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城門前の交戦

 移動を始めてわかったことは、轟音は常に城のある方角から聞こえるということだった。


「やはり、街中の悪魔は倒したのか」


 俺の隣を走るセシルが呟く……同時に、前方から馬の蹄の音が聞こえ始めた。


「おそらく騎士でしょう。確認します!」


 前を走るルーティが呟くと同時に、俺達は十字路に到達した。合わせて右から騎乗した男性騎士が現れる。彼は俺達を見て、即座に下馬した。


「騎士ルーティ。ご無事で」

「ええ。状況は?」

「街中に悪魔がいないか調査を行っているところですが……日が沈んで以降は、今の所被害はありません」

「わかりました。私はこのまま城へ戻ります」

「はい。私は他の者達と連携を」

「お願いします」


 ルーティが告げた後騎士は馬に乗り、左の道へ馬を進め、走り去った。


「どうやら悪魔は城に残っているものだけのようですね」


 彼女は呟き俺達に目配せをしてから再度走り出した。俺とセシルはそれを無言で追いつつ……ふいに、この襲撃が誰によるものなのか思考した。


 イザンと関係あるのは間違いないと思う。しかし一番疑問なのは、なぜこんな真似をしたのかということ。

 彼は伴っていた二人の人物を口封じのため殺し、さらに彼自身転移によって逃げおおせた。首謀者にとっては作戦は失敗したにしろ自分のことが露見する恐れはない……だとすれば、こんな真似をする理由はないはずだ。


 考える間に、城へ近づく。気付けば昨日城へ向かうために進んだ道に辿り着いており、目的地間近なのは俺でも理解できた。


 それから五分と経たずして、闇の中にある城が姿を現す。橋が架かる場所まで足を向けるると、吊り橋には魔法による明かりがあり、さらに、

 城門付近に悪魔らしき黒い塊があるのを発見した。


「まだあんなに……!」


 ルーティは驚愕の声を発する。様子から彼女は最悪の可能性――王達がどうにかなってしまったということ――も頭を掠めたようだ。


「苦慮しているのは間違いないようだね」


 セシルが走りながら言うと、双剣を抜き放つ。早くも戦闘態勢に入った彼を一瞥した時、橋の前に辿り着いた。

 直後、悪魔達が俺達に気付き警戒し始める。それを見て俺は、眉をひそめた。


「こいつら……『聖域』で出現した悪魔とだいぶ違うぞ?」


 呟きに、ルーティとセシルは俺に注目する。


「違う……となると、レン様が戦った相手とは違う?」

「どうでしょうね」


 俺は明言は避けつつ悪魔を睨んだ。

 シュウの屋敷以後、出会った悪魔のほとんどは筋骨隆々で拳や爪を武器としていた。けれど今正面にいるのは騎士風の悪魔。全身漆黒の鎧に覆われ、フルフェイスの兜により顔すら見えない。悪魔だとわかるのは、兜から突き破るように角が二本生えているためだ。


「武器についてはバラバラだな」


 セシルが観察しつつ呟く。彼の言う通り悪魔は剣に握っていたり、槍を持っていたり、剣と盾を持っていたりとバラバラ。


「奴らは入口を塞ぐ役割を担っているらしいな……と、そういえば」


 俺は思い出したように声を上げた。


「街に入る時『聖域』に派遣された騎士達と別れたんだが……ここで戦った形跡はないな」

「別所から城に入ったのでしょう」


 こちらの言葉にルーティが応じた。


「騎士が城に入るための通用口がありますから……そちらに向かいましょうか?」

「目に見えている悪魔はさっさと倒した方がいいでしょう」


 セシルが発言。双剣を軽く振って見せた後、ルーティへ続ける。


「私とレンが先行します。ルーティ殿は援護を」

「……わかりました」


 心配そうな面持ちで彼女は答える。セシルはそれに「大丈夫ですよ」と受け答えし、


「それじゃあ、レン。やろうか」

「ああ」


 俺も剣を抜き、悪魔を見据え――走り出した。セシルも同じタイミングで駆け、橋へ踏み込む。


 こっちが右でセシルが左――進む間に、悪魔の咆哮が生じた。兜によって見えないが、口を大きく開け俺達を殺そうと睨みを利かせているのがわかり……たむろしている悪魔の内、二体が俺とセシルに差し向けられた。

 それぞれ一体ずつ相手にするらしい。俺に突き進んでくるのは剣と盾を持った悪魔。体格が二メートル以上ある中、速度もかなりある。動きだけで並の騎士なら尻尾を巻いて逃げるであろう迫力。


 セシルに対しては槍を持った悪魔が襲い掛かる。獲物から考えるとリーチの短い双剣では不利か――と一瞬考えたのだが、彼は立ち止まると迎え撃つべく剣を構えた。

 合わせるように俺も立ち止まる。瞬間、悪魔の剣が雄叫びと共に振り下ろされた。


 刹那、意識を集中させる。目の前にいる悪魔の動きをつぶさに見てとることができ――剣戟の魂胆を、しかと理解した。

 剣を振り上げると同時に、左腕が動いている。魔力を伴わない攻撃だと判別できるか怪しいが、魔力の塊であるモンスターならば、その動きをしかと理解することができた。


 所作から振り下ろされた剣がフェイントで、左腕の盾を使い俺に一撃食らわすのだろうと察した。今までの戦いと比べ手の込んだ戦法――『聖域』で生み出された悪魔とは異なる動きに、多少ながら疑問に思う。

 けれど攻撃にはきちんと対応。相手がそう来るならと剣に魔力を加える。悪魔が持つ武器の魔力量をしっかりと把握し、薙いだ。


 俺と悪魔の剣が正面から衝突し――悪魔の剣が、あっけなく破壊される。破片が周囲に弾け飛び、それでも悪魔は構わず盾を俺に放った。

 こちらは即座に剣を引き戻し、盾に対しても刃を放つ。そして二つが激突した瞬間、今度は盾も一気に砕いた。それにより、悪魔は初めて動きを止める。


 その隙を突き、攻勢に出る。魔力を加え胸に向け一撃を――しかと与えた。

 悪魔が呻く。俺は追撃として刺突を胸に浴びせ、ようやく悪魔の体が光となって消えた。


「大丈夫のようだね」


 横でセシルの声。首を向けると、彼は槍をかわし双剣を胸に突き刺す姿があった。目を送っている間に悪魔は光と消え、俺は小さく頷く。


「ああ、悪魔もそれほど苦戦せずに……あ」


 と、俺はふいに思い出し右手首を見る。そこにはブレスレットが。


「『聖域』に入る前は懸念していたのに、入り込んだら戦闘の連続で失念していたな……」


 呟きつつ、俺はブレスレットを外した。よくよく考えればこれを着けていてもイザンに対抗できた。ならば外すことでより強力になり、この戦いで力を発揮できるのでは――

 試しに魔力を刀身に込める。すると剣が共鳴し、制御できないくらいの力が表層に現れようとした。


「うお……っと!」


 慌てて引っ込めた。これは必要以上に力が加えられてしまう。

 どうやらブレスレットは、俺の力とリデスの剣の橋渡しを上手くやっていたようだ。


「レン、来るよ」


 外したままにしようか思案していた時、セシルが発言。視線を転じると、俺の魔力に反応したらしい残りの悪魔――総勢四体が、翼を広げ、なおかつ体を震わせ咆哮を上げ始めた。


「強力な魔力に反応し、好戦的になるらしい。下手に魔力を表層に出さない方がよさそうだ」

「……わかった」


 俺はブレスレットを着け直す。魔力に反応し悪魔が手当り次第人を襲い始めたら、目も当てられない。


「行くよ、レン」

「ああ」


 セシルの言葉に俺は返事をして――悪魔へ向かって、駆け出した。

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