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本陣襲撃

 相手にとっては予想外の攻撃。通用するか一瞬心配になったが――俺の剣はナックの右腕に食い込んだ。


「ちっ!」


 これにはナックも反応するしかない。見誤ったという険しい表情と共に俺の剣を押し返すと、横手に逃れ俺とライラから距離を置こうとする。


「レン殿! とどめは刺せ!」


 そこでライラが叫び、ナックへ駆ける。何をするつもりなのか――


「お前の剣は効かねえよ!」


 ナックは叫びつつ、彼女には目もくれず俺に目を向ける。

 ライラから剣が放たれる。しかしナックはそれを一笑すると弾き飛ばす――けれど、彼女はさらに剣戟を見舞い、首筋に触れた。だがそこもまた黒く硬化しており、通用しない。


 攻撃を行う彼女に対し、ナックは見ないまま押しのけようとする。しかしライラは追いすがり、俺は到達し攻撃に入ろうとして、


「――はあっ!」


 決めにかかるつもりか、彼女は連撃を繰り出した。それは先ほどよりも魔力がこもっており、今までとは異なる一撃だと知覚できたのだが、


「無駄だ!」


 ナックは剣を弾く。やはり漆黒を食い破ることはできない。けれど衝撃は大きかったのか腕が僅かに硬直する。

 それを見て、理解する。そうか、彼女のやろうとしていることは――


 俺は間合いを詰める。そして右腕に意識を集中させ、剣を縦に振り下ろそうと素早く掲げる。

 ナックはライラを無視するように反応。すかさず両の腕を俺に向けようとして――その時、ライラの妨害に遭う。


「――ちっ!」


 そういうことか――ナックも理解したようだ。

 つまり、ライラの攻撃は通用しないが、先ほど俺が全力で叩き込んだ一撃がナックを後退させたように、完全に衝撃を緩和できない。だから彼女が剣を弾きその隙にこちらが……イザンとの戦いでセシルが行った攻撃と同じだ。


 その戦術は、見事に通用した――ナックはライラから逃れようと後退し始めたが、それより先に俺の剣が届く。

 剣戟が、彼の右肩から腹部にかけて入る。斬撃は漆黒や鎧を易々と斬り、深々と入ったのが手から伝わる感触でわかった。


「ぐおっ……!」


 ナックが呻く。一撃では無理か――などと思った時、突如右腕にヒビが入り始めた。さらに先端から崩れ始め、光の粒子へと変化していく。


「こんな……ところで……!」


 ナックは言うと、俺達を睨む。はっきりと殺意を見せながらも、消えることによる恐怖が、僅かに見て取れた。


「貴様ら……貴様ら……!」

「あきらめろ、お前の負けだ」


 ライラは剣を構えたまま冷酷に言う。直後俺が斬った部分から光が溢れ、ナックは力を失くしたか片膝をついた。


「傷口から魔力が抜け出ているな……一定以上の魔力を放出すると体の維持ができなくなり、光となって消えるといったところか? 強固な外殻があるのは、放出を防ぐためなのかもしれないな」


 続けてライラが言い、光がナックを包み始めた。追撃は必要無さそうだと思った時――その姿が光に飲み込まれ、完全に消えた。


「モンスターなどと同じような結末か。悲惨だな」


 ライラは呟くと、小さく息をついた。


「……奴はもしかすると、私を殺そうとしていたのかもしれない」

「ライラを?」

「見回りの人員を集めていた時、奴だけは率先して行くと言った。曰く、最初の演習でほとんど戦っていなかったからだそうだ。私としてもやる気があるから採用したのだが……」


 ライラは剣を鞘に収めると、俺に続ける。


「奴は命令に従い入れ替わっていたと語っていた……何かしら命令を受けていたのかもしれん」

「それが、ライラを始末すること?」

「あくまで推測だが……そして、もう一つ言えることは」


 語りながら、ライラは俺に視線を送る。


「現在、あのナックという人物に成り代わっている者がいるということだ。いきなり彼が消えればカイン殿の陣営も訝しがるだろうからな。そこで何をやるのかわからないが……二つの戦士団をどうにかしようとしているのだけは、間違いないだろう」

「その目的は、不明のままだけどね」


 俺は返しつつ剣を鞘にしまう。そこで、新たな爆発音。


「よし、戻るぞ……それとレン殿、イザンという名がでたな? その人物は闘士だろう? どういう関係がある?」

「……フィベウス王国の事件については知っているか?」

「ああ、聞いている」

「その首謀者のメンバーに、イザンが入っていた。しかも、先ほどのような力を所持していた……さっきの戦士と比べると、不完全だったようだけど」

「では、今回の件はアークシェイドの犯行というわけか」


 断定したライラは、足を前に向けながら厳しい顔をする。


「急いで戻るぞ、団長がいる以上負けることはないが、戦士達の援護をしなければ」

「ああ」


 承諾し、ライラを先頭にして森の中を進み始める――しかし、すぐに立ち止まることになった。


「悪魔か」


 ライラが端的に言う。言葉通り、本陣へと続く真正面に悪魔が複数体いた。

 遠目からわかるのは黒い体躯と翼を持っていること。これまでに色々な種類――人為的に生み出された悪魔を見てきたが、それと近い存在だろう。


「悪魔の数は減らすべきだな。突破するぞ」

「了解した」


 頷くと同時に、駆け始めた。その音に気付いたか悪魔がこちらに体を向け、くぐもった雄叫びを上げる。

 接近すると詳細がわかる。装備の類は一切ない。筋肉に覆われた体に、獲物は両腕の先にある黒い爪。そして濁った真紅の瞳と……顔の下半分がマスクのように黒い物で覆われている。


 魔力の多寡で強さは判別できない……しかし直感で、アークシェイド本部において遭遇した強力な悪魔には及ばないと思った。

 そして数は二体で左右に並んでいる。そこまで認識した時、ライラから指示が。


「私が右をやる!」

「わかった!」


 言葉と共に俺は左の悪魔に走る。

 対する悪魔はさらに吠えた後、俺達へ突撃を開始した。跳躍し、俺へと襲い掛かる。


 けれど、並の速さだ。


「――ふっ!」


 俺は僅かな呼吸と共に剣を構え意識を集中。壁を超える技術は必要ないと断じ、悪魔が右腕を振り上げるのを認める。

 攻撃が来る。俺は左へ僅かに移動し避けた。同時に剣を振り、すれ違いざまに腹部を一閃。


 剣は体を貫通し、胴を両断。それにより悪魔はか細い断末魔を上げ、光となった。

 即座にライラのいる方向を見る。彼女もまたすれ違いざまに斬ったらしく、消滅しようとしている悪魔に背中を向けていた。


「悪魔自体はそれほど強くないようだな」


 ライラは呟くと移動を再開。


「レン殿、急ぐぞ」

「……ああ」


 頷いた俺は彼女に近づき並んで進み始める。


「あのレベルであれば、他の戦士でも十分倒せるはずだが……」


 途中ライラが呟き――またも爆発音。


「苦戦しているのか……それとも……」


 ライラが呟いた時、森の出口が見えた。その先に本陣の裏側が見え――


「何……?」


 ライラは本陣を確認すると、呟き走った。

 俺はそれに従い彼女と共に森を抜ける。見えた本陣……木の柵が、燃え上がっていた。


 視線を巡らせる。周囲に悪魔が何体もおり、本陣を取り囲んでいる。加えて――


「……質ではなく、量か」


 ライラが言う。彼女の言葉通り――燃え上がった本陣の上空、視界に見えるだけで十数の悪魔が、翼をはためかせ滞空し、陣中を見下ろしていた。

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