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森の中で

 俺達は一列になって森の中を進む。先頭はライラ。その後方に戦士が四人続き、ロノの後ろ……つまり最後尾に俺がいる。


 道中、書状をどう渡せばいいか思案する。今日の朝ルルーナにも言われたが、書状を渡すという点についてはカインへ話していないとのこと。よって、カインのいる所へは自力で辿り着かなければならない。

 その時、俺はなぜ野戦の時渡すのかという質問をしてみた。すると彼女は、


「監視されているかもしれない状況だ。平時に書状を渡すと警戒していることが敵にわかってしまう。しかし場が混乱している戦場で渡せば、露見されずに済む」


 そう俺に告げた。とはいえ、書状を渡す際決して怪しまれてはならないため、よくよく考えると難しい。 

 けれどそれ以前に……この作戦が成功するか否かが問題だ。森の中で戦闘となりこちらが負けてしまうと……作戦上退却せざるを得なくなるだろう。そうなればカインと遭遇する可能性がほぼなくなる。中央に布陣しているはずのカインと会うためには、まずこの作戦を成功させ奇襲を仕掛けないといけない。


 怪しまれないように渡す……などというのは、出会ってから考えよう。


「……いるな、確実に」


 森に入って少しすると、ライラが声を発した。俺は何を――と思ったのは一瞬。すぐに敵が潜んでいることだと理解。


「相手の方が森に入ったのは先か……? どちらにせよ、出てきたのならば戦うしかないな」


 ライラがそう断じると――戦士達は剣を抜く。俺も合わせるように剣を抜き……そこでリデスの剣でないことを改めて認識する。

 しかも訓練ということで教わった技法以外で戦ってはいけないんだったな。ライラの目もあるし、ひとまずそれに従い動くことにしよう。できれば書状を渡すことに専念したかったな……などと思ったが、言わないことにする。


 それからさらに森を進み、前方のライラが立ち止まった。合わせて止まると、戦士の一人が問い掛ける。


「どうした?」

「……川が流れる音が聞こえるな」


 彼女の言葉に俺は耳を澄ませてみる。確かに水の音が聞こえた。


「ここから方向転換する、のだが……問題は周囲を取り巻く気配だ。敵はどうやらこの森にいるようだが、仕掛けてくる気配は今のところない」

「怖気づいたんじゃないですか?」


 戦士の一人が冗談っぽく声を上げる。ライラはその戦士を一瞥しつつ、


「……予定通りこのまま進もことにしよう」


 一つの決定を下すと、足の方向を俺から見て右にやろうとした。

 その時――ふいに、左斜め前方向から魔力を感じ――迫ってくる。


「来ます!」


 最初の反応したのはロノ。そこで全員が動き出し、こちらに来ようとしていた魔力を避けた。

 直後ドッ、という音と共に地面に何かが突き刺さる。すぐさま地面に目を落とし、それが何なのかを認め、


「……矢?」


 呟く。銀色の光に包まれた、魔法の矢。


「……おい、マジかよ」


 戦士の一人が言う。矢を見て、どのような相手なのかわかった様子。


「奴らはここで、俺達を全滅させるつもりか?」


 戦士がさらに声を上げた、その時、


「違うな」


 頭上から声が聞こえた。

 首を上げ、矢が飛んできた方向に視線を移す。そこには、


「お前達を全員叩き潰し、ついでに側面攻撃をさせてもらう」


 太い木の枝に立ち弓を構える男性の姿があった。


「弓戦士、アリックか」


 対するライラは淡々と彼を見上げ呟く。


「ああ。さすがにこのまま通すわけにはいかないな」


 強い視線を伴った彼は、少なからず畏怖を感じさせる相手。

 装備は弓に灰色の軽鎧。黒髪のオールバックに三白眼と、子供が見たら泣くんじゃないかという怖さを持っている。


 そして、ライラ達が知っている……このことから、カインの戦士団の中ではそれなりに名が通っているのは間違いない。最初から強敵のようだ。


「無論、俺一人で待ち構えていたわけじゃないぜ?」


 さらにアリックは続ける。同時に川のある方向から茂みをかき分ける音が聞こえ始める。

 視線を転じる。そこにはガタイのいい戦士風の人物が――四人。


「数の上では分がありそうだな」


 それを見た味方の戦士が声を上げる。しかし――


「何か言った?」


 今度はなんと背後から声が聞こえた。

 即座に振り返る。そこには鉄鎧姿でありながら、少年然とした身長の低い男性が一人。手には細身の剣。容姿は茶髪のロン毛に耳にはピアス……元の世界の言葉で表現すれば、チャラ男だ。


「取り囲むために潜んでいた、ということか」


 ライラが極めて冷静に告げると、少年っぽい男性は小さく頷いた。


「実を言うと、今回とある国の騎士が戦いを見に来ていてね。団長も気合を入れて戦うことにしたらしく、僕らが奇襲を行うことになったんだよ」

「出だしからアリックとマティアスのコンビが相手か。今回の戦いは厄介なことになりそうだ」


 ライラは面倒そうに言った後、アリックへと目を戻す。


「しかしどんな相手であろうと作戦の遂行を妨げる者は、叩き斬る」

「勝つのは俺達だ……それじゃあ、始めるとしよう」


 アリックが応じると最初に現れた戦士四人が戦闘態勢に入る。するとライラを先頭にして戦士二人が彼女の両脇を。残り二人がロノの左右へ移動する。


「レン殿」


 そこで、ライラが振りかえらないまま俺に呼び掛けた。


「マティアスを任せてもいいか」

「……わかった」


 すかさず承諾する俺。ただそれは時間を稼げという意味か、それとも倒せという意味なのか――


「そちらは新参者か?」


 アリックが口を開く。話の矛先がこちらに向けられた。


「今回のゲストだ」


 対するライラは事務的に応じる。しかしアリックは首を傾げてなおも問う。


「名前はレンか……もしや、勇者である――」

「その当人だ」


 あっさりと答えるライラ。あ、これはまずい。


「へえ……」


 最初、マティアスが反応。右手に持つ剣をヒュンと数度振った後、切っ先を俺へと向けた。


「新世代の勇者か……戦士ルルーナへ剣を教わりに来たってところかな?」

「……そんなところだ」


 俺は観念してマティアスに答え彼の正面に立つ。


「森に入って早々とは思わなかったが……やるしかなさそうだな」

「だね」


 マティアスの目が鋭くなる――それは、獲物を狙う狼の目だ。

 対する俺は無言……その時、懐にある書状と右手の腕輪を意識した。


 ルルーナはライラに見張っておけと言っていた……何も語らなかったが、彼女は俺を見定める試験を行うつもりなのかもしれない。ならば、まずはこの作戦を成功させる――期待を裏切るような真似はできない。

 そして腕輪……場合によっては本気を出して――いや、彼女ならばこの程度の苦境ハンデありで乗り切らなければ話にならないと言うかもしれない。


 やれやれ……心のどこかで嘆息し、剣を握り締める。与えられた条件をこなさなければ、ルルーナから信用を得るなんてきっとできはしないだろう。ならば、要求通り戦う他ない。


「それでは、改めて――」


 アリックが言う。瞬間、周囲の空気が一変する。


「始めるとするか!」


 叫んだと同時に彼は矢を放つ。それは正確にライラを狙い――彼女が避けた瞬間、交戦を開始した。

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