次の一手
魔法の検証をした後、ひとまず俺達は帰ることとなった。ちなみに街まで馬車で、そこから徒歩。
「ま、フロディアさんの所へ行って好転することを祈りましょうか」
帰り道、俺とフィクハは夕暮れが迫る中屋敷への帰路につく。ちなみにリミナはいない。なぜなら――
「リミナ、大丈夫かな?」
「別に虎穴に入るわけじゃないから大丈夫でしょ。過度の緊張により倒れるかもしれないけど」
「……病み上がりにそれはどうなのかな」
「でも良い経験にはなるんじゃない? 何せ、王妃直々に色々と教えてもらうんだし」
――リミナは王妃の進言により城へと向かった。理由は魔力制御についてアドバイスするというものなのだが、彼女の言動から一山ありそうな気がする。
「しっかし、驚いたわ。全部終わったらリミナさんがパワーアップしたんだから」
「そうだな……けど、これってリミナとしては不本意な気もするけど」
「自分の努力じゃないから?」
「そう」
「捉え方にもよるわね。それと力というのは得た過程なんてどうでも良くて、得てからどうするべきなのかが重要だと思うけど」
「……そう言われると、何も言えないな」
俺はやや言葉を濁しながら返答し、リミナのことを頭に浮かべた。
結局、元の形に戻ることはできなかった。とはいえ弱くなったのではなくて強くなったのだから、ラキやシュウと戦うには良いことかもしれない。
「まずはあの怪力をどうにかしないといけないね」
さらにフィクハは語る。それに俺は眉をひそめ尋ねた。
「怪力……魔法じゃなくて?」
「無意識の内に力を使うってところが問題なの。そこを制御できないとなると戦闘させるのも危ないでしょう?」
「それは、まあ。そうだな」
「無意識の部分を制御できれば、魔法の方だって多少はどうにかできると思う。けどまあ、制御訓練が必要なのは当然だし……フロディアさんに会うまでは魔法の使用は禁止にした方がよさそう」
「……リミナ、ショックだろうな」
「仕方ないでしょ。王妃だってそう言うと思う」
……まあ、毒は完治したわけだから後は自助努力でどうとでもなる。ここからは時間を掛けてじっくりやるのが正解だろう。
「で、レン。一つ訊きたいのだけれど」
と、そこで彼女は質問を行う。
「シュウさんの屋敷から色々とリミナさんの面倒を見てきたわけだけど……その過程で、二人の関係についても聞いたわけよ」
「ああ」
「で、シュウさんの策略でレンはリミナさんに色々と話したわけでしょ? その辺のこと、決着つける気はあるの?」
「……あるんだけど、話す機会がなくて。今日の夜、話をしようと思っていた結果、連れて行かれた」
「ふうん、そう。で、レンの結論としては?」
「それはもちろん、同行してもらいたいと思っているけど」
そんな風に返答した時、フィクハは怪しげな笑みを浮かべた。
「……何だよ、その顔は」
「いや、今回二人で苦難を乗り越えた以上、何かしら進展あるかなと思って」
「結局そういう話に持っていくのかよ……言っておくけど、その辺りはノーコメントを貫くからな」
「何よ、いいじゃない。私だって事情知っているんだし」
ぶーぶー言い始めるフィクハ。彼女は俺達の旅に同行する以上、こんなやり取りが続くのだろうか。正直、嫌なんだけど――
「リミナさんだって、本音聞いた時まんざらでもない感じだったし」
「――おおいっ!?」
いきなりの発言に俺は聞き咎め首を振り向けた。
「何訊いているんだよ!?」
「いや、話し込むうちに勝手に喋ったのよ」
「勝手に、って……」
「毒を受けて精神的に不安定になって……話を聞いてもらえる人が欲しかったんじゃないかな」
――そこまで聞いた時、俺は屋敷護衛の件を思い出した。あの時、俺はリミナの友人であるクラリスに色々と話した。
今回はその逆パターンだろう……確かに従士である以上、俺へ本音を話すのも難しいだろう。フィクハに言うのは当然だ。
「この際だから言っちゃうけど、何でレン……じゃなくて勇者レンか。彼に従ったのかも聞いた。その過程で、結構四苦八苦していたみたいね」
「勇者レンとリミナが?」
「勇者レンはリミナとほとんど関わろうとしなかったみたいだから」
……その辺のことは、詳しく訊いていなかったな。俺はあくまでリミナが従士となったきっかけを聞いたくらいだ。
「考えてみればおかしな話よね。屋敷が建つほどのお金を投じて命を救った。リミナさんはそれに報いるために押し掛け従士となったわけだけど、あまり彼女と関わろうとしなかった」
「……命を救った件は、勇者レンが過去にそういったことを経験していたから、なんて推測をしたけど」
「経験?」
「似たようなケースで命を救えなくて……けれど今回は救ってみせる、という感じ」
「ああ、なるほど。一理あるね」
フィクハは納得の表情を浮かべ、頷いて見せる。
「それ以上は勇者レンのことを調べないとわからないけれど……シュウさん達を追うと共に調べるということでいいの?」
「できればそうしたいと思っている。けどシュウさん関連を優先で……そもそも、勇者レンのことは調べようがない、というのもあるけど」
「所持品とかでヒントになるような物、ないの?」
「旅に必要な物くらいしかザックに入っていないからな……」
「もう一度、調べてみてもいいんじゃない?」
「荷物を?」
「リミナさんの件も一応片付いたし、これを機にってことで」
「……まあ、別にいいけど」
俺がそう答えた時、屋敷に辿り着いた。いよいよ日が沈む時間――以前ならとうに暗くなっているはずだが、まだ明るい。
「さあ、夕食だね!」
「好物出るからって、そんな気合入れなくても」
俺はフィクハに呆れた感じで呟きつつ、屋敷へ歩く。
けれどその途中、ふとフィクハに目をやり足が止まった。
「……ん?」
彼女も気付き、立ち止まる。
「そういえば、一つ言い忘れていた」
「何を?」
フィクハが目をぱちくりとさせ問う。それに対し俺は――
「――リミナを救ってくれて、ありがとう」
頭を下げ、フィクハに礼を述べた。
顔を上げると、驚いた彼女。次いで、表情が苦笑に変わる。
「何をいまさらって感じだね」
「そうは言っても、俺やリミナはフィクハに助けられっぱなしだから」
「そう? じゃあお礼の言葉、ありがたく受け取っておくかな」
彼女は多少ながら喜び、俺に背を向けた。
「礼はシュウさんの件で返してくれればいいよ」
「……努力する」
「ここからは私が頼りっぱなしになるだろうから、よろしく」
一度首を向けてそう言った後、フィクハは屋敷玄関へ歩き始めた。
「さて、まずはたっぷりと食べて、それからレンの素性を調べることにしましょう」
「といっても荷物漁るだけだけど」
「重要な事実が出ることを期待しましょう……そういえば、話変わるけどリミナさんの夕食ってどうなるんだろ?」
「王妃が傍にいるとなると、とんでもないことになるんじゃないか?」
「食事は豪勢だけど、王様達と一緒に食事かな」
「……俺、絶対喉通らないな」
「私も同じく」
「リミナ、謁見は勇者レンと一緒にいたから慣れているみたいけど、さすがに食事はキツイだろうな」
そんな会話をしながら俺達は屋敷へ入り、食事をするためリビングへ進む。
その道中、一つ思った。シュウのことは気になるが、リミナのことは好転の一途を辿るのは間違いない。ようやく明るい兆しが出てきた……と。