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魔の闘士

 最初、イザンが動く。先ほどと同様、アークシェイドの本部で遭遇した悪魔を彷彿とさせる動きで――俺に接近した。

 差し向けられた刃を、俺は剣で捌く。魔力で強化していたため、金属音がこだましただけでのけぞるようなことにはならなかった。


 すぐさま反撃。横に一閃したのだが、イザンは受け流すと、お返しと言わんばかりに振り下ろす動きを見せる。

 そこへ、右からオルバン、左からフィクハが割り込み、イザンへ迫る。


「無駄だとわかっているはずだが……!」


 イザンが嘲笑するように言った直後、二人の剣が腕に触れた。オルバンは相手の左肘。そしてフィクハの剣が右の肩口へ。

 俺は右肩に狙いを定めたフィクハの剣なら……と思ったのだが、彼女の刃も止まった。


「固いわね」

「当然だ」


 フィクハの呟きにイザンが反応――する間に、今度は俺が向かう。イザンはこちらに視線を移し、迎え撃つ体勢をとろうとする。しかし、


「っ……!?」


 二人の放った攻撃により、対応が一歩遅れた。

 元々二人は剣が通用しないことを察知していた。だからこそ、自分達の剣を足止め代わりに使う気でいる――打ち合わせをしたわけではないが、動きから俺も理解できた。


 結果、目論見は成功し縦に放った剣がイザンへ到達――しようとしたが、すんでのところで彼は動いた。後退しながら剣戟を避けるように身を捻り、掠めただけで終わる。

 触れた部分は左肩。刃が僅かに入った結果、そこから僅かに出血したのか衣服が赤く染まった。しかし、


「そういうことか……!」


 イザンは痛みを感じていないかのように俊敏な動きで距離を置き、こちらの動きを把握したか叫んだ。


「だが、同じ手は通用しないぞ」

「わかっているわよ。うるさいわね」


 フィクハはイザンに対しそう答えると、今度は詠唱に入った。


「させん!」


 するとイザンは彼女へ仕掛ける。厄介な魔法を封じ込めるつもりらしい。

 しかし、彼の行動に対しオルバンが動いた。俺の前を横切ると彼女の前に立った。


 イザンはそれを見て一瞬動きが止まった。ほんの身じろぎ程度のことであったが――彼の考えがなんとなくわかった。

 このままオルバンに仕掛ければ、俺からの攻撃が来る。しかし俺に矛先を向ければフィクハの面倒な魔法が来る。どちらを選ぶべきか――そういう逡巡で間違いない。


 そして彼はどちらの選択も取れなかった。なぜなら俺が躊躇いを察知し一気に間合いを詰めたからだ。


「ちっ!」


 イザンは舌打ちしたかと思うと迎え撃つ体勢を整える。俺は真正面からまずは一撃見舞い、彼はそれを剣で防ぐ。

 先ほどと同じような炸裂音と、またも剣が軋む音。リデスの剣を受けて折れないとなると相当強力な剣のはずだが……悲鳴を上げていることから、破壊可能ではないかと改めて感じる。


 それはイザンも認識したのか大きく後退し、視線を俺の剣へと向けた。

 こちらは追撃を行なう。今度は腕を伸ばし刺突を放った。イザンは横に体を傾け紙一重で避けたが、ほんの僅かにバランスを崩す。


「包め――大地の鎖!」


 そこでフィクハの魔法が発動した。刹那、彼の足元の地面が膨れ上がり、一瞬で彼の足首を飲み込む。土を使った拘束魔法――


「なっ……!」


 イザンは呻いたが、すぐに足元に魔力を集中させ、拘束から逃れようとする。

 そしてあっという間に地面が破砕――したが、俺の剣が届く時間は稼げた。


 一撃目。横から放った剣をイザンはかろうじて弾く。けれど崩したバランスから拘束魔法を使用されたことにより、体勢が完全に戻り切ることがない。

 二撃目。今度は彼の左肩から斜めに向けて斬撃を繰り出す。イザンは後退しようと重心を背後に移し、俺の剣を受け止めた。


 だが、後退する分だけ力を抑えたためか――俺の剣はイザンの剣を弾き、

 その勢いのまま、剣が肩から斜めに入った。


「があっ――!」


 声を発するイザン。俺はさらに攻撃するべく足を前に出そうとした。そこで、今度はオルバンが前に出て剣を振り下ろした。

 何を――驚いた時、イザンは防御できずオルバンの剣をその身に受けた。斬撃は綺麗に俺がなぞった傷口をもう一度抉り、彼から悲鳴を引き出すことに成功した。


 効いている――体の表層は悪魔の力によって覆われているが、それを破壊すれば人間の体であるため通用するらしい。エグイ攻撃だと思いながら、執拗に仕掛けるオルバンへ視線を送った。

 次に放ったのは突きだったが、イザンは体勢を立て直しからくも避けた。とはいえ満身創痍となったのは間違いなく、痛みや出血のせいかイザンは苦悶の顔を浮かべる。


「治療しなければ危ないかもしれませんね」


 俺の前にオルバンは立ち、極めて冷静に言う。勝負あったと考えているのだろう。


「はっきり言いますが、私達はあなたを助ける義理は無い。手掛かりを失うのは心苦しいですが……あなたが反抗するというのなら、致し方ありません」

「事情を話せば助ける、と言いたいのか?」

「ええ、そういうことです」


 明瞭にオルバンが言うと、イザンは体を震わせ奥歯を噛み締めた。


「貴様らに助けられるつもりはない」

「そうですか。残念です」


 オルバンは前傾姿勢となる。視線の先には、目標とする生々しい傷があるはずだ。

 俺も彼に合わせ構える。フィクハもまた詠唱を始めた。対するイザンは俺達を睨みつけ、そして――


「――ガアアアアッ!」


 獣の、咆哮。


 彼は破れかぶれの突撃を敢行する。俺達はすかさず回避に移った。さすがに正面から受けるのは危険すぎる。

 俺達は全員同時に跳んだのだが……オルバンだけ前にいた分イザンと近かったため、間合いから脱する前に剣が届く。


 オルバンは受け流そうと剣を向けたのだが、斬撃は重かったのか防御を弾き飛ばし、剣が届いた。


「オルバンさ――!」


 言い掛けた時、イザンは俺に近づくのが見え即座に回避に移る。フィクハも同時に横に逃れ、相手は横を通り過ぎ土埃を上げながら停止する。


「……ふ」


 そして、振り返り俺達へ顔を見せた。狂気の笑み。


「ふ、ふ……」


 加えて出血が止まりつつあった。原因は明白で、傷口を漆黒の鎧が覆い始めていたからだ。さらにそれは彼の首元まで到達し、どんどん体を浸食していく。

 同時に彼は、剣が悲鳴を上げる程に魔力を刀身に注ぐ。その強さと量にぞくり、と背筋が凍った。


 そして、彼は再度突撃を仕掛け、


穿(うが)て――天使の槍!」


 フィクハの魔法が、イザンへ突き刺さった。

 彼は衝撃によりしばし動きが止まる。けれど先ほどのようにすっ飛ぶことはなく、堪えた。


 そして槍が爆散し、体を覆う。直後、イザンは速度を失いながらもこちらに駆けた。なおかつ我を忘れているかのような形相……俺は僅かに恐怖を覚えつつも、走った。

 イザンが気付き、剣を薙ぐ。極限まで集めた魔力を叩きつけるような豪快な大振り。俺はそれを避けながら、悲鳴を上げ続けるその刀身へ一閃した。これは間違いなく――頭の中でそう悟ったためだ。


 果たして――見立て通り剣は半身から先を両断した。さらに、残った刃がヒビを生じボロボロと崩れ始めた。

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