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三つの世代

「英雄アレスや英雄リデス……そして英雄ナーゲンといった人が、戦士や騎士、そして闘士の憧れであるのは、よく理解していると思う」


 フィクハは、まず俺を見据え語り始めた。


「高々二十年前くらいの話だけど、彼らは伝説扱いされている……で、以後彼らに影響されたか、それとも魔王を倒しても悪魔や魔族が現れていたせいか、下の世代でも多くの戦士が生まれることになった」

「それがアクアの世代、ですか?」


 先読みしてリミナが問う。フィクハはそれに小さく頷いた。


「そう。十年前くらい前……アクアさんを始め魔王が顕現していた時代に子供だった人達が成長し戦うようになり、色んな場所で活躍するようになった。その中で一番有名だったのがアクアさんで、あの人の名前を冠し、彼らをアクア世代と呼ぶようになった。カインもその一人」

「一応、この十年は私達が中心であったとという自負はある」


 今度はカインの発言。表情は先ほどまでと変わらないが、言葉は力強かった。


「まあ、中心人物となっていたアクアが早々に現役を引退したため、今は使われなくなってきた言葉ではある。現役で活躍する者も多いため、現世代の英雄、もしくは戦士と呼ばれることもあるな」

「そうだね。で、今回カインと戦う蒼月の戦士団団長もその一人というわけ」

「因縁の対決ということか」


 同世代でしのぎを削ってきた相手であるため、今回も全力で立ち向かう気なのだろう。俺は頭の中で理解しつつ、カインへと質問する。


「その相手というのは?」

「名をルルーナ。戦士であるため闘士のアクアと戦うようなことは無かったが……比肩しうると称された、女性戦士だ」


 女性……アクアという人物のこともあるし、女性が多いのだろうか?


「フィクハ、女性が二人出てきたけど、多いのか?」

「二人は例外中の例外みたいに思ってくれればいいよ。無論ゼロじゃないけど、少ないのは確か。けれどトップクラスの戦いは筋力とかよりは内包する魔力によって戦いが決まるからね。剣術を習得すれば、男性女性関係なくなっちゃうのよ」

「魔王との戦いで魔族やモンスターの脅威に晒され、女性も戦う意識が向上した、という点も大きいでしょうね」


 ここでリミナが発言。俺は彼女に注目する。


「歴史的な背景から多くなったってことか?」

「はい。実際魔法使いもアクア世代と同じくらいの時期、女魔法使いが多数輩出現れました。その中で有名なのはごく少数ですが……数が増えたのは間違いありません」

「へえ、そうなのか」

「明確な敵がいたため、誰もが戦う必要が出てきたという考えが当時の人々にはあったのだと思います。私だってそうした方の教えを受け魔法使いとなった一人ですし、今後もこの流れは継続するでしょうね」

「そして、現状新世代が台頭してきているな」


 ここでまたもカイン。俺はすかさず首を向けると、疑問を口にした。


「新世代?」

「平和な時代が到来し、その記憶しかない君のような人間が、次の担い手として台頭し始めたということだ。有名な所で言えば闘技大会二連覇のセシルだが……私が各国を転戦して目を見張った人物と言えば、レキイス王国勇者グレン。そしてナナジア王国騎士オルバンなどがいる」


 どれもこれも聞き覚えのある名前ばかり……セシルは良いとして、他の二人も彼の口から名前が上がるとは驚きだ。


「皆さん会ったことありますね」


 リミナが言う。それにカインは眉をひそめた。


「会ったことが……?」

「はい。勇者様は色々と首を突っ込んでいますので」

「ちなみに、彼はそんな人達と互角と言っていいでしょうね」


 ――フィクハがそう発言した途端、カインの瞳が僅かに輝いた。


「ほう……興味があるな」

「……セシルとまったく同じ反応だな」


 俺はがっくりと肩を落としつつ言う。するとカインは「すまない」と目を戻した。


「後輩の力量も多少は気になるのだよ……で、そうした君がまだ強さを求めると?」

「はい……その……」


 アークシェイドやシュウのことを話すのはまずいと思うので、ここはぼかした返事をすることにした。


「打ち倒すべき相手がいるから」

「その相手は君より強いと?」

「……ずっと上だと思う」

「そうか」


 と、興味深そうにカインは言うが……追及はしない。ここまでの会話で彼は無理に訊こうとしていない。余計なことに首を突っ込んで藪蛇(やぶへび)にならないためだろうと、俺は察した。


「そういうことなら、フロディア殿を尋ねるのは正解だろう。あの人ならば確実に君のことを強くしてくれる」

「そうか……ん、ちょっと待て」


 と、俺は手で制止しつつ一つ疑問を告げる。


「話を聞く分には、フロディアさんとアクアさんの年齢って結構離れてる?」

「具体的な数字はわからないけど、十以上は差があるんじゃないかな。年の差夫婦ね」


 フィクハが俺の疑問に回答し、さらに付け加えるように話す。


「大体の目安だけど、英雄から十離れて現世代。そこから十離れてレン達新世代と思ってもらえればいいよ」

「そうか……となると、フィクハも新世代かな」

「私、名前取り上げられるほど強くないけど」

「謙遜が過ぎるだろう、それは」


 と、カインが横槍を入れる。


「反応速度などを考えれば素質はある。磨けば良い所までいけるだろう」

「その良い所じゃどうにもならないのよね……」


 と、フィクハは嘆息混じりに呟くと、大きく伸びをした。


「ま、大体の概要は以上かな。他に質問ある?」

「俺は無い」

「私もありません」


 俺とリミナが相次いで答えると、カインが小さく頷いた。


「そろそろこの辺りで失礼させて頂こう。すまなかったな」

「いえいえ……演習頑張ってね」

「そちらも修行頑張ってくれ」


 フィクハの言葉にカインはそう言い残し、端の方で固まっている一団へと歩いて行った。

 それと入れ違いに料理が運ばれてくる。遅いと思ったのだが……まあ、たぶん戦士団が騒動を起こしていたためだろう。


「さて、食べるとしましょうか」


 料理がテーブルの上に置かれると、フィクハが言う。俺は小さく頷き、フォークを手に取った。






 ――翌日、俺達は太陽が出た時間に出発した。ちなみに既に戦士団の姿はない。俺達よりも早く宿を出て行ったらしい。


「ここから少し進めばいいから……昼までには余裕で着くよ」


 フィクハのそうした解説に従い、俺達は街道を進む。とはいえ道は細く、本道と外れたことだけはしかと理解できた。


「……なあ、フィクハ」


 その途中で、俺は一つ声を掛ける。


「何? 昨日の続き?」

「ああ……新世代、だっけ?」

「オルバンさんとかの話だね。具体的な名前はついていないけど……そうだね、秋に開催される統一闘技大会で新世代の面々が本格的に出てくるだろうし、その辺りで名前がつくかもしれない」

「最有力なのはセシルかな」

「レンは?」

「……出るつもりないって」


 このやり取り、何度やったことだろう。ただ、一つ気に掛かるのがここまで話題に出た以上、なんだか本当に出てしまうフラグが立っているというか。


「修行と思えばいいんじゃない? 今年は前回覇者とかも出る上、現世代の人が出るという話もあるから良い腕試しになるよ」

「……必要に迫られない限り、できれば遠慮したいな」


 そんなことを言っていると――いや、やめよう。

 フィクハはなんだか不満そうな顔をするが……それ以上の言及はしなかった。俺はなんとなく安堵し、黙ったまま足を動かす。


 やがてふと空を見上げ、俺はまだ見ぬ英雄と闘士を思いつつ……ひたすら目的地へ歩みを進めることとなった。

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