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勇者と親友

「馬鹿、な」


 マティアスは斬られながら、そう呟いた。


「なぜ……貴様……!」


 直後野獣の咆哮を上げ、右腕を振り上げる。肘から先が消失していたが、彼は構わず振り下ろす。

 俺は攻撃を一歩後退して楽にかわすと、追撃のため魔力を剣に注ぎ、横一閃。


 果たして――マティアスは防御もできず、剣がしかと胸部に入った。


「が――!」


 攻撃にのけぞり、呻くマティアス。十字に刻まれた傷が俺の目に入り……手足から光となり始める。


「なぜだ……お前は、なぜこの場で……!」

「それは俺が訊きたいくらいなんだけどな」


 マティアスの声にそう返答しつつ、消えていく姿を見守る。


「何か、言い残すことはあるか?」


 そして真っ直ぐ彼を見据えながら問う。


「お前をそんな風にした者達へ、伝言くらいは請け負う」

「……ずいぶんと優しいね。まあいい、特に話すようなこともない」

「そうか」


 彼の体が光の粒となって消えていく……それを最後まで見送り、彼との戦闘は終わった。


 勝てた……同時に、俺は根本的なことを見誤っていたのだと悟る。今まで俺は勇者レンの経験を頼りに戦っていた……いや、経験に従っていたと言ってもいい。

 しかし、壁を超える技術というのは彼もまだ足を踏み入れたことのない分野。そこへ行くには、現在戦っている俺の学んだことや、力も大切だ。


 俺と勇者レン。そして自分を信じること――その全てが融合し一つとなることで、さらに強くなれる。


 思いながら、次はどうしようかと周囲に目を向ける。戦士達は爆発に巻き込まれて倒れているか、退いたかの二つ。

 倒れている人の容体を確認するべきか……考えつつマティアスの立っていた場所を何気なく眺める。すると、その奥に人影を見出した。戦士ではない、黒装束姿の――


「やあ」


 陽気に声を掛けられる。ラキだった。


「倒せたみたいだね」


 そう言って、近寄ってくる。俺がここで技法を使えると確信している態度にも見えたのだが――


「お前が、やったのか?」


 なんとなく問い掛けてみる。夢について言及したつもりだったのだが、


「何のこと?」


 ラキは笑いながら問い返す。肯定とも否定とも取れる雰囲気。


「……いや、何でもない。それより、ルルーナさんはどうした?」

「僕が退いたんだ。こっち側が苦戦しているみたいだったしね。とりあえず残っていた悪魔を結集させて時間稼ぎをしているけど……妹さんを庇いながらでも、あっという間に倒すだろうね」


 ライラは負傷したのか。けどルルーナの手に掛かれば悪魔なんて敵じゃない。直にこちらへ来るだろう。

 その時、雷鳴が生じる。ずいぶんと音が大きい。あと五分もしない内に降り出すかもしれない。


「さて、レン。壁を超えたわけだし、決着をつけようか?」


 彼からの提案……お茶でも誘うような呑気な口調。けれど俺は厳しい目で剣を構える。ルルーナと互角に戦える以上、俺とラキとの差はまだある。


「ふむ、どうやらわかっているようだね。壁を超えたとしても、まだ先があると――」


 光と、一際大きい雷鳴。同時にラキは苦笑し、俺へと語る。


「僕は以前言ったはずだよ……縁を切るべきだと。僕達を追うために既に国が動き出している。認可勇者でもない流浪の君の手に余るような出来事になっている。もう、終わってもいいんじゃないか?」

「……なぜ、そうまでして縁を切りたがる?」


 逆に俺が問い掛けた。意外な質問だったのか、ラキは目を見開き驚く。


「縁を、切りたがる?」


 聞き返され、俺は僅かながら考えた。

 様子から、ラキはエンスやシュウから俺が勇者レンでないことを聞かされてはいないようだ。それを今知ったらどうなるかわかったものではないため、露見しないよう会話をする必要がある。


「……お前は、俺を遠ざけようとしてそんな提案をしているんじゃないのか?」


 だから具体的な言及はせず問う……すると、ラキは目を細めた。

 そして口元に手を当て、俺の言葉を吟味する――もし俺の言ったことが真実ならば、夢のことに関与はしていないだろう。遠ざけるのに、技法を思い出させるようなことはしないはず。


「……そうだね、そうかもしれない」


 やがてラキが発したのは、同意だった。


「僕は、自分の行動が正しいと思ってシュウと共にいる。だから後悔はしていない……けれど」


 彼は俺に視線を送りながら、さらに続ける。


「レンを見ると、思い出すんだよ。三人でいた時の記憶が。そして――」


 白光と雷鳴が生じた。けれどラキは話し続ける。


「――だから、僕としてはレンを見て、思い出したくないのかもしれないね」


 ラキは歎息すると、肩をすくめた。一部分聞こえなかったが、何かしら憂いているのは理解できた。


「……なぜそんな顔をする?」

「そこは知る必要、ないよ」


 重い声だった。理由があるのは間違いないが、話すつもりはないようだ。


「僕は心の隅でこう思っていたのかもしれない。レンには何も知らないままでいて欲しいと」


 苦笑を伴い語るラキ――その顔は、俺を慮るような態度を見え隠れさせる。


 ……魔王や魔族と関わることをしておきながら、なぜそんな風に言えるのか。それとも、ラキに関わる真実を知れば納得できるのか?


「まあいい、わかったよ。レンが戦うと言うのなら、僕もそれに応じるまでだ」


 言うと、空気が変わる。すかさずこちらは構え直し――ラキが、来た。

 一瞬で間合いを詰め、彼は横へ一閃する。俺はそれをどうにか弾くと、一歩後退。


 ラキはさらに追いすがる。追撃に縦の一撃を見舞うが、俺はどうにか受け流しさらに距離を置いた。


「強くなったね」


 ラキが感嘆の声を漏らすと同時に、立ち止まる。そこで俺は、反撃に転じるべく横薙ぎを繰り出した。それに対しラキは剣で受ける。刃が噛み合い、俺とラキはしばし動かなくなる。

 負けるわけにはいかない――心の中で思うと同時に剣を振り抜いた。全力で力を込め、なおかつ自分の力を信じ、彼の剣を押し返した。


 ラキはそれにより後ろに下がる。俺はここぞとばかりに剣を加え、斜めに斬撃を放った。彼はそれに一歩対応が遅れつつも、再度受ける。

 抜ける――感覚的に判断した直後、いっそう強く腕に力を集めた。するとラキの体が傾き、大きく体勢を崩す。


 行けると判断し、力任せに押し切る。瞬間、切っ先に何かが振れる感触があり――


 ラキの剣が、こちらへ差し向けられた。


「っ!?」


 一瞬何が起こったかわからないまま剣を引き、防御する。再び衝突する俺とラキの剣。けれど彼の剣戟は先ほどまでとは異なっていた。まるで大剣と相手にしているかのように重く、強い。

 それに俺は後退を余儀なくされた。さらにラキの間合いから脱し、剣を構え直す。


「見事だよ。まさか一撃もらうとは」


 ラキは感嘆の声と共に剣を握る右手の甲を見つめた。視線を注ぐと、一筋の傷と、僅かな鮮血。


「ほんのかすり傷程度……けれど、これは途轍もなく大きい一歩だ」


 呟くと共に、ラキは俺へ視線を戻す。同時に、確信する。

 先ほどまでとは、気配が根本的に変わった。


「本気を、出していなかったってことか?」


 呼吸を落ち着かせ、俺は問う。するとラキは首を振った。


「心外だな。本気だったよ。少なくとも、現在表に出している魔力の出力では」


 出力――その言葉が耳に届くと同時に、とうとう雨が降り出した。一滴、また一滴と地面を濡らすと、大粒の雨が一気に襲来した。


 耳には雨の音以外入らなくなり、体は一気にズブ濡れになる。そうした中ラキは優しく微笑んだ。

 それが何を意味するのか――考える間に、ラキは俺へ向け疾駆した。

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