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戦いの結末

 武器を破壊した以上、相手は打てる手がもうないはず――俺はここぞとばかりに畳み掛けようと斬撃を繰り出した。

 対するイザンはそれを察知し、大きく飛び退く。結果、こちらの剣戟は彼の体を掠めるに留まる。


 俺はすかさず詰め寄る。追いすがる様子にイザンは憤怒の表情を見せながら、再度放った斬撃をどうにか避け、こちらの間合いから脱した。


「今度こそ、終わりですね」


 そこへオルバンが俺の隣へ来て宣言する。イザンは無言で俺達を一瞥し、さらに肩で息をしながら睨みつけた。

 よくよく観察すると、顔面が蒼白になっている。出血は漆黒の鎧によって抑えられたはずだが、血を流してしまったためか、それとも悪魔に変化したためか――明確にわかることは、彼はもう限界間近ということ。だからこそ、オルバンは宣言したのだろう。


「繰り返し言いますが、もし事情を話せば……」


 オルバンはそこまで言い、口を止めた。イザンが表情を消し、さらに砕けた剣を地面に投げ捨てたためだ。


「話す気になった、というわけではなさそうですね」


 彼の言にイザンは無言で右腕を肩の高さまで上げる。そして――

 金属同士をこすり合わせるような、気持ち悪い音が生じ始めた。


「何……?」


 俺は驚きイザンを注視。掲げた彼の右腕が変容し、黒く染まり漆黒が腕全体を包んだ。

 そして出来上がったのは、腕を覆うようにして構築された長剣。


「殺ス……!」


 狂気を帯びた声音で呟くと、イザンは血走った眼でこちらを見据えた。俺は両腕に魔力を込め、なおかつ黒い剣を破壊するが如く刀身に魔力を注ぎ、迎え撃つ体勢に入った。


 オルバンもまた同様の行動を示し――次の瞬間、突如地面に光が浮き上がった。


「っ……!?」


 呻き地面を見ると、イザンの足元に魔法陣が浮き上がっていた。まさか――


「転移魔法……!」


 フィクハが叫んだと同時に、オルバンが俺の前に出た。こちらもそれに反応し、駆ける。このままでは逃げられてしまう。その前に決着を――

 しかし俺達の目論見はむなしく潰え、剣が届く前にその体が光と共に消えた。


「逃げられましたか」


 立ち止まり、オルバンが淡々と呟く。俺はやり場のない剣を下ろすしかなく、嘆息しイザンが立っていた場所を眺めた。


「まだ『聖域』の中にいるかもしれない。確認する」


 続いてフィクハは告げ、詠唱に入った。俺は彼女に首を向けつつ、周囲に気配がないか調べる――結果としては、悪魔の気配すらない。

 今度はオルバンに視線を転じる。そこで目が合い、彼は苦笑した。


「かなり負傷していたようですし、再度こちらに来るとは考えにくいですが……」

「先ほどの転移魔法、何が原因で発動をしたんでしょうか……」

「おそらく一定の魔力を失ったか、負傷したかでしょう。他の二人も同様の結末を迎えてもおかしくありませんでしたが……」


 と、彼は言いつつ地面に倒れる黒いローブ姿の男性に目を向けた。


「死んだ彼が転移する兆候はありませんし……イザン自身二人とは異なる命令を受けていたことを考えれば、今回の首謀者とは異なる人物が転移魔法を使用した、といったところでしょうか」

「シュウさん、ですね」

「でしょうね」


 オルバンが同意した時、フィクハが「終わった」と言った。


「周囲にそれらしい魔力は無かった。よって『聖域』の外に出たと考えた方がよさそう」

「そうか……で、彼はどうする?」


 俺は地面に倒れる黒いローブ姿の男性を見ながら言う。結局、彼の名前すらわからずじまいだ。


「念の為、検分をします」


 オルバンは言うと歩み始めた。そこで俺はフィクハと目を合わせ、これからどうするか協議。


「悪魔の気配は無いし……ひとまず休憩するか?」

「そうね。泉もあるし少しばかり休みましょう」


 俺の提案にフィクハは同意し、『聖域』に入って初めて休むことになった。






 結局、黒いローブの男性からも首謀者に繋がる情報は出なかった。


「私達ではこれ以上調べようがありませんね」


 片膝をつき、泉で手を洗いながらオルバンは語る。付着した血を洗い流すことで、泉の青が僅かに赤くなる。


「残るはイザンとなりますが……相当怒り狂っていた様子だったので、騒動を起こさないか心配です」

「ま、その辺りは大丈夫でしょ」


 オルバンの懸念に、フィクハは楽観的に答えた。


「首謀者は彼の存在を公にしたくないだろうし、無茶な行動は控えるよう動くはずだよ」

「そう思いますが……城に迷惑が掛からないことを祈りましょう」


 オルバンは言うと立ち上がり、俺達を一瞥した。


「それでレン殿、気配は?」

「今のところありません。敵はあれだけだったみたいですね」

「私も同じく。魔法で再確認したけど、おかしいところは無かった」

「ならば、本来の目的である調査ですね」


 彼の意見に俺達は深く頷いた。


 そこで、ふいに空を見上げる。光が地面に当たり、立っていると汗ばむくらいの陽気となっている。なおかつ太陽はまだ中天に差しかかっていない。


「まだ昼前だな……とりあえず、シュウさんが言っていた奥地とやらを目指そう。時間としてはどのくらいかかるかな」

「『聖域』の広さを考慮に入れれば、そんなに時間は掛からないと思うよ」


 これはフィクハの言。首を向けると彼女もまた空を見上げていた。


「問題は最奥というのがどの場所を示しているのか。記憶では、この盆地は円形だったはず。その一番奥、というのはどこに当たると思う?」

「入口から距離があるという解釈なら、入口から見て反対側のどこかだろうな」


 俺が提言すると、フィクハはため息をついた。


「そういう意味合いで奥に行くとしたら……森の中を歩き続けて昼を過ぎたくらいには到着できるんじゃないかな。そこから目的の何かを探すのは大変だろうけど」

「この『聖域』全てを探すよりはマシだと思いましょう」


 最後にオルバン。フィクハは「そうね」と答え、歩き出そうと足を前に出し、


「あ、そういえば一つ」


 いきなり立ち止まり、俺達へ呼び掛けた。


「彼ら、どうする?」


 フィクハは一点を見据え問い掛けた。視線の先は、亡くなった黒いローブの男性。


「さっきの人も置き去りにしてきたけど。埋葬する?」


 問い掛けに、俺は難しい顔を彼女に見せる。


「やるにしても時間が掛かってしまうし、ここは戻ったら報告するということにしよう」

「……やっぱり、それしかないか」


 彼女は引っ掛かった物言いをする。

 俺も埋葬するべきか一瞬考えたのだが、そもそも『聖域』でそんなことをしてもいいのかという問題もある。気にはなるが、ここは管理しているドラゴン達に任せたいところ。


「調査を済ませ、報告する時にお願いしよう……とりあえず、先に進むということで――」


 俺は二人へ提案した……その時、一つ疑問が生まれた。


「……方向って、わかるか?」


 森を見ながら、俺は二人へ問い掛けた。

 今までイザン達と戦うため移動し続けたわけだが……これにより『聖域』の中で現在位置が全くわからなくなってしまっている。


 周囲に見えるのは木々だけ。木の上には盆地を囲む山が見えているのだが、移動のヒントにはならなそうだった。よって、どう進めばいいかわからない。

 太陽とかを参考にすればいいのだろうか……そんな風に考えていると、


「ああ、その辺は大丈夫。方角はわかっているから」


 フィクハがあっさりと答えた。明快な返答に、逆に疑いを抱く。


「……本当か?」

「そのくらいは把握しているわよ。私を誰だと思っているの?」


 ……そんなこと言われても。


「ひとまずお任せしましょう」


 今度はオルバンが告げる。顔を見ると苦笑に近い顔をしていた……きっと、俺と同様道がわからないのだろう。


「じゃあついてきて」


 フィクハは俺達へ朗々と告げ歩き出した。一抹の不安を覚えつつ……俺はオルバンと共に彼女の後を追い始めた。

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