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追撃の先

 胸に大きな裂傷が生じるイザン。これで――そう思ったのは一瞬だった。


「レン!」


 セシルからの言葉が飛ぶ。何事かと思った瞬間、

 眼前に漆黒の剣が迫っていた。


「――っ!」


 短く呻き、身を捻る。ギリギリのところでどうにか避け、距離を置いた。


「さすがに一撃じゃ沈まないか」


 セシルもまた退き、呟いた。

 俺はイザンの状況を確認。胸には大きな傷が入っているが、傷口からは出血一つしない。抉った先も漆黒で、それだけ分厚い装甲を有しているということなのか――


「体が悪魔そのものになっているのかもしれない」


 俺の推測に反するようにセシルは言った。


「悪魔の力に取り込まれた結果、体だけは大きく変容し始めている……そう考えれば、理性が飛んだって不思議じゃないな」

「変容……でも悪魔のようになるとしたら、イザンは光となって消えるということか?」


 動かないイザンを注視しながら尋ねると、セシルは「ああ」と答えた。


「魔力から肉体に変貌するのは無理だけど、逆は魔法によってできると聞いたことがある……二度と戻れないけどね」

「後戻りできない道というわけか」


 俺はなおもイザンを見ながら呟く――凶行の果て、肉体すら捨てたというのは悲惨な結末のように思えた。

 そこで彼は声を上げる。甲高い悲鳴のような音を発し、大きく飛び退いた。


「逃げる気か」


 セシルが反応し、逃がすまいと走った。一歩遅れて俺も動き、間合いを詰めようとする。

 対するイザンは剣を地面に振ることで応じた。何を――思った刹那、切っ先が床を易々と斬り、


 突如爆音を上げ破片が飛び散った。


「うおっ!?」


 唐突な現象に驚き、俺は立ち止まり剣で防御。けれどセシルは眼前に来た破片を剣で防ぎつつ強行突破し、刺突を右腕から放った。

 イザンはそれを剣で弾こうとするが、もう左の剣で弾き――一瞬の隙をついて攻撃が胸に決まった。


 咆哮が生じる。反応で効いているのはなんとなくわかった。

 この時点で俺も駆け出し、一気に彼に近づこうとする。けれど、


「……セ、セシル!」


 追撃を掛けようとした彼に、声を上げ立ち止まる。

 イザンの剣が、急速に膨張し始めた。


「っ……!」


 新たな変化にセシルも反応。一気に飛び退く。同時イザンは右腕を掲げ、天井まで届こうかという巨大な剣を生み出した。

 イザンはそれを一気に振り下ろす。セシルは横に跳んで回避し、俺もまたどうにか攻撃範囲から脱した。


 直後、盛大な音と共に床が大きく砕かれ――次の瞬間、伸びていた漆黒の剣は突如塵と化し、元の長さへと戻った。

 そしてイザンは踵を返し廊下を走る。今度はセシルも妨害できなかった。


「レン、追うよ!」

「ああ!」


 俺はセシルに返事をした後、足に魔力を入れ駆け出す。セシルもまた同様で常人では追いつけない速度だった……しかし、距離が詰まらない。

 イザンもまた同じような技法を用いている――力に浸食されていても、身に宿る技術は残っているようだ。


 やがてイザンは角を曲がる。俺達は一歩遅れて続くと、逃げる彼を援護するように数体の悪魔がいた。


「こんな時に――!」


 セシルは苛立つように声を上げた後、走りながら双剣を握り直す。


「レン! ひとまず悪魔は無視! イザンを放っておくほうが危険だ!」

「わかった!」


 応じたと同時に悪魔は剣を俺達に向ける。しかしあっという間に横をすり抜け、イザンを追う。

 楽に突破できる――この分なら見失うようなことはないだろうと思いながら、彼の後を追い続けた。






 そうして辿り着いたのは、四方を廊下に囲まれ、土の地面と草が生える正方形の中庭。城内の訓練場か何かだろうと見当をつけつつ……その中央に立つ、イザンを捉えた。


「何をするつもりだ……?」


 到着と同時に俺は呟く。横にいるセシルもまた警戒しているようで、険しい顔で彼を見据え始めた。


「何か手を打つ前に、さっさと――」


 セシルが俺に発した、その時だった。

 突然、イザンの立つ周囲の地面が光り出した。驚いて目を向けると、六芒星の魔法陣が白く輝いており――


「悪魔の出現場所か!」


 俺は察し叫んだ。

 直後、魔法陣から光の粒子が垂直に伸び、それが長剣を持った悪魔へと変貌する。


「誘い込んだってことか」


 セシルがどこか淡々とした口調で言う。


「単身で勝てないからと、出現場所に誘導したわけだね」


 彼が呟いた時、一体の悪魔が先陣を切った。それに俺が反応。まずは弧を描く雷撃によって迎撃する。

 続いて二体目。こちらはセシルが接近し倒したのだが……続いて現れた三体目と四体目が彼に襲い掛かった。


 俺はすかさず雷撃を繰り出し一体打ち倒す。同時にセシルがもう一体を倒した。

 連携により事なきを得る……しかし、さらに悪魔が数体出現する。


「この速度で来られたら、苦戦もするな……!」


 俺は零しつつ剣を構え直し――イザンが、雄叫びを発した。


「ここにきて奴も参戦か」


 セシルが俺の近くへ移動しながら言う。イザンはこちらを注視し、悪魔と共に攻勢に出る機を窺い始める。

 先ほどまではイザン一人であったため対応も容易だった。しかし悪魔が妨害をしてくるとなると、セシルと組んで攻撃することも難しくなるだろう。


 どうするか……考える間に、セシルが発言した。


「レン、どっちがいい?」

「どっち?」

「悪魔を倒すか、それともイザンと戦うか。僕としては決定打を持つ君にイザンと戦ってもらいたいけど」


 一人が悪魔。そしてもう一人がイザンと戦うということらしい。

 俺は僅かに逡巡する。その間に悪魔が四体に増える。しかしそれ以上増えない……どうやら魔法陣一つに対し数に制限があるらしい。


 時間もない……俺は断じ、先ほどの攻防を考慮し――


「わかった」


 了承し、剣に魔力を込めた。


「よし。それじゃあレン、目の前の悪魔を――」

「いや、俺が一撃決めてからやろう」

「一撃?」


 セシルが問い返した瞬間、一気に魔力を外部に発露する。それでセシルは理解したのか、


「わかった……頼むよ!」


 叫んだ瞬間、俺は剣を振りかぶった。

 同時に悪魔やイザンは反応し、攻め立てようとした。けれど俺の攻撃が早かった。刀身に雷が生じ、あの飛龍を頭に思い浮かべ、


 剣を横に一閃した。


 雷撃が放たれ、それが胴の長い飛龍と化し、悪魔達を飲み込むように突撃した。結果、イザンは後方に足を向け、四体の悪魔は全て飲み込まれた。

 次に発生したのは轟音。さらに目がくらむような閃光の中で断末魔のような音がほんの僅かに聞こえ――光が途絶えると、正面奥には退避したイザンが立っていた。


 悪魔は俺の雷撃によって全て消滅した……が、魔法陣の中で魔力が収束し始め、新たな悪魔が生み出されそうになった。


「行くよ!」


 セシルが声を掛け、俺は動く。そこで悪魔が出現。セシルが悪魔と交戦を始め――俺はイザンへ真正面から斬りかかった。

 対するイザンは素早い反応で防御し、剣が噛み合う――先ほどまでなら魔力を集中させ剣の破壊を試みるところ。けれど今回セシルの援護は無い。吹き飛ばされないようするため両手両足に魔力をしっかり込め、不測の事態に陥らないようにする。


 これで致命的な状況にはならないだろう。けれど果たして勝てるのか、僅かな疑問を抱きながら斬り結ぶ。

 イザンはこちらの力を把握しているのかセシルと比べ攻勢には出ない。長期戦になるかもしれない――そう思った時だった。


 視界の端、俺から見れば左斜め奥にある廊下から、騎士が姿を現した。

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