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魔人の異能

 視界に彼らを捉えながら俺はイザンへ攻撃する――同時に、彼らはおそらく雷撃や咆哮によってこちらに来たのだと察した。


 イザンは反応を示さない。そして俺はこれが良いことなのか判断に迷う。

 騎士達の能力が高いのは事実。だがイザンに対抗できる力を有しているのかどうか。もし持たないのならば、足手まといになる可能性も――


「はっ!」


 考えながら、掛け声と共に横薙ぎを放つ。イザンは真正面から受け止め、俺の力を把握したのか一歩引き下がった。

 距離を置いたので騎士達を一瞥。人数は四人で、その中にはルーティやムジアがいた。


「――すぐに陣の破壊を!」


 その中ルーティは指示を飛ばし、今度は深緑のローブを着た若い男性が現れた。どうやら魔法使いのようだ。

 彼は中庭に出ると地面に手をついた。さらに詠唱する所作を見せ――イザンの首が彼へ向けられる。


 即座に俺は攻撃する。イザンは反応し機械的に防ぐが、魔法使いが気になるらしく再度彼に目を向けた。

 悪魔の出現を防ぐことができれば、こちらとしてもかなり楽になる。俺はひとまずイザンを食い止めることを優先し、時間稼ぎに入った。


「ふっ!」


 後方からセシルの声。同時に断末魔も聞こえ、悪魔を倒しているのがわかる。膠着状態と言えなくもないが、先ほどまでと異なり魔法使いが援護してくれているので、


「閉じろ――冥界の門!」


 すぐに状況が好転することとなった。

 魔法使いの言葉に応じ、魔方陣の光が収まっていく。よし、これでセシルがイザンの迎撃に回ることができるので、ずいぶんと楽になる。


 そして残った悪魔をセシルが滅ぼす。最後に残ったのはイザン一人。セシルはすぐさま俺の左隣へ移動し、イザンへ向け剣を構え直した。


「策もあっさりと破られたね……イザン、どうする?」


 不敵な笑みを向けながらセシルは問う。イザンは言葉の意味を理解できたかどうかわからないが、僅かに体を身じろぎさせた。


「援護します!」


 と、そこへ騎士――ムジアと、別の男性騎士がイザンの後方を陣取った。


「二人とも!」


 そこへルーティの声が飛ぶ。叱責に近いそれに、ムジアの隣にいる男性騎士は首を左右に振った。


「ここで逃がすわけにはいかないでしょう! 包囲して一気に――」


 彼がそう告げようとした瞬間、イザンが吠えた。俺とセシルは即座に注視し何事かと彼を見据え――

 直後、背後からズドン、という重い音と気配がした。


「っ……!?」


 それが悪魔のものであると認識したのは、背後に振り返ろうとして漆黒の剣が見えた時、反射的に俺は横に跳び退き、セシルもまた回避に移った。

 俺はイザンに注意を払いながら悪魔を一瞥。どこから来たのか――思った直後、地面が僅かにへこんでいるのを見つける。


 先ほどの音を考慮して上――城の上部から中庭に向けて飛来したに違いなかった。


 悪魔の刃が迫る。俺はそれを受け流すと反撃。悪魔の防御を押し切り、横に一刀両断した。

 セシルもまた間合いを詰め一撃で沈める。けれど悪魔の迎撃によりイザンに攻撃のチャンスを与える結果となる――


 彼はこちらにとって一番嫌な対応――背後にいたムジア達へ攻撃を仕掛けた。


「くっ!」


 鋭い剣閃が向けられ、ムジアは一目見て回避に転じた。けれどもう一人の騎士は攻撃を受け流そうと剣をイザンへかざした。

 まずい――俺は直感的に悟り声を上げようとしたが、遅かった。両者の剣が衝突し――さしたる抵抗もなく騎士の剣が両断された。


 そして彼の体に刃が走る。鮮血が生じ、彼は呻く。


 ルーティやムジアは即座に彼を助けようとした。俺達もイザンの背後から向かおうとしたのだが、

 次の瞬間、イザンは騎士に接近し何を思ったか左腕で手刀を繰り出した。


 何を――思った刹那、騎士は対応できずその一撃を胸に受けた。腕が突き刺さり鮮血がさらに生まれ、


「がっ……!」


 騎士が呻いた瞬間、イザンの腕から鳥肌が立つほどに魔力の奔流が生まれた。

 何が……驚いた直後、騎士の体からイザンの体へ魔力が流れているのを知覚する。


 まさか――魔力を吸収しているのか!?


 驚愕した直後、イザンは腕を引き抜き、騎士を突き飛ばした。彼は抵抗もなく地面に倒れ――動かなくなる。


「くそっ!」


 俺は怒りを滲ませながら背中へ剣を振り下ろす。対するイザンは即座に反応し、振り返ると俺の剣をガードした。

 勢いに任せ押し返す――思った瞬間、逆に凄まじい抵抗が腕を襲った。


「っ!」


 逆に押し負けると判断し退く。そこへ間髪入れずにセシルが突撃した。

 イザンは対抗――その時、気付く。


 彼の体に取り巻く漆黒が、形状を保ちながらも渦を巻いている――魔力を吸収したことで、制御が難しくなっているのではないか。

 考える間にセシルが一閃。イザンはそれを押し潰すべく剣を縦に振り下ろす。動作が速く、セシルは直撃しそうになる――が、寸でのところで避け、剣を当てた。けれど通用せず、イザンはさらに反撃を試みる。


 体を狙った次の一撃に、セシルは後方へ跳んで回避。だが剣が到達する方が早い。

 セシルは双剣で剣を防御する動作を見せた。食い止める間に攻撃範囲を脱するという魂胆だろう――


 だが、そうはならなかった。イザンの攻撃がセシルが持つ左の剣に触れた瞬間、先ほどの騎士と同様抵抗もなく先端部分を両断する。


「セシ――!」


 思わず叫んだ瞬間、彼は紙一重で剣を避けた。俺は心の中で安堵しながらも、目の前にいるイザンに大きな危機感を抱く。

 魔力を取り込んだことにより先ほどよりも遥かに強くなっている……しかもセシルは剣を破壊されている状況。情勢はかなり悪い。


「やれやれ、ドラゴンの力を取り込んだことによるものか」


 左腕に握る剣を確認しながらセシルは呟いた。


「さすがにこれほどの力を持ってしまうと、単純な動きでも危険だな……レン」

「何だ?」

「僕がどうにかして食い止めるから、イザンに当ててくれ」

「……できるのか?」

「さっき剣が当たった感触で魔力の多寡はわかった。たぶんいける」

「……わかった。頼むぞ」


 セシルが言う以上、従うことにする。俺は魔力を静かに込め、前傾姿勢となる。

 その間にイザンの後方で倒れた騎士をルーティ達が運ぶ。おそらくもう……思いつつ、一瞬だけ彼らを見た。


 後続の騎士も多少ながらやって来ていた。しかし先ほどの光景を見ていたのか、誰も近づかず警戒するだけ。同時に誰々を呼んで来いという指示が飛ぶ。イザンに対抗できる騎士の到着を待つつもりなのだろう。

 その行動は正しいと言わざるを得ない。もしこの場にいる騎士達が攻撃をしたなら、返り討ちにされた挙句力を吸収される……俺達としてもこれ以上魔力が増大すれば対抗できなくなる可能性がある以上、やってはいけない。


 そしてそれは俺達も同じだ。もし力を取り込まれれば、勝てる人やドラゴンがいなくなるかもしれない――


「行くよ、レン」

「……ああ」


 セシルが静かに告げた時、俺は頷き――同時に駆け出した。


 イザンは虚ろな目で俺達を見て剣を構える。その間も吸収した魔力がまとまりきっていないせいか、渦を巻いている。完全に制御しきれていない……決着をつけるならこの時しかないと断じ、俺は彼に剣を放った。

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