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決闘開始

 ひとまずセシルとライラが自己紹介を行い、闘技場の中に入る。そうして案内された場所は、闘技場の地下だった。


「ここは訓練場も兼ねているんだよ」


 案内するセシルからそういう解説が行われる。


「闘技場は滅多なことでは使用しないけど、ここの施設は広いし、何より英雄が指導してくれるから結構人が訪れる」

「今もやっているのか?」


 俺の問いに、セシルは首を左右に振った。


「さっき人の出入りがあっただろう? 今日の訓練が終わったから、引き上げたところだよ」

「セシルも?」

「いや、僕はナーゲンさんに用事で来ていただけだ」

「そう、か」


 そこで俺は、今から会うことになるナーゲンという英雄を想像し、呟く。


「どんな人なんだ?」

「ん? 見た目は……そうだな、もし出会えば戸惑うかもしれない」

「戸惑う?」


 聞き返した時、セシルは俺達を一瞥する。


「この中で英雄ナーゲンを見たことがある人は、いる?」


 問いに、ライラが手を上げる。


「お、どこで?」

「……団長共にここに来たことがある」


 口調は以前のようにしっかりした、対外的なものへと変わっている。


「そっか。となると僕の言ったことがわかるだろ?」

「ああ」


 頷くライラ――そこで、俺はライラに対してもセシルの口調が変化していないことに気付く。まあ、俺なんかに対してはフランクな口調だし、隠す必要はないということなのだろう。


 そうした会話を続ける内に、俺達は開けた空間に到着した。結構広く、学校の体育館くらいの広さと天井の高さを持っている。

 加え、そこらじゅうに魔法による明かりがあって昼のように明るい。そして天井や壁面は石でできており城に近い灰色――正直、まぶしいくらいだった。


「奥にいるのがナーゲンさんだよ」


 そしてセシルからのコメント。視線を転じると、俺達が来た入口に対して反対側に、彼の言う人物が立っていた。他に人がいないため、自然と彼に意識を集中させる。

 遠目からの感想としては、好青年――それも、見た目結構若い。


 やや細めで茶髪の男性は、一目見て二十代後半にも見えた――これはフロディアと出会った時と同じような印象。

 だがその後はまったく違う。体つきは細身で、とても戦士には見えない。むしろ杖をかざし魔法を唱える方が似合っていそうな雰囲気。ここは魔法使いのフロディアに抱いたイメージとは、真逆。


「ナーゲンさん、お客さんです」


 セシルが呼び掛ける。すると彼は手を振った。


「ようこそー」


 呑気な声が、俺の耳に届く。声も青年然としていて、俺はセシルの言葉通り戸惑ってしまう。


「イメージとずいぶん違ったみたいだね」


 セシルが横槍を入れる。俺はまさしくと思い、コクコクと頷いた。

 やがて俺達は彼に近づく。遠目で見た時と印象は変わらない……いや、一つだけ違う。至近距離からの放たれる銀眼の視線は、温和な雰囲気とは裏腹に、やや硬質だった。


「彼らは?」


 ナーゲンが問うと、セシルが一礼し答える。


「以前お話していた、勇者レン一行です」

「ああ、そうか。ようこそ、ベルファトラスへ。話しはセシルから伺っているよ」


 にこやかに彼が言う。俺は「はい」と短く答えた後、リミナ達を紹介しようと口を開く。


「後ろの三人は――」

「いや、説明はいらないよ。勇者フィクハに、ルルーナの妹であるライラ……そして、君は勇者レンの従士だね」


 と、彼――ナーゲンは興味深そうにリミナを見る。


「ふむ、槍か……ドラゴンの力により、アクアに持たされたというわけか」

「事情は、知っているんですか?」


 フィクハが尋ねる。するとナーゲンは「うーん」と唸った。


「戦士団のことや、フロディア達が動き出した、くらいの話は国を通して把握している。おおよその概要であるため、彼女の装備が変わった、といった細かい点はわかっていない」

「そうですか」


 フィクハは納得し、沈黙。そこで、ナーゲンが話を戻す。


「で、レン君……来た以上、これから訓練に入るわけだが、その前に君の実力を知っておかないといけない。君の能力がどの程度か見ないと、適切な訓練を施せない」

「それはわかりますが……俺だけですか?」

「他の人達も見るよ。けれど君の場合は……実力的にもセシルと戦わせるのが面白いと踏んだわけだ」

「レンは実戦になると真価を発揮するし」


 これはセシルの言。おそらく、そういう方法が良いとナーゲンに吹き込み、彼も頷いたのだろう。

 どう考えても逃げられなさそうだ……なら、割り切るしかない。


「わかりました」

「よし」


 セシルがガッツポーズ。完全に乗せられた感はあるが……ここまで来た以上、仕方ない。


「では早速だけどいいかい?」


 ナーゲンの問い。唐突な展開だが、訓練のためにさっさとやってしまった方が良いだろう。


「はい、大丈夫です」

「では、広間の中央に行き、向かい合い立ってくれ。あ、武器はそのままでいい。通常の武器でどこまで戦えるか確認するから。そして他の三人は私の後ろに」


 テキパキとナーゲンが指示。俺は無言で彼に従い歩き出す。その後ろをセシルが追随し……そこはかとなく、殺気を感じる。

 力を見定める、などと言ってもセシルはきっと本気だろう……これは、俺も訓練の成果を発揮し、対抗するしかなさそうだ。


 広間中央に到達すると、振り向く。意気揚々と俺を見据えるセシルと目が合う。

 遅れて、ナーゲン達がやってくる。彼らは俺から見ての左に立つ。柔道なんかの試合で主審が立つような感じだ。


「では、双方構え」


 言われ、俺は抜剣。セシルもまた長剣二本を抜き放つ。

 彼の変化は、その獲物。リーチが長くなったことは、かなり厄介だ。


 その時、再度セシルと目が合う。剣を見て警戒するのを悟ったのか、彼は小さく肩をすくめた。


「――始め!」


 そして、号令が掛かる――直後、セシルの体が俺へ向け疾駆した。相変わらずの速度。加えて二本の長剣を交差させ、俺へ放つ。

 こちらは両腕に魔力を収束させ、正面から受ける。瞬間、部屋全体を震わせるような金属音が拡散する――結果として、セシルのクロスさせた剣戟を俺が両手持ちの剣で受け切った形となった。


 刹那、セシルが小さく笑みを浮かべる。このくらいはさすがに防ぐか……そんな心情を抱いているように見える。

 続いては、俺が動く。魔力を腕に込め押し返すと、後退し距離を置く。さらに右腕に力を集め……ここからは、訓練の成果を発揮させる。


 なおもセシルは俺へと迫る。最初に放ったのは右腕。間合いスレスレから放ったその一撃に加え、追撃を掛けるべく左腕が動くのを視界に捉える。

 もし右だけを防げば左が来る――けれど、俺は右の攻撃に対し剣を薙いだ。そして剣が触れた瞬間、セシルの剣を大きく弾き飛ばす。


「っ!?」


 彼が呻くのが聞き……同時に、俺は間合いを詰めセシルへ剣を放つ。けれど彼は左手の剣で受け流すと、数歩後ろに下がりつつ体勢を立て直した。


「やっぱり、一筋縄じゃいかないな」


 セシルはかなり嬉しそうに言う。同時に、横にいるナーゲンが俺を興味深そうに見ているのが視界に入った。

 どうやらナーゲンは気付いたらしい――先ほど使用したのは、ルルーナから学んだ技法だ。演習後の訓練により魔力の流れを統一し、それを相手の剣と衝突する瞬間一気に放出した。そうすることで、大きな衝撃を与え剣を弾き飛ばすことができる。


 とはいえ、こればかりでは対応されるだろう……セシルを倒すためには別の手段が必要となるのは間違いない。


「一撃で敵を倒す君のスタイルから考えると、僕の一撃は通用しないと考えてよさそうだね」


 そこでセシルは述べる。加え、腰を低く落とし前傾姿勢となる。


「次は耐えられるかな?」


 彼は言う――何が来るかわかっていた。ここからは手数勝負に持ち込む気だろう。セシルが持つ剣速で放たれれば、防ぐことは難しい……はずだった。

 俺は無言で剣を構え直す。その態度にセシルは表情一つ変えず、動いた。


 先ほど以上の速さで間合いを詰め――俺は迎え撃つべく、剣に魔力を注いだ。

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