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戦士の現実と魔王の謎

「良い所ですね、本当に」


 昼食後、俺達はフロディアの案内により村を見回り、現在は村の端で畑を耕している姿を見ている。

 この場にいるのは俺とフロディアだけ。リミナとフィクハは彼に「森の方には薬草が結構ある」と言われ、アクアと共に興味本位でそちらへ足を運んでいる。


「私の威光があるからか、犯罪もほとんどないね」


 対するフロディアの答えがそれ。確かに彼が近くにいれば泥棒もそうそうできないだろうと思いつつ……ふと、疑問を抱いた。


「あの、フロディアさん」

「何?」

「その、もし答えられたらでいいんですけど……英雄なんですから王様とかになってもおかしくないのでは」

「私と同世代の英雄が、政治活動をしていたなんて聞いたことがある?」


 ……あれ、そういえば。シュウについては屋敷を構えて魔法に関する研究をしていたけど、執政に携わっているわけじゃないな。


「魔王を倒した後、英雄アレスを始めその辺りをどうしようか話し合ったことがある。結果としては、全会一致で政治に関わらないよう決定した」

「なぜですか?」

「私達は政治に関しては素人だしね……執政に関われば、ロクなことにならないと英雄本人が一番理解していたわけだよ」


 そう言いつつ、彼は小さな笑みを浮かべた。


「それに……ザンウィス殿が語っていたよ。私達は平和な世界で表に出るべきではないとね。実際は断続的に魔族や悪魔が現れたため、戦士団が結成され各国は軍備増強を余儀なくされたわけだけど」

「そうなんですか」

「しばらくは私も国と連携して魔族と戦っていたよ。それがようやく落ち着いて村で暮らし始め、ふと赴いたベルファトラスでアクアと出会ったわけだ」


 と、フロディアは俺に顔を向け笑って見せた。


「その辺の馴れ初めは聞きたい?」

「……どちらでも構いませんよ」


 あまり興味も無い……と、そこでまたも疑問が。


「フロディアさん。現世代の人というのは戦士団を率いているケースが多いんですか?」

「傭兵家業の人が多いから、戦士団に所属しているというケースもあるね」

「騎士や闘士も結構いますよね?」

「いるね」

「では、認可勇者は? 話の上では出てこないですけど」

「いないよ」

「え?」

「いないんだ。そもそも認可勇者という言葉ができたのも十年経ってない」


 驚いた。そうした制度は魔王との戦い以後結構経過して作られたものらしい。


「段々と平和になるにつれ、国側も軍費を削減するようになった。ただ、散発的に出現する悪魔やモンスターなんかに対応しなければならない。戦士団のような大所帯はいらないけれど、優れた使い手は欲しい……そういう理由から、認可勇者という制度が設けられるようになった」

「戦士団とは成り立ちも違うんですね」

「そうだね。実際これは結構インパクトがあって、認可勇者が増えている反面戦士団は減った。団として機能しているのは数えるほどしかいないんじゃないかな。私は少し寂しくもあるけど、戦士団がいなくなるということはそれだけ平和になったということだから、人々にとっては喜ばしいことだよ」


 ――俺はふと、リデスの剣を購入したルールクの店を思い出す。ああした店もめっきり減ったと言っていた。それと同様、平和な世の中になりつつある状況では、戦士団もやはり需要が無いようだ。


「英雄ザンウィスは、戦わずして食っていける何かを探せと戦いが終わった後言っていたよ。多くの傭兵達は何を言っているのかと首を傾げるばかりだったが、それは正解だったようだ」

「先見の明、というやつですか」

「だね。シュウを始め魔法使いについては研究分野があるから食いっぱぐれない人もいたけど、そうした人は極一部で……偶然再会した時剣や魔法を捨てているのを見ると、やっぱり寂しくなってしまうな」


 やや悲しげな瞳を見せたが……彼は息をつくと表情を戻した。


「他に質問はある?」


 そして俺に問う……そこで、今度は魔王に関して質問をしたくなった。


「フロディアさんは、魔王を見たことは?」

「あるよ。けれど姿形を変える存在だったから解説をしても意味は無いだろうね……真の姿は、アレス一行しか知らない」

「となると、現状知っている人は……」


 皆まで言わなかった。けれどフロディアは小さく頷く。


「ただ、一つ気になったことがある。英雄アレス達は、頑なに魔王の正体については話そうとしなかった」

「話そうと、しなかった?」

「理由すら話そうとしなかった。けど、もしかすると……」


 と、フロディアは口元に手を当て、やや険しい顔を示す。


「倒した時何かあったのかもしれない……それが、シュウの件と関係あるかどうかはわからないけど」

「そう、ですか」


 シュウ――そこで次に彼のことを尋ねる。


「あの、シュウさんの目的とかはわかりませんか?」

「本人に訊いてみないことには……ただアークシェイドに加担していて、なおかつ魔の力を受けているとなれば魔王を復活させようとしていてもおかしくないな」


 どこか冗談っぽく彼は言う――けれど、正直笑えない。


「ただ、魔王は完全に滅ぼしたはずで、霊殿(れいでん)にだって魂はないはず……」

「……霊殿?」


 思わず聞き返す。するとフロディアは「ごめん」と言った。


「説明しないといけないな。魔王を含めた魔族についてだけど、彼らはモンスターや悪魔と違い肉体を所持している。基本的に魔族は長命だけど、肉体はいずれガタが来る。だから肉体がおかしくなった時、自身の魂を霊殿という場所に移し、新しい肉体を得るまで管理されるんだ」

「へえ……」


 これは面白い話だ。


「現状、私達は魔王を倒したと思っている……けれど実は霊殿に魂が存在し、シュウだけがその事実を知っていて魔王を復活させようとしている……そんな感じで推察することもできる。でも、決めつけは良くないな」


 確かに今の状況だといくらでも推測できるな……と、待てよ。


「もし霊殿にあるなら、生き残った魔族が魔王を復活させるんじゃ?」

「まあ、確かにそうだ。状況的に魔族が魔王を復活させないのだから、霊殿に魂がないのは間違いないか。けどシュウの行動が魔王と関連している……そんな予感もする」


 そこで、フロディアは俺を一瞥し顔を戻した。


「と、これ以上並べ立てても解答は得られないな……この話は終わりにしよう」

「はい」


 ――色々と情報は得た。とはいえ結局わかったことはシュウ達の目的がわからないことだけ。

 なので難しい表情をして――途端にフロディアが補足するように声を発した。


「英雄アレス達が魔王を滅ぼしたのだと言ったなら、そこは動かないと思う。ここから考えるに、シュウ達は魔王に関連する魔族か、武具か何かを呼び寄せようと画策しているのでは……そんな風に思う」


 手元にある情報だけでは、その辺りが妥当か。一定の結論は得たので俺は頭を下げた。


「色々と教えていただきありがとうございます」

「礼はいらないよ。君達に関わる話だから教えるのは当然だ……ああ、レン君。一つだけ助言を」

「はい」

「先も言ったように、以前と比べモンスターは減っている。このままもっと少なくなれば、真に平和な時代が来るだろう……けれど、シュウ達はそれを脅かそうとしている。止めなければならない。その中で、英雄アレスの剣技を使える君の力は、大きな役割を担うかもしれない」


 彼の言葉で俺は少なからず緊張する。


「だから、これから赴く場所で存分に力をつけて来てくれ……期待しているよ」


 ――その言葉の後、俺はもう一度頭を下げた。色々と謎が生じる中、強くならなければならないことだけは、深く頭の中で理解した。

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