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魔人の壁

 ナックという戦士が目の前にいること自体様々な疑問がよぎるが……考えている暇はなさそうだった。

 笑う相手を他所に、俺はまず後退する。そして腰に差してある剣を引き抜き、リデスの剣を出すべくストレージカードを取り出そうとしたが、


「――おらぁ!」


 ナックは他の面々に目もくれず俺に突撃した。右腕は完全に闇に包まれて刃のように鋭く変じており、俺に斬撃を繰り出してくる。


「くっ!」


 仕方なく持っている剣を鞘ごと掲げて防御。しかし、相手の剣が触れるとあっさりと剣に食い込んだ。両断――


「はあっ!」


 そこへライラが俺から見て右横から剣を放つ――先ほどは牽制的な意味合いの一撃であったため、魔力をほとんど感じられなかった。しかし、今回は刀身に十分な魔力が備わっている。

 対するナックは一目見て回避に移る。そのため剣が真っ二つになる前に後退することができた。


「この状態であんたの剣を受けるのは勇気がいるな」


 ナックは弱音のような言葉を吐きながらも、笑みを崩さず俺達を見回す。


「が、雑魚も混じっている。そっちからさっさと片付けるか」

「――吠え面をかくなよ!」


 戦士の一人が声を上げ仕掛ける。俺はよせと言いたくなったが、それをぐっと堪え準備を始める。

 まずは訓練用の剣を投げ捨てた。そしてストレージカードを取り出し中からリデスの剣を取り出す。


 直後、戦士の一人がナックへ斬り込んだ。俺が鞘を腰に差し剣を抜いた時、ナックの腕と戦士の剣戟が激突した。


「――ふん」


 瞬間、ナックは鼻で笑う。鍔迫り合い――だがナックはビクともしない。


「お前じゃ無理だ」


 簡潔に告げた瞬間、今度は左腕が先から黒く硬化。漆黒が膝まで一瞬で到達し、それを突き込んだ。

 戦士は即座に後退しようとする。けれどナックは足を前に出し、一気に間合いを詰め、


 腕が、戦士の右肩に当たった。


「がっ――!」


 戦士の声が上がる。見るとナックの指先……第一関節が肩に突き刺さっていた。


「貴様!」


 ライラが彼へ走る。ナックは彼女を見ながら指を引き抜き、斬撃をすり抜け俺達と距離を取る。


「そう怒るなよ」


 肩をすくめてナックは言うと、左腕で右肩を抑える戦士を一瞥。


「これで一人は再起不能だな。他の戦士二人で本陣に連れて戻るか、守るようにしないと俺がそいつを殺しちまうぜ?」

「片付ける、というのはそういう意味か」


 吐き捨てるようにライラは言うと、残る二人の戦士へ指示を送る。


「彼を連れて先に本陣へ戻れ。襲撃されていると思うが……治療班くらいは動いているだろう」

「し、しかし……」

「いいから行け。レン殿は、残ってくれ」

「もちろん」


 承諾しつつ、ナックに向け剣を構える。彼は動かない。戦士達が去るのを待っているように見えた。

 その間も、遠くからの爆発音が耳に入る。間違いなくナックに関わる一派の攻撃……シュウ達だろう。


「なぜ、私達を襲撃した?」


 ライラが問う。そこで戦士の一人が負傷した戦士へ肩を貸し、もう一人が護衛するように移動を始めた。


「目的なんざ知らんよ。俺はただ、協力と引き換えに力を手に入れられると聞かされ、従っているだけだ」

「……下種だな」

「その言葉通りだよ。侮蔑を向けられても何とも思わん」


 彼女の言葉にナックは肩をすくめる。


「さて、戦うわけだが……勇者と団長の妹が相手では少し分が悪いな」

「剣を向けた上、情報を持っていない以上お前は叩き潰す。それでいいな?」

「いいぜ。丁度良かった、この力がどれほどのものか試したかったんだ」


 告げると、ナックの内から魔力が溢れた。ギシリ、と空気が軋んだ気がした。

 それまでの気配とは一変し、ライラも警戒の度合いを強める。


「後悔するなよ――」


 ナックは言い、ライラへ踏み込む。同時に俺は足を動かす。数の上では二対一。ここは背後をつく。

 彼の右手がライラへ放たれる。彼女はそれを捌き、追撃である左腕の刺突もかわし、難を逃れた。


 直後、俺が背後から強襲する。魔力を込め、リデスの剣を活用した本気の一撃を相手へ浴びせる。


「さすが勇者レンだな。すげえ魔力だ」


 対するナックは距離を置いたライラから視線を外し、振り返ろうとする。同時に右腕を掲げ防御する構え。

 まさかそれで防ぐつもりか――考えながらも体は動き、腕に直撃した。


 俺の中では腕ごと体を斬ったつもりでいた……しかし、


「だが、斬れない」


 ナックの刃は、俺の剣をしかと受け止めていた。ただ衝撃は完全に緩和できなかったらしく、踏ん張りながらも僅かに後退した。


「衝撃は結構強いが、耐えられない程じゃない」


 言いながら体を向け反撃に転じようとする。寸前、俺は退き数メートル距離を置く。


「お、剣が通用しなくて驚いている様子だな」


 面白おかしくナックは笑う。俺は体勢を整え……ナックの向こう側にいるライラの表情に気付く。魔力の多寡から強力な一撃だと理解できているらしく、通用しなかったことに顔を固くしていた。

 けれど、彼女はすぐさま我に返ると、ナックへ発言する。


「壁を超えている……というわけか」

「そうだ」


 わかってくれたか、とでも言いたそうに笑いながらナックは答えた。

 壁を超えた技術……フロディアやルルーナが言っていたことを思い出し――そこで一つ疑問が生じた。


「その漆黒の力が……壁を超えさせていると?」

「その通りだ」

「イザンも使っていたが、彼には普通に効いていたぞ?」

「ああ、あいつか」


 ナックはこちらに視線を送りながら応じる。


「奴はこの力を手にして、間もなかったからな」

「そういうお前は、長い間その力を所持していたわけか」

「経験の差、というやつだな」


 答えながらナックは左腕を水平に掲げた。直後黒い塊が鋭くなり――右腕と同様刃となる。


「ライラ、情報では壁を超える技術は習得していないらしいな。となればお前の剣は効かない」


 腕を下ろし、彼は決然と告げる。


「そして勇者レン。さっきの訓練でカインとの戦いを見ていた。お前はルルーナから剣の指導を受けているようだが、壁を超える技術を使っている様子は無かった……そちらも使えないんだろ? なら、勝ち目がないとわかるはずだ」


 ――その言葉を聞いて、俺は思い出す。演習の時、魔力を流す技術ばかり使用していた。しかし、教わったのはもう一つある……同時発動は負荷がかかるということで使用機会が無かっただけ。


「逃がすつもりはない。ここで決めさせてもらうぜ」


 ナックは言うと、俺に強い眼差しを向ける。気付けば右目が真紅に染まっていた。それこそが、この力を使用している証なのだろう。


「……レン殿、団長に報告してくれ」

「逃がす気はないぞ」


 ライラの発言に、ナックが凄む。


「それに、本陣側は対応に苦慮しているはずだ。味方が来るとは思えないな」

「……俺達が、お前を倒すしかないわけだな」


 俺は呟くと剣に力を込める。対するナックは、皮肉っぽく言う。


「できるのか?」

「――やるだけ、やってみるさ」

 言った後、走った。応じるナックはやれやれといった様子で右腕を差し向ける。

 俺はもう一つの力を発動させる。先ほどとは違う、壁を超えた者に通用する力――

 刹那、相手の顔が訝しげなものに変わり……俺の剣とナックの右腕が交錯した。

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