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遭遇戦

 翌日、俺はフロディアやリミナに見送られて目的地へと出発した。今回の旅は俺一人……リミナ達もまた別となるらしいので、一度バラバラになる形だ。

 そして目的地なのだが、村からおよそ一日くらいの場所。フロディアの家にあった地図では街道を外れた先、森や川が点在する平原だった。


「演習の為に準備をしているはずだ。少なくとも、城壁に見立てた木の柵くらいは用意されているはずだよ」


 そうフロディアは言っていた。軍事演習といっても結構大規模らしく、平原に色々と用意しているらしい。


 本格的……という感想が最初浮かんだが、それだけ今回の演習に力を入れていると捉えることもできる。もっともこれが平常通りなのか今回は現世代の有名人同士が戦うからなのかはわからない。

 とりあえず俺はその時場所をしっかりと覚え……そこで、フロディアから一つアドバイスをもらった。


「リデスの剣は見る人によってはすぐにわかる……ただ鞘と柄さえ隠せばわからないと思うから、そこだけ注意すれば余計な事態にはならないよ」


 ということで急ごしらえではあったが、鞘の上から革を巻きなおかつ柄の部分も布を巻いた。戦士ばかりなので悟られる可能性があるからなのだが、正直勇者レンだと明かせば大なり小なり面倒が起きるかもしれないので、変わらないかもしれない。


 そして出発し、目的地へ辿り着く前に最寄りの街で一泊。旅自体は非常に順調……だったのだが、翌朝出発していよいよ目的地近く、俺は少しばかり悩み始めた。


 地図である程度の場所まで把握できているのだが、どちらの陣営がどのように布陣しているのかまでは現地に行かないとわからない。フロディアからそれぞれの紹介状をもらっているので、どちらから先に行っても良い状況なのだが、


「最初はカインの方へ行くことをオススメするよ。ルルーナの陣営は……演習が終わった後に行くといい」


 そういったアドバイスを受けているため、カインの方に行こうとした。一応腕章なんかで見分けがつくようされているらしく、ロゴは覚えているので間違った場所にたどりついても判別できるはずだった。


 俺自身さしたる問題は起きないと思っていた。ルルーナの方へ万が一向かったとしても、演習前であれば大丈夫だろうという楽観的に考えていた。

 だから演習が行われる平原近くに来た時、一人にも慣れて来たのでショートカットしようと思い森の中を突っ切ろうとした。方角はある程度わかるのでこのまま進めば昼前には辿り着くと目論んでいた。


 で、現状どうなっているかというと、


「……マジかよ」


 森の中、四方八方から殺気立った視線を投げかけられていた。






 人数は明瞭に把握することができない。けれど、鋭い殺気が複数……それも、一人や二人などというレベルを超えた数なのは直感できた。


「えっと……」


 俺は困惑した表情で頬をかきつつ周囲の様子を窺う。とりあえず、姿は見えない。

 呼び掛けようか考えたのだが――ここで迂闊に喋り出すと、矢でも飛んできそうな気がする。


 けど、このまま黙りこんでいても……そんな風に思った時、


「貴様、何者だ」


 中性的な声が正面から聞こえた。女性っぽい気がするのだが……いや、今はそんなことを考えている場合じゃないか。


「えっと……旅の者です」


 カインやフロディアの名を出してもよかったのだが、ここで相手がルルーナ関係だとすると、どう転ぶかわからないので言わないことにする。


「なぜこの森を歩む?」


 さらに問い掛けがやって来る。完全に警戒している様子なのだが……参ったな。

 どう弁解しても険悪な態度は変わらないかも……仕方ない。ここは正直に話すか。


「あの――」


 口を開こうとしたその瞬間、殺気が僅かに強くなった。


「質問に答えるつもりは、無いようだな」

「え?」


 前方から声が聞こえたその直後、 周囲の茂みから人が姿を現した。


「っ!?」


 いきなり――内心驚愕しつつ、相手が全員剣や槍といった獲物を携えているのを見て、反射的に剣を抜く。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 けれど、まずは話を聞いてもらおうと叫ぶ。しかし、


「構うな! こいつはおそらく斥候だ!」


 正面から声――斥候という言葉を聞いて俺はなんとなく理解する。彼らはカインかルルーナが率いる戦士団の面々。そして、俺のことを敵方の人間と勘違いしている。

 敵は血走った目を伴い、茂みをかき分け突き進んでくる。こうなっては話を聞いてくれないだろう――やりたくはなかったが、一度黙らせないとどうしようもなさそうだ。


 まず周囲を見回す。囲むように迫る人数は四人で、左右から二人ずつ来る。全員体格が良く、いかつい顔と無骨な装備を伴った男性。武器は右の二人が長剣。左の二人が剣と槍。

 同時に、四人全員の獲物に魔力を感じ取る。


「くっ!」


 俺は舌打ちしつつ包囲を脱しようと後方に跳んだ。森の中であったため動きにくいことこの上なかったが、彼らが突撃するより先に移動で来た。

 続いて唯一槍を持った男性が先んじて迫り、野太い声と共に刺突を俺へと放った。


 対するこちらは……楽にかわせるレベルであったので身を捻って避けてもよかった。けれど、槍を持っている以上厄介だと思ったし、多勢なので倒せる時に倒さないと危ない気がした。

 なので僅かな時間で決断し――槍を斬り払った。攻撃をした男性の目が僅かに見開く。反応できたことに驚いているのかもしれない。


 けれどこれには続きがあった。リデスの剣に魔力を凝縮した一撃――結果、槍の半分から先を斬り飛ばした。


「なっ!?」


 男性が声を上げる。同時に俺はさらに剣を振り雷の矢を放ち、見事直撃。男性は多少の呻き声と共に、地面へと倒れた。

 無論加減はしている。せいぜい一時的に動けなくなる程度。


「こいつ……!」


 どこからか中性的な声。む、俺の所作に対し警戒している様子。

 その間に残り三人が迫ろうとする。その中先行したのは、槍を持った男性と共に左から仕掛けた男性。剣を掲げ、俺をまっすぐ見据えながら突っ込んでくる。


 そこで刀身を一瞥する。魔力はかなり込められている。破壊できなくもないが……結構気合を入れる必要があると理解。あまり出力を大きくすると、さらに輪を掛けて警戒されないだろうか。

 とりあえず、叩き落として雷撃を入れよう――断じた瞬間、斬撃が来た。俺はそれを素早く弾く。


「ぐっ!?」


 男性にとっては予想以上の威力だったか、苦悶の声を上げて剣を取り落としそうになる。その間に俺は雷撃を剣に収束させ、撃った。

 それもまた男性にヒット。よし、これで二人目。


 すると残り二人の男性が止まる。あっさりと二人やられてしまったので、迂闊に攻めるのは危険だと判断したのだろう。


「おい、ライラ!」


 そこで俺と対峙する男性の一人が叫んだ。ライラ……最初に声を発した人物の名前だろう。


「お前はいったん戻れ! ここは俺達が食い止める!」


 なんだか格好よく叫ぶ……いや、こんなところで死亡フラグを立てなくてもいいと思うんだけど。


「し、しかし!」

「戻って報告しろ! 俺達を信用できないのか!」


 考える間に話は進む。会話だけ聞いていると、こっちが完全に悪役である。

 で、ここからどうするか……ん、待て。彼らは無理に仕掛けようとしていない。なら、ここは一度話を――そう思った瞬間、


「――うおおおおっ!」


 会話をしていなかった男性の方が、俺に突撃を開始した。

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