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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
闘都進行編

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出会った後

 残された俺はひとまずリミナへ視線を移す。椅子に座る彼女はこちらと目を合わせ、一言。


「座りますか?」

「……ああ」


 俺は問い掛けに返事をすると、リミナと向かい合う椅子に着席。


「ライラさん、大丈夫でしょうか。最後の最後まで怯えた様子でしたけど」

「慣れてもらわないと一緒に旅なんてできないし、頑張ってもらおう」

「わかりました……ところで、部屋割りどうします?」


 問われ、俺は口をつぐんだ。


「私はどのようにしても構いませんが」

「……俺の意向に従うってことか?」

「それは、まあ」


 返答しつつ視線を逸らすリミナ。


「別に勇者様が何かをすると思えませんし」

「信用されているのか、それともヘタレ扱いされているのか……」

「ヘタレ?」


 首を傾げるリミナ。言葉の意味が理解できないらしい。


「わかりやすく言うと、根性なしかな」

「根性なし……いえ、そういう意味で言ったわけでは……」


 リミナは何を言いたいのか理解したらしく、苦笑し小さく首を振る。


「もちろん、信用しているんですよ」

「そっか……夜までに考えておくよ」


 呟き、ふいに沈黙が訪れる。外からは通りの声や物音が聞こえてくるため無音というわけではないが、室内は凛とした空気に包まれる。 


「……こうして」


 そんな中、リミナが俺に告げた。


「こうして、また魔法使いとしてやっていけるのは勇者様のおかげですね」

「突然どうした?」

「いえ、今改めて思っただけです」


 そう語り、笑みを浮かべる。それはずいぶんと鮮やかで、俺としては嬉しくなる。


 ――シチュエーション的に色々とできそうな気はするのだが、何もしないことを頭の中で決議する。別に度胸がないとかそういう意味じゃないぞ。

 同時に、これは好機だと悟る。街に向かう途中で考えたことを伝えるべきだと思った。


「……リミナ、ライラから一つ言われたことがある」

「何でしょうか?」

「現状、俺は勇者レンの夢を見るようになった。そしてライラには記憶喪失だという風に伝えているんだけど……何か過去を知れば、それをきっかけにしてさらに思い出すのではないかと言われた」

「一理ありますね」


 リミナは同意を示す。


「よくよく考えてみれば、体に経験が残っている以上記憶だって残っているはずですね」

「そうだな。で、勇者レンの過去と言っても基本的に知っているのはリミナくらいしかいないわけで」

「そう言われても……私は知りませんよ?」

「いや、勇者レンの過去じゃない。出会って以後のことで詳しく話していないことがあるだろ?」


 問うと、彼女は思案し――すぐに察したようで声を上げた。


「私が従士になるまでの話ですか?」

「そうだ。大金を出してリミナを助けたわけだから……勇者レンの過去に関わる重要なヒントが隠されているかもしれない」

「そうですね……わかりました。お話します」


 頷くリミナ。俺は「頼む」と告げ、言葉を待つことにした。


「……なんだか、改めて話すとなると緊張しますね」

「そうか?」

「はい……それに、これまで旅をしてきて結局詳しく説明していなかったのも、なんだか変です」

「きっかけもなかったからな。それに、これまでは記憶探しよりも他にやることがたくさんあった」

「そう、ですね」


 思う所があるのかリミナは苦笑。きっと毒を受けた時のことを思い出しているのだろう。


「では、改めてお話します。えっと、前どのくらいまでお話したんでしたっけ」

「勇者レンと出会った時だけ。その後のことは概要のみだ」

「そうですか。では、出会って以後のことを話しましょうか」

「ああ」


 頷く俺に、リミナはほんの少し思案する素振りを見せ――やがて、口を開いた。






 ――リミナは悪魔を討伐しようとして逆に殺されそうになり、それをレンが助ける形となった。そしてリミナ自身怪我を負っており、レンに止血をされ村に戻ることになった。


「歩けるのか?」


 確認に対し、リミナは頷き無言で歩を進める。肩の痛みはかなりのものだったが、歩く速度は通常と変わらない。

 目的地はモンスター掃討を依頼した近隣の村。悪魔と交戦した場所からそれほど距離もない。そして依頼自体はきちんと成功しているので報告に行ける。


 ――本来なら傷口が開かないようゆっくりと動くのが普通だ。けれどリミナは痛みを一切感じず、助けられた恩すら一切考えず、ひたすらレンに対する恨みのような感情を生じさせ、胸を焦がしていた。


 当時のリミナは自身が優れた魔法使いであり、ああした悪魔も倒せると自負していた。先ほどの戦いもきっと傷を受けなければ魔力収束も滞りなくできて、悪魔を滅ぼせた――そんな言い訳じみた考えが頭の中にあり、レンに礼を述べることすら忘れていた。


「おい、無理はしない方がいい」


 レンが横に来て告げる。対するリミナはそっぽを向いた。


「……俺、何かしたか?」


 さらにレンが問うと、リミナは一瞥し困った顔をしている彼と目があった。

 同時に言いようもない感情が湧いて出て、すぐさま顔を戻す。


「……歩けるというのなら、俺は何も言わないけど」


 彼が言った――リミナは呆れた声音だと思い、感情を刺激されてしまった。

 

「――なぜ」

「ん?」

「なぜ、助けたの?」


 (にら)むような視線を伴い、リミナは問う。対するレンは、まず目を白黒とさせた。


「なぜ、って……?」

「あのまま戦っていれば、私は悪魔を倒せた。なのに、なぜ助けたの?」


 強い言葉でレンに問う。そこで――リミナは彼の名すら聞いていなかったことを思い出す。


「……倒せた、か」


 レンはリミナの言葉を反芻(はんすう)する。加えて、問いを吟味するように口元に手を当てる。


「そう、かもしれないな……けど、俺が来た時は危ない状況だったから助けたまでだ」


 彼は言って肩をすくめた。


「死んだら寝覚めが悪いし」

「……そう」


 リミナはイラついた感情を抑えつつ、レンから前へと視線を戻す。


 少しして、前方に村が見えてきた。入口付近に農夫の姿が見え、リミナは小さく息をつく。


「ひとまず、仕事は終了ね」


 呟くと同時に、左肩の痛みが腕全体に広がってきたのを自覚する。先ほどまで気を張り詰めていたせいであまり考えなかったのだが――


「大丈夫か?」


 顔に出ていたのかレンが尋ねる。それにリミナは頷くと、


「そういえば、名前訊いていなかった」


 気を紛らわすべく、レンへ言った。


「名前……ああ。俺の名は、レンだ」


 答えた瞬間、リミナは最近噂になっている同名の勇者を思い浮かべた。認可勇者でもないのに、進んで討伐依頼を請ける人物――


「あの勇者?」


 リミナが問うと、レンは困った顔をした。


「……いや、違うよ」


 否定したのだが――リミナは嘘をついていると思った。


「……そう」


 勇者であることを否定する言動について尋ねてもよかったのかもしれない。しかしリミナは興味を失くし歩を進める。それにレンは追随する。


「ついてこないで」

「いや、俺もあの村で休むことにしているから」


 答えたレンに対し、リミナは意味もなく苛立つ。

 その時、農夫がリミナ達の存在に気付き、手を振った。振り返しても良かったのだが、リミナは隣にレンがいたため応じなかった。


「……あのさ」


 農夫の姿を見ている時、レンが声を上げる。


「その、俺は訳あって目立ちたくないんだ。だから、あの悪魔を倒したなんて言わないようにしてくれないか?」


 ――次の瞬間、リミナは杖を持つ右手を強く、ひたすら強く握り締めた。


 悪魔を倒した――あいつは、私が倒すはずだった。


「……わかった」


 リミナは感情を表に出さず答えた。けれど胸中では、別の考えが浮かび上がっていた。

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