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戦士達のもとへ

 指示を聞いた瞬間、俺が……? と若干戸惑った。


「レン殿」


 そこへ、声を戻したライラが言う。


「団長は、あなたが擬態魔法を見破れることに着目したのだと思う。なぜか相手の魔法が通用しない……ロノを追えと言ったが、裏切者が他にもいないか調べる意味合いもあるのではないか」

「……そうか。わかった」


 重大な任務。不安が胸の底に生まれる……が、四の五の言っている状況じゃない。


「コレイズさんと協力して見つければいいんだよな?」

「そうだ。とはいえ私達がいない以上、用心深い性格の彼が信用するかどうかはわからないな――」


 そこまで言った時、ライラは何か察した。


「そうだ……これを」


 言って、彼女はポケットから何かを取り出す。それは鎖が着けられペンダントにされた真紅の魔石。大きさや形状は、マッチ箱くらいだろうか。


「宝石箱から気に入った物を拝借したのが役に立ったな……これを私から受け取ったと言ってくれ」

「それで、証明になるのか――」


 確認をしようとした時、悪魔の咆哮。時間が無い。


「わかった。ライラも気を付けて」

「無論だ。奴らの言う通り殺されるつもりはない」


 答えを聞くと同時に俺は入口へ目を向ける。悪魔が阻むように布陣しているのだが、こちらを威嚇するだけで攻撃してこない。逃げ道を塞ぐためにいるのだろう。


「俺の攻撃で正面の悪魔をある程度倒す」

「了解した」


 ライラは答えつつ周囲に目を向ける。瞬間、俺は剣に魔力を込めながら走った。

 悪魔が動く。中には火球を操る爪のないものもいる――けれど構わず走った。加えて、剣に注いだ魔力は――雷撃。


「おおおっ!」

 声と共に一閃する。刹那生じたのは雷龍。それが一直線上に悪魔へと向かい――悪魔達を包んだ。

 火球も放たれようとしていたが、それもまとめて飲み込んだ。勝負あり――思いながら光が収まると、入口を固めていた悪魔の内、端にいた一体を除き消滅していた。


「レン殿、頼む!」


 ライラが叫ぶ。同時に残った悪魔が迫ろうとするが、俺は難なくすり抜け、燃え盛る本陣を出た。

 既にロノの姿は見えない。転移でもしたか、それとも足が速いのか……考えながらも、俺は一心不乱に足を動かし続けた。






 ロノを探している内に、二つ気付いたことがあった。その一つが近づいてくる雨雲。耳を澄ませば雷鳴の音が聞こえている。ルルーナが神経を使うのも理解できる。

 そしてもう一つは、戦士達の状況。本陣から草原を進めば他の野営地も見えたのだが、ほとんどが破壊されていた。


 なんとなく、雨に撃たれることを考慮して破壊したのかと思ってしまう……準備もなしにただ打たれるだけならば、体温なども奪うことになるので戦士達も苦戦を強いられるだろう。

 それはさすがにまずい……できれば雨が来る前に決着をつけたい。


 だから俺は必死に走る。けれどロノの姿はやはり見えない。意識を集中させ魔力を探ってみても、それらしい存在はない。

 このままだと、コレイズ達の下へ行ってしまう……いや、ここはライラから渡された魔石を見せ、ロノが敵だと周知させる方を優先させるべきか。


 そんな風に結論付けた時、正面に光。悪魔だ。


「どこかで見ているのか……?」


 もしくは、散発的に出現するようになっているのか……とにかく、現れた以上倒すしかない。

 悪魔が形を成し、叫びながら俺に向かう。こちらは迎え撃つ体勢。相手が爪で引き裂こうと腕を振り上げた瞬間、懐に飛び込んだ。


 直後、俺の剣が胸部に入る。結果悪魔は消滅。


 もし数で押し寄せてきたなら、先ほどのように一網打尽にすればいい……思いながらさらに進む。足に魔力を収束させ移動速度の向上も行う。カインのように瞬間移動くらいのレベルならあっという間なのだが……残念ながら、あの速力は出せない。

 けれど、それほど経たずして草原に集まる戦士達の姿が見えた。加えて草原の向こう側――カイン側の陣営から煙が上がっているのを認める。


「やっぱり向こうも襲撃されたのか」


 戦士団壊滅を狙っているのなら、当然と言えるが……とにかく、草原にいる戦士達は人数が多い。合流したのだろう。

 あそこにカインもいるのだろうか――思いつつ、俺はまた走る。途中何度か悪魔と遭遇するが、全て一閃。事なきを得る。


 そうして辿り着いた草原中央。戦士達は俺に気付き、声を上げた。


「お前は……無事だったか!」

「はい。それでコレイズさんは?」

「ここにいます」


 俺に気付いたか、歩み寄る彼。見た所負傷などはしていない。


「あの、これを」


 そう言って、俺はまず魔石を見せた。何はともあれ、まずは信用してもらう必要がある。

 魔石を見た途端、コレイズは驚く。


「それは……」

「ライラから渡されました。手ぶらだとコレイズさんが疑うかもしれないということで」


 ――この魔石は非常に高価か貴重であり、それを渡した以上一定の信用がある、ということをライラは教えたかったのだろう。


「なるほど、わかりました」


 コレイズは即座に頷く。ライラの意図を汲んだ様子。


「それで、ライラは?」


 訊かれ――まずは俺から説明を始める。周囲に戦士達もいたが、時間も無いのでそのまま話す。

 全て伝えると、コレイズは目を細め不快感を示しつつ、周囲で聞いていた戦士へ呼び掛ける。


「ロノの件を戦士達へ伝えろ!」

「はっ!」


 一人の戦士が応じると、速やかに歩き去った。


「では、私達でカイン殿の報告へ向かいましょう。潜んでいる者も気になりますし」

「わかりました」


 二つ返事で承諾し、俺とコレイズは揃って移動。途中、周囲に悪魔が生まれたようで雄叫びが聞こえたのだが……それほど経たずして断末魔が上がる。


「敵は、倒せているようですね」

「悪魔の能力自体はそう高くありませんからね。しかし、数は注意しなければならない――」


 言った直後、今度は空から飛来する悪魔を目に留めた。さらに空中で手をかざすと、火球を生み出す。

 俺は即座に応じようとした――が、どこからか銀の矢が幾本も空を切り裂き、それを受けた悪魔は見事消滅する。


「アリック、という人かな?」


 演習の時出会った人物の名を口にすると、コレイズはすぐさま頷いた。


「でしょうね。こちらも弓使いはいますが、彼ほど練度は高くないので助かっています」


 コレイズが告げた時、正面から俺達を呼び掛ける声。見ると一人の戦士が俺達を手で制しつつ歩み寄る姿。


「コレイズ殿か……団長に用か?」

「はい」


 戦士の質問にコレイズは明瞭に返事。しかし相手は逡巡する。何か警戒している。


「どうしましたか?」


 様子にコレイズは問うが、戦士は答えない。その時――


「私が聞こう」


 カイン当人が俺達のことを見つけたようで、近づいてきた。


「団長……」

「ナックの件から、私と引き合わせることに警戒するのはわかる。しかし、彼らは信用していい」


 ――口上から、既にナックは裏切りを表明し牙を()いていたのだとわかる。


「それで、彼はどうしました?」


 今度は俺が質問すると、カインは「わからない」と答えた。


「用があると近づき私を攻撃し、なおかつ悪魔が襲い掛かって来た。奴はどうにか撃退したが……剣の技量がナックのそれとは明らかに違った。擬態系の魔法を使用しているのだと思うが」

「理由はわかりませんが、俺にはその魔法を見破ることができます」


 次いで、ロノの一件やルルーナの現状も説明。すると、


「ルルーナと互角の人物か……ナックに化けていた潜入者の技量はわからないが、少なくとも壁は超えていた。同程度の力を持っていると考えていい」


 ラキと同等……不安が大きくなる。


「俺はどうすれば?」

「そうだな……ひとまず、周辺の警戒に当たってくれ。状況が変わればまた指示を――」


 彼がそこまで語った直後――悲鳴が、俺の耳に入り込んできた。

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