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方針と異変

「――ただいまー」


 天気の良い昼下がり。リミナの部屋にいた時、扉が開け放たれる音と共にフィクハの声。首を向けると快活な表情をした彼女と、後方にはマーシャがいた。


「機嫌がいいなフィクハ。どうした?」


 椅子に座りながら俺は彼女に問う。すると、


「当たり前でしょ。今日は私の好物であるローストビーフが出るからね!」

「……子供か、お前は」


 俺の言葉に彼女は笑う。その声を聞きながら、俺は視線をベッドへ移した。そこにいるリミナもまた笑っていた。


「あ、そうそう。レン、やっと方針が決まったよ」


 そして――フィクハが俺に言う。こちらは小さく「おお」と声を上げ、


「やっとか……長かったな」

「長くはないと思うよ」

「いや、それはそうなんだが……こう何もないと時間が経つのがゆっくりで」

「そんな休憩もあと数日で終わりだよ。詳細、聞く?」

「ああ」


 返事をするとフィクハは部屋へと入ってきた。対するマーシャは一礼し扉を閉める。


「ま、私達が想定していたくらいの結末だけどね」


 フィクハは言いながら俺に近寄り、対面する椅子へと座った。


「そうか。予定外のことも多かった気がするけど……ま、良い方向に進んだからいいか」

「そうね。喜びましょう」


 フィクハは言うと俺とリミナを一瞥し――話を始めた。






 襲撃事件から二週間……いよいよ気温も上がりつつある時期となったが、俺達はまだフィベウスにいた。

 まず騒動の収拾をするのに二日。そしてシュウ達にどう対応するかの協議と準備で一週間経過。そこからまた一週間経過し、今後の方針が決まったことになる。


 その間、俺やリミナは行動しなかった。対するフィクハやオルバンはしきりに城へ出入りし、今後どうするかの協議を行っていた。本来は俺も参加するべきだったのだが、立場的に別の依頼を請けていた俺は、ひとまず除けられたというわけだ。

 で、残るセシルはというと……王達に今後どうするか伝え、彼らがしたためた書状と共にベルファトラスへ帰った。フィベウスは彼の意見に賛同したようなので、俺も強くなるためベルファトラスへ向かうことになるだろう。


 そして、シュウ達についてだが……まず、ナダク防衛大臣が引き起こしたことについては公表。そして、英雄シュウに関しても敵であると克明に伝えた。

 混乱が巻き起こる可能性もあったこの事実に対してだが、アークシェイドの残党に罪をなすりつけることによって比較的円滑に周知されることになった。


 根拠として使ったのは、調査により結論付けた『聖域』の伝承にあった秘宝を奪い取ったこと。そしてアークシェイド征伐の折、組織の重要な魔法道具を持ち去ったこと。残党の行動目的は不明。しかし秘宝の力を用い英雄シュウを操り、魔法の道具を集めている――そんな風に説明がなされた。

 異論が出るのではと思ったのだが――あまり聞かれなかった。この辺りは上手く王達が情報を流してくれたおかげだろう。結果、俺達は公然と英雄シュウを追えることになった。


 しかし、秘密にしていることが一点。それは英雄アレス達の死について。


「……調査に入った時、墓標は見せないよう言われてそうしたんだけど……王様達から見ると、そちらの方が影響あるという判断だったんだろうね」


 フィクハはそう口を開く。俺は「そうかも」と答えつつ、見解を述べる。


「英雄アレスの死因なんかを調査すれば彼が殺したという噂も出てくるだろう……その混乱を避けたかったのかもしれない」

「そうだね……まあ、仕方ないか」


 フィクハは釈然としない様子。けれどすぐに話題を変えるべく表情を戻した。


「で、これからだけど……まずオルバンさんは今回一番深く関わったことと、大きな戦力ということで編成する騎士部隊の取りまとめを行うことになった」

「とすると、俺達とは別行動?」

「そうなるわね。で、彼らが必然的に情報収集も行う……事態を重く見たのか、協力する意志を早々に示した国もあるし、統制は取れるんじゃないかな」

「その国って?」

「アーガスト王国とか」


 彼女の返答に、俺はフェディウス王子のことを思い浮かべた。屋敷護衛の時色々とあったため、アークシェイドと聞きすぐ協力することにしたのだろう。


「あとはレキイス王国なんかも率先していたみたい。勇者も出すようで……アークシェイド討伐に参加した人とかかな?」

「グレンさんだな。あの人もラキのことを知っているからな……協力してもおかしくない」

「そう……で、そのラキという人なんだけど」

「ん、どうした?」

「首謀者の一人として、指名手配されるって」


 指名手配――なるほど、そう来たか。


「ほら、城に報告した時首謀者の特徴とか聞いていたじゃない?」

「あったな。独自に調査するのかと思っていたんだけど、よく考えたら指名手配のため人相書きしていたというのがしっくりくるな」

「ま、そういうことで情報収集は完全にあちら任せね」

「……なんか他人事みたいになっているけど、フィクハはどうするんだ?」


 訊くと、彼女は肩をすくめた。


「私もレン達と共に修行しなさいと」

「……は? 誰から?」

「王様から。今日謁見して直々に言われたよ」

「つまり、それだけ期待されているわけだな」

「弟子だからって重責負うのは勘弁願いたいんだけどね……」


 フィクハはため息をつきつつも、拒否する空気は見せなかった。弟子だからと言ったが、弟子であるが故に師を追わなければならない――そう思っているのだろう。


「ま、そういうわけだから二人ともよろしく……ベルファトラスへ行くまでに修行のつてがあるから、途中まで追随させてもらうよ」

「後は私の体調が戻り次第、ですか」


 と、今度はリミナ。


「すぐに旅ができると思っていたのに……結局今も、眠ってばかりですし……」

「無理はしなくていいよ、リミナ」

「……すいません」


 フォローに対し彼女は小さく謝った。


 ――現在、リミナの毒は完全に消えた。けれど……後でわかったことなのだが、ドラゴンの魔力を完全に受け入れるまで体に負荷がかかるらしく、長時間の睡眠を余儀なくされていた。

 とはいえ、そうした負担も日を重ねるごとに少なくなっている……フィクハの見立てではあと数日といったところだ。


「今までご迷惑を掛けた分、お役に立つよう頑張ります」


 リミナは言うと、近くに立ててあった杖を手に取った。


「この面子だと、純粋な後衛ってリミナさんだけなのよね」


 杖を見てフィクハが言う。俺はそれに頷きつつ、


「でも治癒魔法使えるのはフィクハだけなんだよな」

「……もしモンスターと遭遇した場合、私は状況見てどっちに回るか判断するよ」

「了解。しかし治癒魔法が使えるのはありがたいな」

「世話にならないようにはしてね」

「わかった」


 そう短く答え、俺はリミナに首を向けた。

 同時にふと、リミナとの関係性について疑問がよぎる。毒のことで頭が回らなかったが、勇者レンのことについては全部話した。その辺も、色々と決着をつけないといけない――


「リミナさん、改めてよろしく」


 考える中フィクハが言う。それに対しリミナは杖を握りしめ、


「はい!」


 元気よく答えた――瞬間、

 バキッ、と嫌な音がした。


「え?」


 音はリミナから。訝しんで視線を送ると、絶句した彼女。


「どうし――」


 尋ねようとして、即座に気付いた。


 彼女が握っていた杖――愛用のその杖を、リミナの拳が握りつぶしていた。

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