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勇者の問題

「では解説を始めるとしよう」


 家へと戻り、フロディアは俺達と向かい合って話を始める。位置的には俺の右にリミナ。左にフィクハ。そしてアクアは少し早いが昼食の準備を始めた。彼女曰く「これだけいるから豪勢にしないと」とのこと。


「まずフィクハさん」

「はい」

「二つ選択肢があるから好きな方を決めてくれ」

「二つ、ですか?」

「そう。わかりやすく言えば剣術を取るか魔法を取るか。技法の習得……これを私やアクアは『魔力の質を変える訓練』と言っているのだが、その訓練を行う場合、純粋な魔法使いと剣士ではやり方が違う」

「どちらかしか選べないということですか?」

「両方やれなくもないけど、その時間があるかどうか……あ、一つ言っておくけど片方を捨てろと言っているわけじゃないよ。どちらかを優先させるから、片方については質を変えることをしばらくあきらめて欲しいだけだ」

「なるほど。では魔法に関する修行を取ります」

「わかった」


 理由一つ訊かず彼は了承する。


「では次。リミナさん」

「は、はい」

「ドラゴンの力があるから、まずはその制御を優先だけど……君はどっちにする?」

「ど、どちらとは?」

「魔法使いでいくか戦士でいくか」


 リミナの頬がひきつる。戦士という単語が出たため驚いたのだろう。


「わ、私武器とか使ったことないんですけど」

「そうか。魔力の質から考えて戦士向きである気がしたんだが」

「でも技術がゼロなわけですから、難しいですよね?」

「うん、そうだね。ただ、護身程度に技は覚えた方がいいな。訓練の時その辺りも少しやろう」


 リミナの表情は変わらず。まさか自分が武器を――と心の底から思っていることだろう。


「二人についてはまだまだやるべきことがあるし、質を変える訓練と共に色々やっていくべきだろう……で、レン君」

「はい」


 いよいよ俺か、と思い返事をした。


「先ほど手に触れてわかったが、君については少なからず基礎ができている。けれど問題が三つある。質を変える訓練と同時に、そこも直していこう」

「三つ、ですか」

「そうだ。その内二つは魔力収束について。無駄な魔力を放出する点と、制御能力が足りていない点」


 現状でもまだまだのようだ……まあ、当然か。


「解説すると、基本的に魔法というのは魔力量と制御レベルによって威力が決まる。二つが共に高ければ相乗効果により魔法の威力は格段に上がる」

「はい」

「君の場合、白銀の魔力であるため注いでいる魔力量は十分だ。けれど制御がまだまだ甘い上、無駄な魔力を放出している。ついでに言うと、技術も足りない。これが三つ目だね」

「制御面はわかりますが……技術?」


 そこで首を傾げ質問。するとフロディアはキッチンに立つアクアへ声を掛けた。


「アクア、いらない食器と雑巾ある?」


 声に対し、アクアは食器棚へ近寄って雑巾と何かを取り出し、フロディアへ放り投げた。


「ありがとう」


 キャッチして彼は礼を告げる。見ると、亀裂の入った木製のコップだった。危なくて使えないのだろう。


「実演して見せるよ」


 そう言って、彼はコップと雑巾をテーブルに置き、両手を広げ手のひらに魔力を集めた。

 生み出したのは、ピンポン玉くらいの大きさをした水の塊。


「今、両手には同じ量だけの魔力を加えて水を生み出している。で、通常これをコップに叩きつけても――」


 言いながら、彼は右手にある水をコップへ向け振り下ろした。途端水は弾けテーブルに落ち、コップが僅かに揺れる。


「この程度だ。これが君の場合で、水の塊を際限なく出して、相手を押し潰すように魔法を使っている」

「質より量ってことですね」


 リミナが告げると、フロディアは「そうだ」と応じた。


「この状態でコップを破壊するためには、相当な量が必要だろう。けれど、見ていてくれ」


 と、彼は顔を動かし左手を見るよう促す。注目すると――


「刃?」


 水の塊の形状が変化し、ナイフのようになっていた。


「そう。これをコップに当てると……」


 言いつつ、彼は左手をコップ目掛けて振り下ろした。途端、水がコップを両断し、テーブルの上で真っ二つとなる。そして水は役目を終えたのか、形が崩れテーブルに落ちる。


「まったく同じ水量でも、やり方によっては容易に破壊できる……レン君に足りないのはここだ」


 そう言いつつ、彼は雑巾を手に取りテーブルを拭く。


「技術というのは、こうして魔法の使い方を変えて戦うことだ。現世代の中には君より魔力量が少ない人も多くいる。けれど彼らはそれを補ってあまりある技術を保有している。だから強い」

「なるほど……わかりました」

「技術や制御については良い師がいる。紹介状を書くから、その人を訪ねるといい」

「え? 紹介状?」


 いきなり話が飛んで目を白黒させる。


「剣術は私じゃ教えられないからね。それと、君の場合は教えて実戦で鍛えた方がよさそうだし、それで良いだろう。丁度演習があるって言っていたし」

「あの……もしかして」


 予感がして声を出す。するとフロディアは察したようで、


「あ、もしかして知っているのかい? ルルーナとカインが軍事演習するから、そこで二人を訪ね、一連の技術を教わればよいと思ったんだが」


 そういう展開になるか……別に不服と言うわけではない。


「結構色んなことを同時に教わる雰囲気ですが……習得できるんですか?」


 ふいにフィクハが質問する。彼はそこで彼女を見返し、答える。


「どれだけ猶予があるかわからないから、少しくらいは無理を通さないと。二人も大変になるのは覚悟しておいてくれ」

「……わかりました」


 フィクハは頷く。顔は訓練を思ってか引き締まった。

 表情を見てフロディアは微笑み、俺に顔を戻す。


「カイン達に魔力の質に関することも教わってくればいいよ。君は結構筋がよさそうだから、基礎部分は十日くらいでできるんじゃないかな」

「そんなに早く?」


 少し驚き聞き返すと、彼はどこか確信を伴った顔で頷いた。


「あくまで基礎部分だけだよ。そこからひたすら鍛錬を繰り返し強化していく……他に、師がいない君の剣技をどうするかとか色々問題はあるけど、まずは魔力強化を優先しよう」


 彼の言葉に俺は首肯した。一連の話とラキやシュウの能力から、現状ではそもそも剣が通用しないだろう。その点はすぐにでも是正する必要がある。


「で、私達はシュウに関して国の要請に従い協力することを決めた。その一環としてフィクハさんとリミナさんを指導する。よろしくお願いするよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 リミナが頭を下げた。一歩遅れてフィクハも頷き、話が決する。


「よし、今日は村でゆっくり休むといい。フィクハさんとリミナさんは明日から訓練開始。レン君には地図を渡すから、演習が行われる場所へ行ってもらうことになるかな」


 ――あ、そうか。ここで別行動になり、俺は一人で当該の場所へ向かうのか。


「あ、えっと」


 そこでリミナが声を上げた。きっと心配してのことだろう……けどまあ、彼女にずっと頼ってばかりもいられない。


「わかりました」


 先んじて俺は頷く。途端にリミナは押し黙り、フロディアが満足げに頷いた。


「良い返事だ。それでは今日一日は休みということで……もし良ければ村の案内とかするけど」

「あ、私色々見回りたいんですけど」


 すかさずフィクハが手を上げた。


「英雄が暮らす村というのはどんなものか見せてもらいます」

「何か期待している雰囲気だけど……何もないよ? ただの農村だ」

「いえ、絶対すごい魔法道具とかがあるに決まっています」


 彼女の意見にフロディアは苦笑する。そして冗談っぽく俺達へ告げた。


「ならば、その辺りを探してみるのも一興か……昼食が終わったら、案内することにしよう」

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