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勇者と闘士の攻防

 膨れ上がる魔力を目の当たりにしながら、セシルが発言する。


「ルーティさん、資料を探して他の騎士と合流し、悪魔の出現ポイントを潰してください。彼は俺達がどうにかします」

「……わかりました。お気をつけて」


 ルーティは指示を受けるとすぐさまナダクの部屋へと駆けていく。イザンの反応は無い。虚ろな目を、ただ俺達に投げかけるだけ。

 けれど魔力だけは異様なまでに存在感を発している――俺は半ば無意識の内に右手首のブレスレットを外し、ポケットへ無造作に突っ込む。


「心底面倒な相手だな」


 セシルがポツリと零した――瞬間、イザンが俺達へ向かって跳躍した。

 俺とセシルは同時に魔力を発し、飛びこみながら振り下ろされた剣をまずは後退して回避する。


 続いてイザンは横に斬り払う動作を見せる。するとセシルが右へと移動し、側面から仕掛ける体勢を取った。

 対する俺は攻撃を受け流しながら退避しようと思い、剣を向け相手の斬撃を受けた。


 このまま反動で距離を置く――そんな風に考えた次の瞬間、

 足が、浮きそうになった。


「……っ!?」


 反射的に全身に魔力を加える。しかし、遅かった。

 対応に遅れた俺の体は、イザンの剣戟によって吹っ飛ばされる。


「ぐっ……!」


 宙に浮き呻きながら、放物線を描きながら飛ばされていると悟る。まずいと思いながらどうにか体勢を整えようと四苦八苦し――

 二十メートル程後方に飛ばされたようやく足が床についた。だがそれでも止まれず今度は倒れ込み、数度転がってようやくおさまった。


「なんて力だ……」


 俺は呟きながら剣を握りしめすぐさま起き上がる――刹那、セシルがイザンの放った手刀を防御し、壁に激突している姿が見えた。


「がっ……!」


 壁が多少ながら損傷すると共にセシルが声を上げる。その間に追撃を加えようとイザンが剣を斜め上から繰り出した。


「セシ――!」


 叫ぼうとした時、セシルは双剣をクロスさせ、なおかつ打ちつけた壁に背を預け攻撃を受け切った。


「ずいぶんとまあ、強化したね。予想以上で壁に当たったけど……隙を見せるには至らないな。どんな攻撃が来ても受け切る自信があったよ」


 彼は攻撃をものともしていないのか、平然とイザンへ言う。その間に、俺は駆け出す。


「力は驚異的だけど、動きが直情的すぎて予測が立つ。闘技大会で剣を合わせていた時の方が強かった――!」


 言い放った直後彼はイザンの剣を弾き、一瞬で間合いを詰める。

 イザンは空いている左手による手刀で応じようとした……が、セシルの動きの方が圧倒的に速く、剣戟が幾重にも体に刻みこまれた。


「ガ――」


 痛みのための呻きか、それとも怒りによる声か。イザンは声を発しながらどうにかセシルと距離を取ろうとする。

 そこへ、俺が到達した。


「ふっ!」


 僅かな呼吸の後横薙ぎを決め、イザンはそれを右手の剣で受け止める。瞬間、俺は刀身に魔力を注いだ。

 それによりほんの僅か、イザンの剣に俺の刃が食い込む。このまま両断できれば、と思ったのだがイザンは察したらしく、剣をすぐさま弾き大きく後退した。


 そこへセシルが間合いを詰め追撃を仕掛ける。双剣が防ぎにかかった剣や手刀をすり抜け、なおも刃を当てる。けれど頭部だけは本能的に守るようで、首から上に向けられた刃だけは左腕によって防御した。


「――ちっ!」


 途端、セシルは舌打ちと共にイザンから距離を取った。俺の右隣に来ると、彼はじっと相手を観察しながら声を発した。


「イザンの攻撃はどうにかできるけど、攻撃があまり効いていないな」


 セシルは告げた後、双剣を握り直した。


「それとレン。相手の力に対応するなら、剣じゃなくて腕とか足に魔力を加えるといい。そっちはリデスの剣なわけだし、身体強化の方に注いでも十分通用するはずだ」

「……わかった」


 彼の助言に従い、俺は魔力を腕や足に大きく割り振る。ここは大いに反省すべき点だ。相手の能力を見極め、対応する必要があった。

 俺の身体強化に、イザンは多少ながら反応し瞳をこちらに向けてくる。けれど不気味なまでに感情が宿っておらず、死んでいながら悪魔の力によって強制的に動かされているのでは、とさえ感じた。


 目が合った時イザンが動く。表情とは裏腹に俊敏に俺達へ迫り、今度は斜め下から上へと一閃した。

 俺とセシルは同じタイミングで後退。剣風が俺の体に触れ、もし直撃すれば危険だと改めて判断する。

 その中で、セシルが一転攻勢に出た。イザンの放った大振りの一撃の後、足を前に出し、双剣が届く距離まで一気に接近。三度目の連撃を叩き込んだ。


 イザンは再度声を出すが、大して効いていないのか攻撃に構わず手刀で反撃する。セシルはそれを目で追いつつ体を後ろに逸らして避けると、なおも執拗に攻撃を繰り出す。

 そこへ、俺の攻撃。狙いは右肩だったのだが、イザンは即座に剣により受けた。そこで先ほどと同様、魔力を一気に加える。それによりイザンの剣に刃が食い込み始めた。


 先ほどと同じパターン……なのだが、今度はイザンも退かなかった。セシルに手刀を繰り出しながら刀身に力を加え、抵抗する。それにより刃が強固になったのか、ある程度食い込んだ状態で進まなくなった。


「駄目か……!」


 俺は剣を引こうとした。その時、


「はっ!」


 セシルの斬撃が体ではなく彼の右肩と右肘付近に入った。瞬間僅かながら力が緩み――俺は一気に畳み掛ける。


「おおおっ!」


 剣を両断するのではなく押し返し、その勢いのまま振り抜いた。結果、相手の剣を抜け一撃がイザンの体へ入る。

 しかし、浅い――判断すると共にセシルが後退。一歩遅れてこちらも引き下がり……イザンは怒りに近い声を上げた。


 周囲にこだまするような野生の咆哮……顔はまだ漆黒に飲み込まれていないので人間とわかるが、それ以外は悪魔そのものだった。


「一応、少しは効き目があるみたいだね」


 廊下中に声が響く中でセシルは呟く。


「でも僕の通常攻撃は、あれだけ叩き込んでも大した影響がないレベルだ」

「とすると、傷を負わせるのは難しいか?」

「一つだけ有効な手段は持っているから、それを使うよ。けど、トドメはレンに任せる」

「……わかった」


 以前の俺なら躊躇っていた場面だが、勇者レンの力を存分に使うことができる今なら、自信を持って応じられた。

 やがてイザンは声を収め、こちらを睨みつけた。光がないのは相変わらずだったが、敵意があるのはしかと理解できた。


「……来る!」


 セシルが告げた直後、イザンは跳び剣を縦に放った。それを俺達は半身退いて避けると、セシルが走り――真正面から仕掛ける。


 イザンは対抗し横へ一閃。するとセシルは剣戟に対し双剣を振るった。直後ガガガッ――と、金属同士激突する音が響き、剣の動きが止まった。いや、セシルの連撃によって押し留められたと言うべきか。

 彼の動きに対し、俺は右に回る。その間にセシルとイザンはなおも剣を撃ち合うが、全て同様の結末を迎える――


「言っただろ? 動きが見え見えだ。それに、力の多寡まで完全に把握できてしまう」


 セシルはイザンに声を掛けた。まるで諭すような色合い。


「闘士は力だけじゃない……イザン!」


 吠えた瞬間、セシルの右手の剣が刺突を放った。それは今までのどの攻撃よりも速く、さらに魔力がこもっている。

 それは体に到達し、先端が胸を僅かに貫いた。


 同時に俺は剣を振るう。イザンはセシルの攻撃により大きな隙が生じ――放った横薙ぎが決まり、胸部分を深く(えぐ)った。

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