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とある異変

 本陣へ戻ってきた時、最初目に入ったのはルルーナが空を見上げる姿。


「団長?」


 並んで歩くライラが彼女へ近寄ると問い掛ける。しかし反応はせずじっと空を見るばかり。

 戻ってきた他の戦士達も同じように思っているのか、団長に声を掛けた。しかし、やはり答えず。


「どうしたんだ……?」


 俺は呟き眉根を寄せた……その時、ようやくルルーナは首を俺達へ向けた。


「ライラ」

「はい」

「戻りつつある戦士団の中で、誰でもいいから連れて周囲を見回ってくれ」

「見回り、ですか?」

「ああ。何もなければ戻って来ていい」

「わかりました」


 ライラはどこか釈然としない様子だったが、指示を受け歩き去る。そして近くにいた戦士へ呼び掛け、本陣を出て行った。


「レン殿はついて来てくれ」


 さらにルルーナは語る。俺は返事をして彼女に追随。一番奥のテントへと入った。

 朝、書状を受け取った時は中央のテーブルに地図が広げられていたが、それはしまわれていた。その中でテーブルの端、宝石箱が目につく。


「ん、どうした?」


 ルルーナはテーブルを越え俺と向かい合うように立つと、こちらの視線を追う。


「ああ、これか。この中には戦士団の称号として贈呈された魔石が入っている」

「それはライラから聞きましたけど……そういえば、どこの国から贈呈されるんですか? 戦士団は特定の国と結びついているというわけではありませんよね?」

「無論、一国ではない」


 ルルーナは俺に答えると宝石箱を引き寄せ、中を開けた。

 そこには、色とりどりの魔石――大小様々な物が入っていた。


「これは戦士団の存在を証明するものだ。私やカインは顔が広いため必要無いといえば無いのかもしれないが……後ろ盾なく活動するには、こうして国から一定の評価を得たという事実が重要なのだ。そうすることで私達の立場もある程度保障され、仕事がもらえる」


 ……やはり、このご時世仕事を得るだけでも大変らしい。


「昨日はライラが持っていましたけど」

「魔石見たさに持ち出すのだ。それで昨日返せと言い、ライラは私が寝ないのを確認がてら来たのだろう」


 昨夜の遭遇は、魔石を持ってきた結果だったのか。


「それ、どのくらい価値があるんですか?」

「高価な物に変わりないが、採掘した物を加工しただけだからな。金額的価値はあるが道具的価値はそれほど高く無い」

「そうですか」


 もしシュウ達が戦士団の情報を探っているとすれば、そうした物を奪おうと画策している……と考えてみたが、価値がなさそうならその可能性はないか。


「ひとまず作戦は成功だ。まずは礼を言おう」


 そこでルルーナは話を変える。


「あと、ライラから報告は聞いておくが……ルールはちゃんと守ったか?」

「はい」


 自信を持って応じる。反応にルルーナも納得したか小さく頷いた。


「昼からも訓練は続くから、それを守るように」

「わかりました……あ、それとカインから一つレクチャーを受けたんですが」

「カインから? ほう、やはり戦ったのか」


 やはりって……書状を渡す時、なし崩しに戦うと予想していたのだろう。


「ちなみに攻撃する暇もなく、手も足も出ませんでしたけど」

「条件付きかつ、あいつの速力を鑑みるに、仕方ないな。それで、どのようなことを教わった?」


 ――というわけで、カインと出会って以後のことを話すと、


「あいつは相変わらずだな」


 そんな感想が返ってきた。


「カインの場合は簡単に説明して後は頑張れ、というケースが多いからな。今回もその範疇だろう」

「で、溜め方についてですが……」

「魔力の流れを変える訓練と一緒だ。溜め方によって大きく差異が出る。その結果の一つが、カインが貴殿に見せた技法だ」


 説明すると、ルルーナは俺が身に着ける腕輪へ視線を送る。


「カインは一定の評価を下したようだが……これは魔力の流れを確固たるものにしてからやるべきだな。上手に魔力を収束させることで真価を発揮する……だからカインは応用だと言ったわけだ」

「なるほど、そうだったんですか」

「あいつは説明下手でなおかつものぐさだからな……紹介状のことを聞いて、面倒だと思ってさっさと教えてしまおうと行動したわけだ」

「……カインさんについて、お詳しいですね」

「腐れ縁だからな。付き合いが長ければ必然的に性格もわかってくる」


 頭をかきつつ、彼女。顔は気苦労が絶えない、という雰囲気。


「それで話を戻すが……書状を渡したのだな?」

「はい。ちなみにそれは、演習に関わることなんですか?」


 さすがに内容そのものを話すことはしないだろうと思い婉曲的に問う。しかし、


「あの書状には今回の演習に際し、連絡のため銀の獅子団に出入りした者の報告が記載されている……カインから個人的に頼まれ、内部を探っていたわけだ」


 彼女は深い内容を話し、なおかつ含んだ笑みを見せた。


「加えて、こちらの戦士団についてもあいつが探っている」

「互いが互いに、というわけですか。でもなぜ双方が……?」

「仲間内では情もあるため、どうしても調査が難しくなる。さらに結束が強く、下手に探りを入れると誰かが漏らしてしまう可能性がある。。外部の者がやらないとまずい」


 なるほど、内情を調べるのに仲間は使えないのか……納得していると、さらにルルーナは言った。


「これでひとまずレン殿の仕事は終了だ。後はカインからの報告を、演習中どこかで受け取るだけ。次の演習は昼からだったな? それでは、レン殿もひとまず休憩していてくれ」






 ――そんな風に言われ本陣を出たのだが、特にやることも無い。だから仕方なく散歩することにして、なんとなく本陣背後にある森へ足を踏み入れた。


「ひとまず、良かったかな」


 歩きながら、安堵の声を漏らす。きちんと指示通りの内容をこなすことができた。


「とはいえ、まだ演習は続くからな。気は抜けなさそうだが……」


 この調子だと次の戦いでも指示を受けるかもしれない……右腕のこともあるため、正直精神的な疲労は大きい。


「ま、やれるだけやるしかないか……」


 呟いた――その時、視線の先に泉が見えた。さらに、ほとりに人影を見つける。

 目を凝らすと、ライラ達だった。どうやら森の中を見回っているらしい。


 思考がそちらへシフトする。ルルーナは本陣に戻って様子がおかしかった。さらにライラへ見回りを指示……もしや、敵襲の兆候でも感じ取ったか?


「あ、その辺のことを含め、シュウさんについて訊くのも忘れてた……」


 結局、情報を横流しにしている人物がシュウ達と関係あるのかどうか、わかっていない。彼女の中では何かしら結論を導き出しているのだろうか。

 考える間に、泉に到達。音に気付いたか、全員は一様に視線をこちらへ向け、


「レン殿か、どうした?」


 ライラが口を開いた。


「散歩だよ……見回りは終わった?」

「ああ。今の所異常は見受けられなかった……それで、今は報告に戻るかもう一度調べるか話し合っていた所だ」


 言って、彼女は腕を組む。


「様子がおかしかったため、何かあるのだと私は考えている……」

「それじゃあ、俺が連絡してこようか?」


 暇だったので、そう提案してみる。


「本当か? それならば助かる」


 ライラはあっさりと賛同。他の戦士達も一様に頷くのを見て……俺は一度彼らを見回した。

 彼女を含めて人数は五人。名前も知らない戦士達で、装備も鎧に剣。至って普通――


 けれど、その中――角刈りの戦士を見て目が止まった。


「どうした?」


 ライラが問う。対するこちらは「何でもない」と短く答え、目を戻した。


 当該の人物には見覚えがあった……けれど、この場になぜいるのか疑問に思う。

 目に留めた相手――それは、カインの戦士団にいるはずの人物。先日酒場でフィクハに絡んだ、あのナックという戦士だった。

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