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引退した闘士

 到着した村は田園風景が広がる牧歌的な場所。俺達が通って来た街道は村の東側で、反対方向には森がある。南側には草原、北方向には畑とやや距離を置いて山――その場所から流れるであろう川が、畑に水を提供し、村の近くを流れている。

 時間的には朝の段階で到着したため、多くの人々が畑に出て仕事をしているような状況だ。


「平和ねえ」


 フィクハは呟きつつ、村の入口周辺からきょろきょろと見回す。


「まずはどの家なのか確認しないといけないわけだけど……人、いないなあ」

「適当な家を訪問して訊いた方がいいだろうな」


 意見すると彼女は「そうだね」と答え、村に入ろうとした。その時、近くにあった家の扉が開き、初老の男性が姿を現した。

 それを見てフィクハは「しめた」と呟く。


「すいませーん」


 彼女は男性に駆け寄り声を掛ける。相手は首を向け俺達の格好に気付いた後、誰を訪ねてきたのか理解したらしく確認の問いを行った。


「フロディアさんに御用ですか?」

「はい。どの家なのか教えて頂きたく」

「ふむ。しかしいつも朝方から森に入られているので、今は不在でしょう」

「では、アクア殿は?」

「ああ、それなら家におりますな。案内しましょうか?」

「お願いします」


 フィクハが頭を下げると、男性は気を良くしたのか笑みを零した。


「礼儀正しい方ですな」

「……私達のような人間の中には、無礼を働く人もいるんですね」


 と、俺はなんとなく話を振ってみると、男性は深々と頷いた。


「最近の者は礼儀が無くて困りますな」


 出た。年配の人が発する「最近の若い者は」という文言。例え異世界でも同じように考えるらしい。


「では、案内しましょう」


 と、丁寧に男性は俺達を先導し始めた。

 途中、俺は周囲を見回し村の構造に気付く。街道から村に入ると幅の広い道があり、村の中心で十字路となっている。さらに道沿いに家が並んでおり、俺は街中にある大通りを思い出す。


 理路整然としている……そんな風に感じつつ十字路を真っ直ぐ進み、一軒の民家に辿り着いた。

 何て事の無い木造の家。けれど男性が玄関ドアをノックした時、いよいよだと思い少しばかり緊張した。


「はーい」


 と、やや間延びした声が俺達に届く。フィクハはそれで確信を持ったのか小さく頷いた。

 続いて扉が開く。そうした現れたのは――


「アクアさん、お客さんだよ」

「ああ、どうもありがとうございます」


 と、ふんわりとした声で男性に告げる女性だった。


 格好は、茶褐色を貴重とした地味な衣服。上はブラウスのようなボタン付きで下は足全体を覆うようなスカート。そしてフィクハと同じような栗色の髪を腰まで伸ばした美人で――深い青の双眸が、俺達の姿勢を正すかのような清らかな印象を与えてくる。


「それでは、これで」


 男性は即座に俺達へ言うと、あっさりと引き下がる。残された俺達は女性――アクアと視線を合わせ、相手はフィクハの存在に気付いて口元に手を当てた。


「フィクハさん?」

「はい。お久しぶりです」


 声を掛けられたフィクハは頭を下げる。彼女とも面識はあるようだ。


「驚いた。昨日カインさんが来たと思ったらあなたまで」

「偶然です。ただ、私達はフロディアさんに会いに来たのですが」

「そう……」


 と、今度は俺とリミナに視線を移す。


「名前を聞かせてもらえる?」

「レンといいます」

「リミナと申します」

「……なるほど」


 と、アクアは俺達を一瞥し、


「英雄シュウが国を裏切ったことについて関連している?」


 ――聞いた瞬間、俺達は例外なく驚いた。


「知って、いるんですか?」

「ええ。国の人がやって来て説明を受けたの。口外はしていないから安心して」


 俺の質問にアクアは答えると、中へ入るよう促した。


「ひとまず中へ。あの人は昼まで帰ってこないから、ゆっくりしていくといいわ……あ、みんな朝食はとったの? もし食べていなければ――」

「村に向かう間に歩きながら食べたので」


 フィクハが答えると、アクアは「わかった」と応じ、


「なら、お茶を用意するわね」


 そう言って手招きをした。






 通された家の中、俺達はリビングに備えられた席へ座りお茶を待つ形となった。俺の目の前にはテーブル。奥にはキッチンがあり、アクアはそこで準備をしている。

 席に着いたテーブルは四人掛けなので、フィクハは椅子を一つ移動させて俺の左で横を向くように座っている。そして右にはリミナ。その状況で俺達は彼女が準備を終えるのを待っている。


「しかし、闘士には見えませんね」


 ふいにリミナが声を漏らす。それにフィクハは目線を向けつつ同意するような言葉を放った。


「私もモンスターの討伐を行った時そう思ったよ」

「戦場に立てば人が変わるという性質ですか?」

「普段通りだよ。何も変わらない」

「闘技大会に出場していた時から変わっていないと言われるわねー」


 ずいぶんと呑気な声でアクアは言う。ふむ、普段から穏やかな性格らしい。


「よし、これで準備完了」


 そしてアクアは言いつつトレイを持ち、その上に乗っているカップを俺達の前に置いた。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 アクアに言われ俺は一口。紅茶の類だった。


「さてと、まずは私達がどこまで把握しているか説明するわね」


 俺達が全員お茶に口をつけた後、アクアは椅子に座り切り出した。


「まず、フィベウス王国で起こった一連の事件についての詳細は知っているわ。公になっていない部分である勇者レン……つまり、あなたのことだけど、その辺りも把握している」


 そう言って彼女は俺達に微笑みかける。


「そして、英雄シュウがアークシェイドの残党と手を組み何やら策謀を繰り広げていること……表向きは彼らに操られてということになっているけれど、私達は彼が自分の意志で行動していることも知っているし……加えて」


 と、アクアは一度言葉を切った。次に何が言いたいのか、所作で俺は予想がついた。


「……英雄アレスの件についても知っている」

「あなた方には全部話した、というわけですか」


 フィクハは言うと、一つ質問を行った。


「もしかして、調査に参加して欲しいとの打診があったのでは?」

「ええ。国から正式な依頼が来た」


 頷くアクア。よくよく考えれば当然のことと言える。


「内容が内容だから、私達も協力の意志は固めたのだけれど……彼らの足取りを掴むこともできていない状況だから、しばらくは静観ということになっている」

「そうですか……私達としては非常に心強いです。ありがとうございます」

「いえいえ」


 笑みを湛えながら応じるアクア……だが、先ほどの話題によるものか、やや硬質な笑顔であると思った。

 対するフィクハは、話を進めるべくアクアへ言う。


「そして、私達は強くなることを言い渡され、お二人の下を訪れました」

「なるほど。フロディアに見てもらうということなのね。わかったわ。けれど、その前に」

「前に?」


 聞き返したフィクハに対し、アクアは一つ提言した。


「私も少しばかり興味があるから……ちょっと、試してもいい?」

「え、アクアさんと?」


 俺は思わず問い掛けた。彼女は「そう」と小さく答え、


「技量の程はどのくらいか……それを見る機会も必要でしょ? アドバイスできるかなと思って」

「それもそうか……レン、やろうか」


 フィクハは乗り気となったようで提案。俺も少し考え……自身の腕を改めて確かめるには良いかなと思ったため、


「わかりました。アクアさん、お願いします」


 承諾の言葉を彼女へと告げた。

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