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魔石まとう番人

 通路の先は、やはり壁にぶち当たった。それもまた隠れたスイッチを見つけ出し、新たな道が出現する。

 続いて現れたのは広い空間。俺は剣を握りながらゆっくりと歩む。後方からリミナの明かりによって、その一部が姿を現し――


「おっ」


 床面を見て声を出す。今までの無機質な床とは異なり、赤い絨毯が敷かれていた。

 後方に陣取っていたギアも気付いたらしく、言葉を発する。


「いよいよゴールかな」


 景色が変わったので、そう判断したのだろう。俺も内心同意する。


 リミナから気配が無いのを聞くと、そろりそろりと狭い通路を抜ける。彼女の明かり以外はやはり真っ暗で、勇者や学者達は到達していないようだ。

 道は進んできた通路に対し左右に伸びている。さらに幅は大人が十人以上並んで歩けるくらいで、天井も相当高い。明かりによって見える壁面は、灰色ではなく大理石でできているかのような、光沢のある白。


「なんだか、場違いな場所だな――」


 俺が感想を漏らしたその時――突如、天井付近で明かりが灯された。ボッ、と火がいきなり点灯し、思わず硬直する。

 さらに明かりは順々に灯され、通路全体がはっきりと姿を見せる。まるで城の廊下みたいな、巨大な通路。


「……何だ、これ?」


 いきなり明かりが出現したことに驚き、思わず呻く。

 それに答えたのは、リミナだった。


「ここに来ると自動的に照明が灯るよう、魔法を使っていたのでしょう」

「そんなこともできるのか」

「はい。ここを拠点とした魔族も、真っ暗闇では動けませんからね」


 狭い道から出て何かをきっかけにして仕掛けが発動したということだろうか。

 俺は改めて左右を見回す。まず左奥には、両開きの白い扉があった。確認すると今度は右を見る。そこには左と同じくらいの距離に――


「あれは……?」


 人の形をした――ゴーレムと思しき存在が一体。


「ゴーレムだな」


 ギアが言う。俺の認識で間違っていないようだ。


「しかし、ただのゴーレムじゃないな。あれは、苦労しそうだ」


 さらに彼は言う。確かに見た目はゴーレムなのだが……問題なのはその外見だった。


 顔の部分はパーツが一つもないことと、俺の身長三倍はあろうかという巨体が特徴。さらには――体が単なる石ではなく、半透明かつ紫色の魔石。その奥に両開きの扉が見えるくらいに、体は透き通っている。

 俺達はゴーレムをじっと見据え、やがてリミナが口を開く。


「魔石……マジックゴーレムといったところでしょうか」


 彼女がそう言ったので、目の前の奴はマジックゴーレムという名前に決定。

 敵は先ほどのモンスターと同様専守防衛なのか、襲い掛かってくる様子はない。もしや動いていないのではと凝視してみると、顔が僅かに動いた。こちらに気付いてはいるらしい。


「仕掛けない限りは、来ないみたいだな。今の内に作戦を立てよう」


 俺の提案にギアとリミナは頷いた。


「で、方法だけど……魔石であることと、こんな場所で番人をしている以上、手強いと見ていいよな?」

「その認識で間違いないかと」


 リミナは答え、マジックゴーレムに視線を送りながら続ける。


「魔石である以上、魔法耐性があるはずです。問題は、防御力がどのくらいあるのか。それによって、戦法が変わってきます」

「具体的には?」

「短期決戦でいくか、それとも長期戦でいくか」


 想像がついた。防御力が高ければ慎重に長期戦に持ち込む。そうでなければ、一気に攻め立て勝ちを取る。マジックゴーレムから攻撃されるリスクを考えれば、短期決戦でいきたいところだが――


「しかし、今はまず……慎重に攻めましょう」


 続けたリミナの言葉に、俺は「そうだな」と賛同した。


「よし、俺が先頭で近づく」

「気を付けてください」

「わかってる」


 リミナの声を受けつつ、俺達はマジックゴーレムに向かって移動を始める。途中、剣に力を込め魔力を発露させると、相手は反応した。


「ギア、下がっていてくれ」

「わかった」


 俺の指示にギアは従い、彼は距離を取る。その間も俺とリミナは静かに移動を続け、十数メートル手前まで到達した。

 マジックゴーレムは動かない。だが首を俺達へ向け、警戒を露わにしている。


「私が、先に仕掛けます……魔法によって、硬度を把握します」


 リミナが言う。小さく頷くと、彼女はゆっくりと杖をかざし――言い放った。


「切り裂け――天の風!」


 言葉によって生じたのは、竜巻のような暴風。俺が一瞬たじろぐほどの風の塊が、マジックゴーレムへと直撃する。


 敵は完全に虚を衝かれたのか、体を強張らせた。同時に風によって身動きが取れないのを悟る。なるほど、炎ではなく風の魔法にしたのは、動きを制限するためか。

 じっと観察していると、マジックゴーレムの体に線が入る。風が刃と化して体を傷つけているらしい――だがその全てが決定打にならず、やがて風が収束する。


「かなり、硬いですね」


 リミナが呟く。とはいえ顔色一つ変えていない所を見ると、それほど脅威とは感じていない様子。


 次に、マジックゴーレムが両腕を上げる。魔法に対しやっと重い腰を上げたようにも思え、俺は注視し動きを見極める――つもりだった。

 瞬間、マジックゴーレムは跳躍した。ほとんど予備動作無しの、立ち幅跳び――それにより、一瞬で俺達の眼前まで接近する。


「なっ――」


 俺は呻きつつも、ゴーレムが両腕を頭の上で合わせ、振り下ろそうとしている光景を目の当たりにする。すかさずリミナと共に回避に移る。

 後方に跳ぶと、腕が絨毯に衝突した。振動が周囲を震わせるが、絨毯のせいか音はあまり生じない。


「結構、速いな」


 ゴーレムという点に加え、やや緩慢な動作であったため油断していた。


「強固な体を利用し、こちらを油断させ迎撃するのかもしれません」


 そこで、隣にいるリミナが語る。


「モンスターの中には意表をつくような戦法を取る存在もいます……これはそのケースでしょうね」

「そうなのか……」


 直情的なやり方ばかりではないらしい……俺は気を引き締めつつ、マジックゴーレムとさらに距離を取った。

 ゴーレムは表情の無い顔を向け、俺達に注意を始める。そして腕を再度振り上げ――攻撃される前に、今度は俺が仕掛けた。


「はあっ!」


 剣を掲げ、それを縦に振り下ろす。チェインウルフと戦った時のような氷を頭の中でイメージし……それが、ものの見事に再現された。

 前方に、巨大な氷柱が発生。絨毯を伝い、マジックゴーレムを一気に包む。ゴーレムは回避することなく攻撃を受け、見事氷漬けとなる。


「これなら――」

「いえ、まだです」


 リミナの声。じっとゴーレムを注視すると、氷が突如ヒビ割れる。さらには、右腕部分の氷が破壊されてしまう。


「これじゃあ終わらないか」


 俺は剣を構え直しつつ、傍らにいるリミナへ視線をやる。


「何か手はあるか?」

「一つだけ」

「教えてくれ」


 氷のヒビがゴーレムの全身に広がり始める。時間は無い。


「私の魔法で傷はつけられました。おそらく、勇者様が持つ魔法であれば倒すことができます。加え、魔法によって足止めできることもわかりました」

「となると俺がさらに動きを封じ、リミナの魔法で?」

「いえ」


 彼女は首を振る。


「私が、ゴーレムの動きを封じます」

「わかった……でも、俺の技で倒せるのか?」

「可能です」


 リミナは断じると、俺にささやくように話し出した。


「一度魔力を閉じてください。そして呼吸を整え、攻撃するタイミングで雷の魔法を剣先に、一気に集中させてください」

「……何かの技か?」


 問いながら、再びゴーレムを見た。頭に張り付いていた氷が破壊されている。あと少しで、拘束は解かれてしまう。

 その状況下で、リミナは返事をする。


「はい。そして刀身に宿った力を解放し、飛龍の形となって敵に襲い掛かる……これが勇者様の得意としていた、切り札の一つ」


 切り札――彼女の言葉に、俺はごくりとつばを飲んだ。


「あれだけの速度で動く以上、ギアさんが巻き込まれる可能性もあり危険です。多少無理を頼みますが、短期決戦でいきましょう」

「わかった」


 はっきりと頷き、一度全身の力を抜いて、魔力を閉じた。


「私がタイミングを計ります」


 リミナが指示をした直後、氷が完全に砕ける。そんなマジックゴーレムを見ながら、俺は静かに呼吸を整え始めた。


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