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ドラゴンの騎士

 襲い掛かってきた四体の悪魔については、俺とセシルがそれぞれ二体ずつ受け持った。

 俺が相手にしたのは大剣を握った悪魔と、槍を持つ悪魔。先行したのは大剣を持つ方で、雄叫びと共に斜め上から一閃する。


 こちらはそれを受け流してもよかったのだが……咄嗟の判断で体を傾けて避けた。次いで一気に懐へ接近したと同時、左から右へ流す一撃を加える。

 斬撃は胴体を両断するくらいの勢いで刻まれ、敵はあっけなく消滅した。


 続いて槍を握る悪魔。一体目の消滅と同時に刺突を放つ。鋭い攻撃ではあったが、俺は軌道を見ながらかわした。

 即座に反撃。まず繰り出された槍へ剣を向ける。すると刃が一気に食い込み、半分から先を斬り飛ばした。これで追撃を防ぎつつ、続けざまに横腹に剣戟を決めた。


 僅かな抵抗の後、振り抜くと悪魔の体は大きく抉れ、断末魔の叫びを上げ光となって消えた。そこでセシルを確認。彼も悪魔を倒しており、城門前の敵はいなくなった。


「順調みたいだね」


 セシルが言う。何かを察したのかこちらに笑みを向けた。


「動きが街で戦った時と比べてずいぶん洗練されているけど、何かあったの?」


 ……それを喋るとまた怖い目つきになるような気がして、沈黙。すると、


「レンの能力によって立ち回りが変わるだろ? 情報は共有しておいた方がいい」


 そう言われてしまうと返答せざるを得ない。なので、俺は彼と目を合わせ後方にいるルーティには聞こえない程度の小声で話す。


「記憶は失ったままだけど、力だけはどうにか使えるようになった。ただし、リデスの剣を使いこなせているわけじゃないから、真価を発揮するのはまだ先かもしれない」

「……ほう」

「そういう目をするから答えたくなかったんだよ」


 予想通り怖い瞳を見せたので、俺は城へ視線を向ける。中へ続く門も開いていた。


「よし、進もう……とはいえ、ここからはルーティさんの先導がいるな」

「だね。ルーティさん」


 セシルは気を取り直し呼び掛けると、彼女は「はい」と答え俺達に歩み寄った。


「ここからどうします? 悪魔を適宜倒していくか、王様達を見つけるか」

「悩みどころですが……とにかく、今は状況の把握からですね」

「了解。それじゃあ――」


 セシルが口を開こうとした時、城内廊下奥から金属音が聞こえてきた。


「交戦しているみたいだな……行こう」


 俺は告げたと同時に走り出す。セシルが並走し、ルーティが後に続く。

 廊下を突き進んだ先は玉座……なのだが、その手前で男性の騎士が交戦していた。相手は剣を握った悪魔が二体。


 二対一では危ない――そう考えたのだが、騎士は向かってきた悪魔の攻撃をひらりとかわすと、腕を狙って一閃した。刃が食い込み、僅かな抵抗の後肘から先が両断された。悪魔は叫び、もう一体が横から迫る。

 騎士はそれをもろともせず腕を斬り落とした悪魔へ接近し、左手で掌底を放った。吹き飛ばそうとする所作だと俺は判断したのだが、手が悪魔の体に触れた瞬間、突如大きな穴が空いた。


「っ……!?」


 思わず短く呻く。その間に攻撃を受けた悪魔は断末魔を上げ消滅。次いでもう一体の悪魔が剣を振り下ろした。

 騎士はそれを受け流した。しかし悪魔は空いている左腕で拳を放つ。大ぶりだったのでこれなら避けられるだろう、と思った直後、


 彼は左腕を伸ばし、あろうことか拳を正面から受けた。


 思わず立ち止まりそうになるくらい驚いた。魔力強化によるものだとは理解できているのだが、ずいぶん攻撃的だ。騎士でも上位に位置する人なのかなと思いつつ、走りながら行く末を見守る。

 拳を受け止めた騎士は微動だにせず、お返しとばかりに剣戟を悪魔の左腕に放つ。それにより手首部分が胴体から離れ――合わせて、騎士は懐に飛び込んだ。


 そしてとどめの刺突。剣は胸をしかと貫き、二体目の悪魔も消滅した。

 敵がいなくなった時、俺達は彼の下に辿り着く。話し掛けようとした時、ルーティが前に出て騎士に口を開いた。


「騎士ムジア」


 彼女が呼び掛けると、相手はこちらに首を向け、


「――ルーティさん!」


 ずいぶんと親しげな声がこだました。


「良かった! 無事だったんですね!」

「……さん付けはやめなさい」

「あ、はい。すみません、騎士ルーティ」


 途端に彼は謝る。会話から察するに、先輩と後輩のような関係だろうか。

 ついでに観察すると、年齢としては俺と同年代くらい。頭頂部が立つくらいの黒髪を持ち、はきはきした言葉遣いから元気な子供のようなイメージを俺に植え付けた。


「この人は?」


 セシルが問う。ルーティは俺達を一瞥した後、説明を加えた。


「後輩のムジアです。普段は街中の警備を行っているのですが……」

「兵舎に戻った時襲われ、戦っていました」


 ムジアが付け加えるように言う。ん、ちょっと待て。


「街の警備ですか……となると、技量としては……」

「ああ、なんでそれだけ強いのかって訊きたいんだろ?」


 そこでセシルが横槍を入れた。


「ほら、人間とドラゴンだとそもそもポテンシャルが違うからさ。あのくらいはドラゴンの騎士ならできるんだよ」


 ……そのくらい強い騎士ばかりなら城内の悪魔もすぐに撃破できるのでは――という意見が頭を(かす)めた。しかし、


「数が尋常じゃないんです」


 ムジアの意見により、思考が霧散した。


「交戦が始まり数ヶ所は塞いだのですが、それでも絶えず悪魔やモンスターが現れ続けています。避難を優先させないといけない上、街の警備もありますから人手が足りず、今も数を減らすだけで手一杯です」

「ならやることは、出所を塞ぐことかな」


 俺はそう答えたのだが、彼は首を左右に振った。


「まずは、残っている方々の避難を……」

「誰が残っているんですか?」


 ルーティが問う。ムジアは彼女に視線を向け、


「少し前に聞いた情報だと、ナダク防衛大臣とツリス政務官が……」


 あの防衛大臣か……兵達の統制を取るために残ったとか、そういうことだろうか。もう一方の人物は初めて聞く名だが――


「わかりました。二人の確認を急ぎます」


 ルーティが返答すると、ムジアは頷いた。


「では、騎士ルーティ。お任せしてもよろしいですか?」

「そっちはどうするの?」

「継続して悪魔を撃退します……が、その方の言う通り出現場所を塞がなければなりません。これには数が必要ですし、城内を回り騎士を集めることにします」

「わかった。気をつけて」

「はい!」


 ムジアは元気よく答えると、一礼し後走り去った。

 残された俺達は、まず互いの顔を見合わせる。


「ルーティさん、それでは――」

「はい。部屋に近いツリス政務官の方から行きましょう」


 俺の言葉にルーティは答え、移動を再開。今度は彼女が先導する形となる。

 途中、悪魔の声が聞こえてくる……そこで俺は、街に出た悪魔について一つ浮かんだ。


 城内にいる悪魔の掃討に騎士達は苦慮している様子。けれど街にそれほど悪魔はいない。となると出現しているのはあくまで城内であり、街には城から外に出たものだけなのではないだろうか。

 ただ、どちらにせよ避難を最優先とすべきだ。その後改めて悪魔の出現地点を塞ぐ……持久戦だと思いながら、俺はひたすらルーティの後を追い続けた。

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