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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
勇者と従士編

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勇者として

「ああ、お帰り。リミナ」


 戻ってきた彼女に俺は先んじて声を掛ける。すると、


「……お二方で何をしているんですか?」


 フィクハの存在が気になったのか早速尋ねてきた。


「勇者レンのことを調べようと荷物を調べていたの」


 答えたのはフィクハ。リミナは意を介さなかったのか一瞬眉をひそめ――


「……ああ、そういうことですか」


 呟き扉を閉め、俺達へ近寄ってきた。


「ちなみにリミナ。夕食は?」

「食べましたよ……」


 俺の質問にどこか疲れた声で応じる彼女。あ、これは予想通りだな。


「王妃と一緒に食べたのか?」

「そこに王様もプラスしてください……緊張で味なんてわかりませんでした」

「なんかもったいないね」


 フィクハは零しつつ、本題に入ろうと俺の持つロケットペンダントを指で示した。


「で、リミナさんが帰って来るまでに私の提案で荷物を調べていて……結果、これが見つかった」

「ロケットですか」


 リミナは興味津々でそれを見る。俺はそれに反応し写真部分を彼女へ見せた。


「ほら……」

「勇者様……と、ラキですか。それと中央の二人は――」

「英雄アレスと、その娘なのは間違いない」

「大きな情報ですね……とはいえ、これだけでは勇者様の生い立ちを知るのは難しそうです」

「だな……ま、意味がないと思っていた中これを見つけ出したわけだから、かなりの成果じゃないかな」

「ね? 私の言った通りでしょ?」


 なんだか胸を張り誇らしげに語るフィクハ。俺はそれに小さく頷き、


「ありがとうフィクハ……これ以上のことはその内ということで」

「了解。それじゃあ今度はリミナさん」

「はい」

「制御できそう?」


 質問に、リミナは難しい顔をした。


「すいません。出発するのは一日待って頂けませんか? 明日も来るよう言われたので……」

「それで解決するの?」

「制御訓練の方法を学います。それを道中こなしていく予定です」

「そう。ちなみに制御できるまで魔法を使うのは禁止ということにしたいんだけど……危なっかしいし」


 きっぱりと言ったフィクハに、リミナは多少申し訳なさそう顔をして――やがて、小さく頷いた。


「現状で使うのは難しいですし、仕方ありませんね」

「わかった。それじゃあ私は明日一日観光にでも繰り出すかな。レン、案内とかできる?」

「何で俺に訊くんだ?」

「少しは街を散策したんでしょ?」

「……観光、というか市場を見回ったくらいだぞ」

「ええー、もうちょっと遊べば良かったじゃない」

「……お前なあ」


 呆れた声で俺は返答。対するフィクハはなぜか文句の一つも言いたそうな顔をして……その時。

 横にいるリミナがジト目になりつつあった。


「……ん?」


 フィクハも気付き、すぐさま表情を戻した。


「ああ……えっと、ごめん。それじゃあ私はお暇させてもらうよ」


 途端に告げるとそそくさと出ていく。それでも若干不満顔をしていたが……黙殺した。

 そして扉の閉まる音と共に……沈黙。俺とリミナは目を合わせ、互いに立ち尽くす。


 話をしようと思ったのだが、タイミングが掴めず逡巡する。


「……すいません」


 そうした中、リミナが声を発した。


「フィクハさんも同行する以上、軋轢を生むようなことはすべきではありませんね」

「いや……放っておくとやりたい放題やりそうだし、少しは止めに入って良いと思うよ」


 そんな風に返答した後、俺は息をつく。


「……夜に話すって言ったことだけど、今からいいか?」


 まずは確認。するとリミナは頷き、


「はい。これからも従士として勇者様の旅に随伴させてください」

「……何も、言ってないんだけど」

「簡単に予想できますよ」


 そうかもしれないけど……あっさり結論が出てしまって、俺は苦笑いする他ない。


「そっか……俺としてもリミナに同行して欲しいと思っている。お願いするよ」

「はい」


 優しく応じるリミナ。俺としてはその態度を嬉しく思う――けれど、確認しておくべきことがある。


「けどリミナ。一つ訊きたい」

「勇者様は勇者様ではないということですね?」


 出鼻を(くじ)かれた。まあ、そうなんだけど。


「ああ、そうだ。それに――」

「シュウさんと対峙した時の言葉、ですね?」


 さらに先読みをしてリミナは問う。俺は、深く頷いた。


「その、俺としてはリミナの本音を聞いていなかったから」

「……そうですね。話しておくべきことですね」


 リミナは一度目を伏せた。そして改めて顔を上げた後、


「最初勇者様から聞かされた時、正直意味がわかりませんでした」


 ゆっくりと、話し始めた。


「けれどアークシェイド討伐へ向かう時、色々と考え……記憶を失くされたと聞いて以後のことを振り返り、ようやく飲み込むことができました」

「……よくよく考えれば、理解するのだって大変だよな。その変は配慮が足らなかった。ごめん」

「いえ、いいんです。きっと勇者様も話そうとご決断されて必死だったのでしょう」


 図星だ。あの時は半ば衝動的に話した。


「それで……確かに、シュウさんの言う通り悲しく思ったのは事実です。別人だと認識した時、どうすればいいのかわからなくなりましたし……けれど」


 と、リミナは微笑みながら俺に続けて言う。


「今は、別の意味合いで勇者様に付き従おうと、決心しています」

「別の……?」


 眉根を寄せ聞き返すと、リミナは頷いた後はっきり言った。


「魔法を捨てるつもりでいた私を救って頂いたこと……それが、勇者様の従士となる理由です」

「……そうか」


 なんだか改めて言われるとくすぐったい感じもする。それに、命を助けた勇者レンからすればまだまだかもしれないけれど――リミナの言いたいことはしかと伝わった。


「恩に着せるつもりはないけど……わかった。リミナがそう言うのなら」

「はい」

「で、だ……もう一つ問題があるんだけど……その、呼び方」

「勇者様は勇者様です」


 そこは決して譲らないリミナ。改めて、強情だと思う。


「いや……体面上はそうだけど」

「ですが、やっていることは勇者そのものではないですか」

「それもそうなんだけど、やっぱり勇者って言われるのも違和感が……」

「自覚がなさすぎます」


 怒られた。


「勇者として行動している以上、勇者様は勇者様です」

「……なぜそこまでこだわるんだ?」

「こだわっていません――が、一つだけ言わせて頂くと」


 と、リミナは間を置いた。俺はどんな言葉が来るのかと待つ構えをとり、


「どのように言い訳なされたとしても……助けていただいた以上、私にとっては勇者様です」


 ――ああ、そういうことか。


「そういう意味合いで、勇者ということか」

「はい。ですがそれはあくまで一面です。いいですか、勇者様は……」

「ああ、わかった。わかったから」


 言うことを聞かない子供をたしなめるような口調で言うリミナを、俺は手をかざして制止した。


「わかった。そこまで言うなら俺は勇者」

「はい。ですが今まで通りで構いませんよ」

「……自然体のまま勇者としていけるなら、俺には天職かもしれないな」


 そんな風に冗談っぽく言うと、リミナは笑った。表情を見てようやく元通り――いや、関係が進展したように感じた。

 もう確認の必要もないだろう……俺は話を切り上げることにする。


「さて、話は終わりにするか。で、リミナも回復したし何か祝い事でもする?」

「いえ、大丈夫ですから」

「それじゃあ何かやりたいこととか」

「大丈夫です……あ」

「ん、どうした?」

「……その、勇者様がそう言われるなら、一つだけ要望が」

「構わない。言ってみてよ」


 俺が催促する。リミナは僅かに躊躇した素振りを見せたが……やがて、上目遣いで俺を見ながら、恐る恐るといった感じで要求を告げた――

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