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既知の襲撃者

 声に、俺は慌てて周囲を見回す。けれど目で確認できず、咄嗟にカインへ尋ねようとした。


「……どうやら、こちらには態勢を整える余裕もなさそうだな」


 彼は呟き、視線を俺から見て右方向に転じる。

 俺もまた視線を移す。そこにはいつのまにか一人の人物。


「ナックか」


 カインは警戒を込め呟くと、剣を向ける。しかし、俺には別人に見えていた。

 ラキと同じように黒装束姿。そして、銀髪の――


「エンス……!?」


 声を上げた瞬間、相手が眉をひそめた。


「おや、あなたには魔法が通用していないのですか」


 ――相手は、屋敷護衛の時関わったエンスだった。格好は変わっているが、最後対面した時の、圧倒的な気配を身にまとっている。


「これは少しばかり驚きました……とりあえず挨拶くらいはしておきましょうか。お久しぶりです」


 微笑すら浮かべ俺に言うその姿は、ラキと同様不気味極まりなかった。


「それが擬態している奴の名前か」


 カインは言うと目を細め、一歩前に出る。


「レン、下がっていてくれ。こいつは私が始末する――」


 そこまで告げた瞬間、彼の眉間に皺が寄った。同時に周囲にいた戦士達の呻き声が上がる。

 エンスは何も変わっていない……が、何をしたのかはわかった。魔法を解除したのだろう。


「では、受けて立ちましょう」


 エンスの言葉と同時に、またも悲鳴。周囲に悪魔の姿は無い。とすると、ロノと同様、裏切り者による攻撃か?


「……レン、コレイズ殿。向こうを任せた」

「了解しました」


 カインの要求にコレイズは応じ、速やかに移動を開始。カインのことは気になったが、俺はそれに追随し、その場を後にした。

 刹那、剣が噛み合う金属音が聞こえ始める。カインなら大丈夫だと思う中、心のどこかでは不安がつきまとう。


 ラキは戦士達を潰すと言っていた。となればルルーナやカインの存在を最初から把握して人員を派遣しているはず……戦士達の実力を疑うわけではないが――


「あの人か……!」


 進む中、コレイズが呻く。視界の先に、漆黒の剣を振りかざし戦士を斬る人物を認めた。

 それが誰であるかを理解すると共に、地面に複数人倒れているのも確認。さらにその一人は演習で関わったアリックで――


「お、今度はコレイズ殿と勇者さんか」


 ――漆黒の刃となった右腕をかざし、マティアスは悠然と俺達へ告げた。


「あなたまで、裏切ったというわけですか」


 限りない落胆の色を見せつつ、コレイズは言う。


「そんな力を得るために、あなたは敵となったんですか」

「彼らと協力する理由なんて、話してもなんの意味もない。永遠に平行線だろうし」


 肩をすくめ、倒れた人物達を越え歩み寄るマティアス。その顔は演習と同様少年っぽいものだったが、どこか狂気が滲み出ていた。


「さて、二対一か。けれどコレイズさん。あんたはここで戦っているとまずいんじゃないかな?」


 言葉の直後、空に悪魔の姿が見えた。今にも襲い掛かろうとしている中、弓使いによる迎撃が行われる。


「現状、蒼月の戦士団を取りまとめる人間はいない。戦士団なんて団長や副団長がいなければまともに統制できないような人間達だ。このままだと、残っている戦士達も瓦解するよ?」


 言葉の直後、爆音が聞こえた。どこかで悪魔が火球を炸裂させたのだろう。さらには喚声も耳に入り、状況が混沌としてきたのが理解できる。

 その中で、俺はどうすればいいのか自問した。銀の獅子団はカインという団長がいるため、どうにか戦線を維持できるだろう。けれど蒼月の戦士団は――ルルーナがいない上、副団長であるコレイズもここで戦うとなれば、さらなる被害が出かねない。


「……コレイズさん。俺がやります」


 だから結論として――俺が一人でマティアスと相対することに決めた。


「戦士団が混乱するのはかなり危険です。ここは、俺に」

「……わかりました」


 感情を押し殺すようにコレイズは返答し、素早くその場を離れる。残された俺は正面からマティアスと対峙し、剣を構えた。


「さっきの演習ではしてやられたからね。ここでリベンジさせてもらうよ」


 マティアスは言いながら、俺の剣に視線を注ぐ。


「言っておくけど、君じゃあ僕に勝つのは不可能だよ」

「お前は壁を超えているからか?」


 問うと、マティアスは小さく頷く。


「そういうこと。現世代の戦士に教えを請う以上、君に壁を超えた技法は使えない……だろ?」


 確信的な笑みを伴い問う――それにより俺は、勝機を見出した。

 ナックと同様、彼もまた勘違いをしている。ならば、相手が油断している隙に剣に魔力を込め、一撃で決める。


 断じると、俺は走った。マティアスは余裕の表情を見せながら剣を構え直す。

 そして俺は剣に力を込めた。勝負は、ほんの一瞬だ。


 漆黒の右腕が防御に入る。俺はその腕ごと両断する勢いで――刀身に、壁を超える技法を宿す。

 剣を縦に振り下ろす。マティアスの顔はここに至っても余裕のまま。けれど、剣戟が入れば――


 考えた直後右腕と剣戟が衝突した。結果腕に刃が食い込み、俺は勢い任せに振り抜く。


「何っ!?」


 マティアスの表情に変化。斬れると思っていなかったようで、驚愕に染まった。

 その間にも剣が腕に入る。しかし勢いが足らず、腕を両断するのは無理だった。


「ちっ……! そういうことか。なら――」


 さらにマティアスは呟き、今度は左腕を差し向ける。意識を剣に集中させていた俺は対応が一歩遅れ――たが、腕が触れる直前で剣を引き、どうにか回避に転じた。

 俺は後退しつつ改めてマティアスを観察。腕にある刃にずいぶんと食い込んでいたが、彼は痛みを感じていないのか動きに変化はない。


「その腕輪に、もう一つ技法を記録していたのか……正直、これは予想外だった」


 表情を戻したマティアスは告げる。


「とはいえ、それなら技法を持っている相手向けの戦いをするまでだよ」


 彼は言うと、今度は攻勢に出た。一瞬で間合いを詰め、剣を放つ。演習の時とは武器が異なるためか戦法がずいぶんと違った……けれど、相変わらず速い。

 こちらはどうにか捌き退避。しかし追撃が繰り出され、さらに後退。同時に反撃を行うが、右腕であっさりと弾いた。


「君は、勝てないよ……!」


 マティアスは叫ぶ。俺はその言葉をはね除けるべく剣に魔力を込め、一閃した。 すると彼はまたも右腕の剣で防ぐ。刃が漆黒へ僅かに食い込むが、先ほどより勢いがないためかすぐに止まる。

 その中、マティアスはさらに攻撃を加えるべく、最初の攻防と同様左腕を放った。その腕は肘から先の部分が漆黒となっており、手刀となって俺へと襲い掛かってくる。


 直撃するのはいくらなんでもまずい――判断すると同時に、俺は退避。けれど手刀は鋭く蛇のように俺へと迫り、

 僅かながら手首に触れた。


「っ!」


 呻きつつ、どうにか距離を取りマティアスの表情を窺う。相手は、喜悦の笑みを漏らしていた。


「これで、終わりだ」


 何……? 俺は戸惑いながら剣に力を加えようとした。しかし――上手くいかない。


「手首を見てみなよ」


 マティアスが言う。俺は一瞬だけ手首を確認。


「……っ!?」


 腕輪がなくなっていた。いや、違う。俺の足元に破損して落ちている……これが、手刀の狙いだったのか。


「さて、ここからが本当の勝負だね。腕輪無しで技法を使えるのか。もし使えたなら、僕を倒せるかもしれないね」


 まるでゲームを楽しむようにマティアスは言う。俺としては最悪の状況としか言えず、半ば無意識に剣を強く握り締めた。


「それじゃあ、始めようか……君が本当の意味で壁を超えられるか、見せてもらうよ!」


 叫び、マティアスは行動を開始する。俺は地面に落ちた腕輪を一瞥し……奥歯を噛み締めながら、迎え撃つ体勢に入った。

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