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勇者の決意

 翌日、俺は彼女の要望に従い演習場にいた。


「うおおおおおっ!?」


 と、騎士から発せられる驚愕の声を聞きつつ――俺は完全に暴走したリミナの魔法をやや距離をとって眺めていた。

 今は魔法の強度なんかを測っているのだが……やはりというかなんというか、ドラゴンの騎士達による結界でもあっさりと叩き壊し、生じた粉塵が彼らを飲み込む。


「最初の内は誰でもああなるだろう。心配せずとも、制御できるようになる」


 そして、俺の右横に立つ――王が俺へと告げた。

 訓練に際し、王妃だけでなく王まで来る――そう昨日言われたため、リミナは頼みごとをしたのだった。


 要望の内容としては、王や王妃と共に色々とやるのでは緊張するため、近くにいて欲しいということだった。さらに言えば参加する騎士達とも面識が皆無であるため、心細い――と、いうわけで頷いた次第だ。

 で、現在は昼を過ぎ、一通り制御訓練の指導を受けた。そして強度測定に至ったわけなのだが……やはり一朝一夕では無理みたいだ。


「これ、死者とか出ないですよね……?」

「騎士達はそのくらいの分別はつくだろう。大丈夫だ」


 そう王は答えるのだが、見ている分には危なっかしい。まあ騎士のことは彼の方がよく知っているだろうし……ということで、ひとまず静観を決める。


「それで、レン殿」


 ふいに王から言葉。俺は姿勢を正し改めて返事をした。


「はい」

「そういえば礼を言っていなかった。今回の襲撃に際し、協力してくれたことに感謝する」

「いえ……当然のことをしたまでですから」


 首を振り答えると、王は「ずいぶんと謙遜だな」と笑った。


「私としては犠牲者も出さず済んだことが何よりだった。ナダク防衛大臣が計画していた以上、いずれ襲撃はあっただろう。その時同じように襲われれば……どうなっていたことか」


 王はそうした仮定を頭に浮かべたか、目を細めた。


「全てはレン殿のおかげだ。本来は国を挙げて礼を示さなければならないのだが――」

「いえ、それは結構です」


 再度首を横に振り、俺は答えた。


 ――現状、今回の騒動で勇者レンという文言は公表していない。国を救ったとなれば色々と取り沙汰されるため、シュウを追うには不便になるだろうというのが理由だ。


「そうか。ともあれ私達はできる限りのことをするつもりだ」

「従士のリミナを救って頂いたことで十分です」


 王の言葉にそう答え……俺はふと、一つの疑問がよぎった。


「あの……少し突っ込んだ質問となるのですが、よろしいですか?」

「構わない」

「ナダク防衛大臣は……なぜ、ああしたことを画策していたのでしょうか?」

「事後の検証で動機らしいものは何一つ出なかった。真相は闇の中だが……少なからず英雄シュウが加担していたのは間違いないだろう。たぶらかされたか、それとも魔の力により洗脳したか……」

「見た目上、お変りはなかったんですよね?」

「なかった。しかし英雄シュウと古い繋がりがあったとすれば、大臣となる前からそのように活動していたのかもしれない。そうであったのなら、わかるはずもない」


 確かに――結局、彼の動機についてはシュウに訊くしかないのだろう。


「ふむ、では逆に私から質問しても良いか?」

「あ、はい。どうぞ」

「報告をした折、記憶喪失だと言っていたな。元に戻るような兆候は?」

「いえ……まったく」


 そもそも別人だから、無理な話。


「シュウさんの件とは別に元々の目的を調べ、身の振り方は考えるつもりですけどね」

「そうか……」


 王は返事をした後、目を地面に落とした。

 直後、爆音が聞こえた。見るとリミナの正面に大規模な爆煙が上がっていた。


「……レン殿、一つだけ頼みがある」


 やがて、王は声を発した。首を向けると、彼は目線を地面へと移したままだった。


「もし此度の件、決着がついたら報告に来てほしい」

「はい、もちろんです」

 はっきりと頷く。王は小さく「頼む」と告げ、顔を上げ俺と目を合わせる。


 瞳はどこか苦悩を映しているようにも見えた。それはナダク大臣のことを思ってか、それとも英雄アレスやシュウのことなのか……判別は付かなかったが、今回の事件に対し何かしらの憂慮を抱いているのは間違いない。


 俺と王との間に沈黙が生じ、しばしリミナが放つ魔法の音だけが響く。轟音であるのは間違いなく、これは大変そうだと苦笑しそうになっていると、


「レン殿、もう一つだけ」


 王の口が開いた。


「英雄シュウについて、どう思う? 裏切ったということで、恨みなどはあるのか?」


 その質問に、俺は険しい顔をした。けれど視線を外さないままゆっくりと告げる。


「……事情があって、シュウさんには親近感を抱いているところがあります」

「事情?」

「これについては個人的な要件なので……一つだけ申し上げると、私はシュウさんと似た者同士なんです」


 その返答で――王が何を思ったのかはわからない。けれど俺がシュウに対し少なからず暖かい感情を持っていることは理解したようで、深く頷いた。


「彼を追うことは……辛いか?」

「多少は……けれど、彼はリミナに毒を加えた。許されないことをしたのだとも、認識しています」

「複雑だな」


 王の発言……ふと、俺は王とシュウの間に何があったのか訊きたい衝動に駆られた。けれどこれは王個人的な問題だ。尋ねるべきではないだろう。


「もしシュウと対峙したならば、斬れると思うか?」

「……わかりません。けれど、覚悟をしておく必要があるとは思っています」


 一つ息をついた後返事をした。王はそれに納得がいったのか「わかった」と言い、


「長々と質問すまなかった」

「いえ……その、どのような結末を迎えるかはわかりません。しかし、全力を尽くすことだけはお約束いたします」

「うむ。レン殿、頼んだ」


 そうして王は微笑を浮かべながら告げる。表情を見て、僅かながら憂慮の気持ちが減ったと感じ、少なからず安堵した。






 やがて王は演習場を離れ、リミナの訓練も一通り終わった。時刻は夕方前だが、まだまだ明るい。

 そして、集まった騎士達は死屍累々……じゃなかった。例外なく倒れている。


「壮観ねえ」


 おっとりとした口調で王妃が告げる。俺はそれに同意しかねたが、何も言わなかった。


「……一刻も早く制御できるよう頑張ります」


 騎士達を見てリミナは言う。こちらとしては「そうだな」と言うしかない。


「二人とも、出発はいつ?」


 そこで王妃が質問。俺は多少思考し、


「ここでやることは全て終えましたし、リミナも結構元気そうなので、近い内に」

「そう。私達はとある事情で城を離れることになるわ。今日で会うのも最後ね」


 王妃は俺達に言うと、にっこりと笑った。


「二人とも、いつでも頼って来ていいから……これからの旅、幸多からんことを」


 彼女の言葉に俺とリミナは頭を下げる。そして彼女は騎士に連れられて、この場を後にした。

 少しして女王の姿が見えなくなり――さらに残った騎士達も起き上がり始め撤収の準備を開始。

 そうした中で、俺はリミナに言った。


「リミナ。ラキやシュウさんの領域に届くためには、もっと強くならないといけない」

「はい。私もそう思います」

「俺はようやく勇者レンの力を引き出せるようになった。けど、これだけでは足りないことも理解している」

「だからこそ、修行ですね」

「どのくらいかかるかわからないけれど……王にも頼まれたよ。やるしかないな」

「はい。私も勇者様に付き従えるように頑張ります」


 ――屋敷護衛の時とは異なり、俺達二人が強くなろうと決意していた。そして色んな問題も一区切りつき――シュウを追うべく、俺は改めて強くなろうと心に誓った。

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