方を考えよう」


 ――結果、考案したのがこの氷の盾だ。


「確かにそれなら、手数勝負でも互角かもしれない」


 セシルが言う。俺と彼は剣と盾を交錯させたまま、しばし動きを止める。

 俺の左腕は、手の先から肘まで凍りつき三十から四十センチ前後の氷が四角形の盾を成していた。無論、腕が凍らないように処置は行っている……正直、それを制御するのが一番大変だった。


 大盾ではないので体全体を守れるわけではない。しかし、剣を防ぎ捌くのであれば十分な大きさ――


「ふっ!」


 セシルが僅かな呼吸と共に俺を押し返す。こちらはそれに身を任せ後退し、

 彼からの連撃が始まった。それまでとは一変し、かなりの速度領域。


 瞬時に、俺は意識を集中させ相手の斬撃を読もうと動く。そして怒涛のごとく押し寄せる斬撃に対し、全身全霊で応じた。

 剣の衝突が始まる――周囲には轟音と呼べる金属音が響き、俺の耳を揺らす。けれどそれも少しすれば収まり、意識がセシルの剣にだけ向けられる。


 握っている剣で攻撃を防ぐと、セシルから間髪いれずに刃が来る。それを盾で防ぎ、次に来た攻撃を剣でいなし、時折反撃を試みる。けれどセシルも双剣で防ぎ、両者一歩も譲らない勝負となり始めた。

 やがて俺の目にはセシルしか入らなくなる。攻撃を防ぎながら相手の一挙手一投足を観察し、次どのような攻撃が来るのかを予測し、叩き落す。一つ斬撃が衝突するたびに腕に僅かな振動が伝わる。けれど、俺はそれを魔力によって押し殺し、隙を作らないようにする。


 そうした攻防は、恐ろしい程長く感じた――けれど実際の所、長くて数分だろう。限界まで意識を集中させた結果、時間の流れが恐ろしい程遅くなった気がしただけだ。

 その中どのような決着となるのか、少しだけ考えた……どちらかが体力切れになるのか、それとも一瞬の隙を突いてどちらかが一撃加えるのか。俺は戦いの結末を予想しながら、セシルの剣を勢いよく弾いた。


 その時――彼に綻びが生じた。弾いた左の剣の刀身にヒビが入る。それを視界に映した瞬間――セシルも気付き、後退した。

 均衡は崩れ、すかさず俺は追撃を行う。放ったのは右から左への横一閃。セシルはすかさず左の剣で受けた――瞬間、さらに剣にヒビが生じる。


 打ち合っていて限界を迎えた――断ずると、俺は一気に振り抜いた。それにより刃が剣に食い込み、とうとう半身から先を両断する。

 その間にセシルは退避し、距離を置く。いける――俺は心の中で思うと、決めるべく足を前に出そうとした。


「そこまで!」


 けれど寸前に、ナーゲンから声が掛かる。俺は動きを止め、彼に視線を移す。

 ナーゲンは神妙な顔つきで、地面に落ちた刃を眺めていた。


「やっぱり、もっと強力な剣じゃないと無理そうだなぁ」

「……ですね」


 セシルが同意。剣の耐久性のことを言っているようだ。


「ふむ……やはり検討する必要があるな。よし、これで決闘は終わりだ。レン君、ありがとう」


 そして唐突に終了宣言。戦闘態勢に入ったままの俺は拍子抜けして、セシルを見る。

 彼はやや不満そうな顔を見せていたが、俺の視線に気付くと見返し、問い掛けた。


「何? まだ戦いたい?」

「……いやいや、そんなことはないぞ」


 慌てて首を振る。けれど心の内では決着をつけたかった気も――


「この続きは、統一闘技大会の決勝戦で」

「……出る気はないぞ?」

「強情だね……ま、その話はいいか」


 と、セシルは剣を鞘に収める。


「レンには言っていなかったけど、今回の決闘は僕が使う剣の強度を確かめる意味もあったんだよ」

「強度?」

「フィベウス王国でイザンと戦った時、僕の剣が壊れただろ? ああした相手と戦っている時、武器が駄目になってしまったら僕は死ぬだろう。だから、こうして色々と対策を講じているわけ」

「そうなのか……で、結果としては要検討か」

「そうだね」

「これは例の物をもらうしかないかなぁ」


 ナーゲンがそこで呟くように言う……例の物?


「ナーゲンさん、さすがにそれは無理じゃない?」

「わかっているよ。冗談で言ったみたまでだ」

「それに、もしそれを使うとしたら、レンの方がいいんじゃないかな」


 こちらに話を振るセシル。俺は話が理解できず、首を傾げる他ない。


「何の話ですか?」


 俺の胸中を代弁するかのようにリミナが問う。それにナーゲンはにっこりしながら答えた。


「英雄シュウとの戦い……君達も、情勢が悪化しているのはわかっているはず。けれど、悪いことばかりじゃない。最近、彼らとの戦いを有利に進められるであろう武器が発見された」

「それは?」


 再度リミナが問うと、ナーゲンは一拍置く。そこで俺は彼に視線を送る。フィクハやライラも目を向け――彼は、答えた。


「つい最近……英雄アレスが魔王と戦った時持っていた聖剣が、見つかったんだよ」

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