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魔人の顕現

 恐ろしい計画に加え、続けざまにルーティは断定する。


「……資料を見る限り、ナダク防衛大臣が一連の事件首謀者と見て間違いないようですね。悪魔を生み出す魔法陣についてはナダク大臣が作った……それを知っていたのはシュウ殿や、彼らの部下。そして闘士イザンくらいのものでしょう。その中で生き残ったイザンが今回凶行に及んだと……」

「その見解で合っていると思いますよ」


 セシルが口を挟む。顔は憮然(ぶぜん)としており、イザンの顔を思い浮かべているのかため息をついた。


「彼は元々理性的な人間で、感情を抑制するような傾向がありました。俺に恨みを持っていると言われていましたがも普段はそれを主張することなく、酒の席くらいでしか発散させたことはなかったようです。きっと悪魔の力を取り込んで欲望に任せ暴走した、という解釈が一番理に適っているでしょう」

「説得は無理と言うことだな、セシル」

「そもそも僕がいる時点で話し合いなんて無理さ」


 俺の意見にセシルは肩をすくめた。


「恨みの理由は闘技大会で負けたからとか、そんな理由だろう……けどまあ、これが厄介極まりなくてね。闘士というのは戦いに勝利することがアイデンティティみたいなところがある。だから逆恨みで闘士を闇打ちするなんて所業はごまんとあるんだよ。今回のケースもたぶんそれ……逆恨みなどというものを著しく逸脱しているけど」

「国を巻き込んでいるからな」

「そうだね……以前、不穏な空気があると言ったのを覚えているかい? あれは、このことを示していたんだろうな。王達は何も話さなかったけど……まあ、身内の問題だから話したがらなかったんだろう」


 セシルは苦笑を伴いこちらの言葉に応じてから、さらに見解を示す。


「で、レンの解説によると聖域ではイザンの仲間が他に二人いて、両者とも口封じのために殺された。ここから考えると、イザンは大臣が英雄シュウと繋がりがあることをバレないように行動していた……にも関わらず、最終的に大臣を殺し悪魔を生み出した。こんなことをすれば露見するのは必定で、やっていることが無茶苦茶だ。おそらく力に支配され、理性が飛んでいるんだろうね」


 語った後、彼は改めてルーティへ向き直った。


「状況としてはこれで正解かと思います……一番の問題は、悪魔を生み出している魔法陣についてです。資料に情報はありますか?」

「文面を見る限りどこに配置したかはわからないので、部屋を調べる必要があります……それと、魔法陣からの出現を制御する道具くらいはあると思うのですが」

「イザンが持っているとしたら、厄介だな」


 ルーティの言葉に続いて俺が発言した。


「果たしてイザンは城にいるのか外にいるのか……彼を見つけ出すのも難しそうだ」

「魔法陣を封鎖して回った方が早いかもね」


 セシルが言う。俺は同意のため頷きつつ、ルーティへ提言した。


「ルーティさん。ナダク大臣の件は保留にして魔法陣の破壊に回りましょう」

「そうですね」


 ルーティは資料を机の上に置きながら首肯した。


「これから出現ポイントの破壊に移ります。まずは資料の捜索ですか……あ、でも魔法使いを探さないといけませんね」

「魔法使い、ですか? 何のために?」


 問い掛けてみる。すると、


「魔法陣の破壊には特殊な魔法が必要だと思います。その魔法をお二人は持っていないでしょう?」


 ルーティは即座に返答。そこで俺は『聖域』の戦いを思い出した。フィクハが地面を抉り攻撃する魔法でも魔法陣は解除しなかった。相手が同じである以上、今回も方法は同じだろう。物理的に破壊できない以上、俺達だけで探しても意味がない。


「私は持っていません」


 セシルが言う。そして俺も彼女に言う。


「俺も持っていませんね。では、ひとまず城内にいる魔法使いを――」


 同意した次の瞬間、いきなり背筋が凍るような気配を感じ取った。


「……レン?」


 言葉を止めたためかセシルが問う。俺は答えないまま、開け放たれた入口を見た。

 間違いなく悪寒……そして、根源は廊下からだった。


「セシル」


 すかさず呼び掛けるのと同時に歩き出す。セシルは気配を感じていないようで眉をひそめたのだが……こちらの態度から忍び足で進み始めた。

 俺は魔力を探知しながらゆっくりと外に出る。廊下は左右に伸びており、悪魔や人影はない。しかし――


「いるね」


 セシルは呟くと、左方向に視線を送った。俺もまた何かしらの気配を察し、そちらへ歩き出す。


「念の為、私が後方を見ます」


 背後からルーティの声。俺は心の中で承諾しつつじっと前だけを注視。やがて――

 一人の人物が姿を現した。


「……こんな簡単に会えるとは思っていなかったよ」


 セシルが言う。同時に相手は声に反応したらしく、真紅の瞳を俺達へ向けた。


「……セシ、ル……」


 ――答えた相手は、イザンその人だった。けれど『聖域』で遭遇した時と雰囲気が違う。


 まず体全体が漆黒の鎧によって覆われている。握る剣は腕を包み込むように形成され凝固しており、悪魔の力がかなり溶け込んでいるように見える。

 顔自体はそれほど変化ないが、少しばかり青白い。さらに両目の色が血のような真紅に変貌しているのだが……瞳は濁り、焦点が合っていないように思えた。


「ずいぶんと様変わりしたね、イザン」


 皮肉を大いに込めセシルが言う。けれどイザンは僅かに首を傾げただけ。


「正気を失くしたかい?」

「……ふ」


 再度の問い掛けに、イザンは怪しく笑った。


「お前の顔を見ていたら、少しばかり意識が戻ったよ」


 言葉の後、彼の瞳に少しだけ光が宿る。


「久しぶりだな、セシル」

「そうだね……こんな馬鹿な真似をしでかしたのは、お前のせいだな?」

「ああ、そうだ」


 セシルの問いに、彼は明瞭に答えた。


「どうやらナダクのいる部屋は訪れたようだな。そうだ。奴を殺し、俺が魔法を使い悪魔を生み出した」

「理由を聞かせてもらっていいかい?」

「私の欲がそうさせたまでだ。この城に戻って以降、俺はお前達を殺すことしか考えられなかった」


 語る中で、俺は彼の瞳に後悔の色を認める――とはいえ、それは城の者達を傷つけてしまったなどというものではなく、暴走した挙句馬鹿な真似をしてしまったという、自分本位の後悔なのは間違いない。


「まあいい……起こしてしまったことは仕方がないからな。シュウには悪いが、存分に利用させてもらう」

「その力は、シュウさんによるもので間違いないんだな?」


 今度は俺が確認。するとイザンは再度笑った。


「奴らは人造の悪魔を作ることにご執心だ。その一環として、俺に力を付与したわけだ」


 答えと共に、彼は顔を大きくしかめた。


「ふん、悪魔の力というのは厄介なものだな。最終的に意志を乗っ取り暴走させるという結末らしい……まあ、お前達を殺せる力を得たということで、よしとするか」

「ずいぶんと割り切ったものだね。そんな力を受け続ければ、死ぬよ?」


 セシルが眼光を鋭くさせ告げる。イザンは彼の警告に対し、


「お前を殺せれば、安いものだ」


 はっきりと言い――体から魔力が噴き出した。

 その時点で瞳の色は失われている。再び正気を失くし、俺達を狩る悪魔に変化したようだった。


「やれやれ、結局全ての根源は大罪を犯した英雄か」


 セシルはどこか呆れたように呟くと、剣を構える。イザンはそれに反応したか声を発した。本来の声音では決してない。甲高く、それでいて人間のものとは思えない悪魔の咆哮。

 俺はそれをしかと聞きながら一つ思った。彼は今まで戦ってきた悪魔とは違う。悪魔の力をその身に受けた、魔人とでも形容すべき存在であると――

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