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血の正体

 少しして、城へ辿り着いた。馬車から下りた俺達は速やかに城内へと入り、まずは情報を持っていそうな人を探すことにする。


「それらしい候補っているのか?」


 前を歩くフィクハに問うと「一応は」と答えた。


「最終手段として王か王妃に訊くという手がある」

「……むしろ、彼らが知っていそうだな」

「私達を屋敷へ行くよう促したりしているから、事情は把握しているでしょうね」

「だな」


 とはいえ、早々王達に会うことなどできるはずもないだろうし――


「あ、レン様」


 曲がり角に差し掛かった時、前から見覚えのある人物が。


「ルーティさん、どうも」


 俺は目が合い会釈をした。


「どうも……何用でここに?」

「あ、実は……」


 これ幸いとばかりにルーティへ話す。時間的にはものの数分で済み――彼女は難しい顔をした。


「魔力強化したことによる問題ですか。厄介ですね」

「ちなみにルーティさんは誰の血だったかご存知ですか?」

「いえ、その辺りは」


 俺の質問に彼女は首を左右に振る。


「知っている者を探しているとのことですね? 出所がわかるとすれば、魔法関係の研究室かもしれません」

「研究室ね。わかりました」


 答えるとフィクハへ視線を向ける。


「場所はわかるか?」

「なんとなくは。それじゃあ――」

「どうしましたか?」


 そこで、声が聞こえた。方角は背後。俺は反射的に振り向く。そこには――

 赤い法衣を着て、なおかつ燃えるような赤髪――王妃がいた。しかも一人で。


「……え、あ」


 俺が呻く間に、すかさずルーティが彼女へ進み出て口を開く。


「護衛も伴わずに行動されるのは……」

「怪しい者が出入りしているようなこともないのでしょう? なら、いいではないですか」


 やんわりと受け答えする王妃。それに対しルーティは困った顔をしながら押し黙った。


「それで、何の話をしていたの? あ、その前に」


 口を開いた彼女は視線をリミナへ向ける。


「初めての会う方がいますね」

「あ、はい」


 彼女の言葉にリミナは直立し、


「リミナと申します」

「……リミナ?」


 自己紹介をした瞬間、王妃は聞き返し――


「あなたが……毒を受けていた人かしら?」

「は、はい。そうです」


 緊張しながら答えるリミナ。対する王妃は微笑み、


「よろしくね、リミナさん。それで、何の話をしていたの?」


 彼女は話を戻し尋ねてくる。俺達はそこで互いに目を合わせ――


「……えっと、ですね」


 フィクハが口を開き、説明を加えた。なぜ王妃がこんなところにいたのかなど謎はあったが……展開が早くなったと喜んでおこう。

 そしてフィクハが話し終えた時、王妃は「ふむ」と呟き、


「制御ね。なるほど、ならば教えるとしましょうか」


 予想外の言葉を零した。


「え?」


 リミナが声を上げる。俺も頭にクエスチョンマークが浮かぶ。教えるってどういうことだ?


「あの、教えるとは?」

「魔力の制御方法」


 リミナの問いに王妃は即座に返答。俺はなぜ彼女が、とさらに疑問を感じ――


「話を聞く分には厄介な毒だと思い、私の血を提供したのよ。だから私が教えるしかないの」


 ――おい、今とんでもないこと言ったぞ。


「……は、はい?」


 言葉を聞いたリミナは目を丸くし、さらに声を震わせ聞き返す。フィクハはリミナと王妃を交互に見比べ、さらにルーティまでもぎょっとなる。

 俺もまた目を見開き驚愕……その時、


「そう、その顔」


 と、王妃は心底面白そうに言った。


「私はその、驚く顔が見たかったの。だから伝えないようにしていたの」


 ……ブレないなぁ、この王妃。


「と、いうわけで制御云々については私が面倒みることになるわ。改めてよろしくね、リミナさん」

「し、しかし……」

「これは私達からのお礼みたいなものよ。レン様には城を救ってくれた恩もある。今度は、私達があなた達を助ける番。というか――」


 王妃はそこで苦笑に近い笑みを漏らした。


「強力すぎて面倒事を抱えているようだし……提案したのは私だから、きちんと責任は取らせて」


 ――俺はずいぶんと面倒見が良いことに驚く。話の筋は通っているし、王妃の血ならば王妃に訊くのが一番なのはわかるのだが……国のトップがこんな丁寧なのは変ではないだろうか。


「あの、よろしいですか?」


 そこでフィクハが口を開いた。


「言っていることはもっともなのですが、かなり大変ですし……お手を煩わせるには……」

「あら、気を遣っているの?」


 王妃が問う。指摘されフィクハの言葉が止まる。


「気にしなくてもいいわ。それに、後天的であれ血を入れその力を宿したのであれば、私の娘みたいなものだし」

「む、むす……」


 リミナの声がうわずった。うん、無理もない。

 それと同時に、フィクハはどこか確信を伴った顔でリミナへ声を掛けた。


「リミナさん、その気になればフィベウス王国の王女……もしかすると女王になれるかもしれないよ」

「……そういう冗談はやめろよ、フィクハ」

「冗談ではなく、事実よね」


 俺の指摘に対し、王妃からの言葉。というか、本人が同意するのかよ。

 彼女の顔は太陽のように輝いている。なんというか……俺達が右往左往する様を見て楽しんでいるようだ。やはり悪しゅ……いや、何も言うまい。


「私は大丈夫だから、手伝わせて。今からでもいいけれど、日を改める?」


 そして王妃は提案する。俺達は再度互いに目を合わせ、


「リミナの判断でいいんじゃないか?」

「そうね。リミナさんがしたいようにすれば?」

「……お二方、私に投げていませんか?」


 リミナの見事な指摘。俺達は口をつぐみ無言となる。


「……まあいいです。わかりました。私は、すぐにでも解決したいと思っています」

「なら早速でいいかしら?」

「はい」

「では用意しましょうか。ルーティ」


 と、彼女は傍らにいるルーティへ呼び掛けた。


「場外の演習場が空いているか確認できるかしら?」

「はい。すぐに……しかし、演習場ですか? 制御訓練ならば中庭でもできるのでは?」

「まずリミナさんの力がどのくらい上がったのか把握しないと。それには思いっきり魔法を使える場所が必要でしょ?」

「それで演習場ですか。承りました。すぐにご用意します」


 ルーティは一礼し、即座に廊下を歩き始めた。残されたのは王妃と俺達……って、王妃を置き去りにしているけど大丈夫なのか?

 色んな意味で不安になる中、王妃は平然と俺達に言った。


「おそらく時間はそう掛からないだろうから……この場で少し待ちましょう」

「はあ……」


 俺は相槌を打ち――その後、沈黙が生まれた。

 何か話した方がいいのだろうか……いや、そもそも王妃に対し話題になるようなことなんて思いつかないんだが。


「あ、あの……」


 頭を悩ます中、リミナが緊張した面持ちで声を発した。


「その……すぐに、制御できると思いますか?」

「私の力を手に入れてどのくらい能力が上がったかを見ないと、何とも言えないわね。けれど」


 と、王妃はのほほんとした調子で語る。


「以前まで使えた魔法が使えなくなる……などということはないわ。そこだけは安心して」

「逆にドラゴン固有の魔法とか使えたりしてね」


 フィクハからの横槍。すると王妃は小さく頷き、


「その辺りも検証する必要があるわね……あ、それと。もし魔法により演習場がどうにかなったら……私がフォローするから安心してね」

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