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入口の異変

 俺達が『聖域』の近くに到達したのは、出発してからおよそ二時間後のことだった。

 都市とそれほど離れているわけではないその場所は、方角としては首都から北西。本道から細い道に逸れた先にある、山に囲まれた盆地のような場所らしい。


「そういえば、ドラゴンが生まれた場所だとか言っていたな」


 馬車に揺られながら、ふいに王の言葉を思い出す。


「あ、その辺も説明しとこうか」


 向かい合って座るフィクハが提案。俺が「頼む」と答えると、彼女は速やかに説明を始めた。


「王様が『聖域』をドラゴン発祥の地と告げたのは、その場所からとある物が発掘されたから」

「物?」

「ええ。先代の王様……といっても百年以上前の話になるんだけど、当時はまだ『聖域』なんて呼ばれ方はしていなくて、結界も張っていなかった。けど、特殊な魔力が存在していて、その調査に王様は乗り出した。で、調査の結果……その場所には、ドラゴンにとって伝説であった秘宝が眠っていた」

「秘宝?」


 首を傾げる俺に、フィクハは小さく頷く。


「ドラゴンが神から授かったという、伝説の品。発見した時、ほとんど力は残っていなかったけど、その魔力が漏れだして森全体を覆っていたという結論に達し、その森をドラゴン発祥の地と言うようになった」

「なるほど。で、何で結界を?」

「伝承では、秘宝は二つあったの。で、片割れを探して力を得ようとしたドラゴンが相次いで森に入り込んだから。死傷者なんかも出たみたい」

「……どこの種族にも力を得ようとする奴はいるんだな」

「そうだね。だから結界を張り、ドラゴンは侵入できないようにした。人間とかを除外しなかったのは、そもそも秘宝の力はドラゴンにしか効果がないことと、ドラゴン『のみ』を除外するために結界の効力を特化したから」


 ――きっと、そのくらいにしないと力あるドラゴンが突き破るとか、そういうことなのだろう。

 頭の中で結論付けた時、馬車が大きく揺れた。なおも続く車輪の音を耳にしながら――ふと、気付いたことがあった。


「フィクハの話を聞く限りドラゴンは入れない。ということは敵は全員人間なんだろうな」

「たぶんね。後はモンスターや悪魔かな。一応それらを阻むような仕組みにはなっているらしいけど、中で生み出されたらどうしようもないし」

「つくづく厄介な話だな……まあ、ドラゴンを相手にしないだけ良しとするか」

「最初、怖かったんだっけ?」

「……その話はやめにしよう」


 俺が提言するとフィクハは笑った。こちらは苦笑しつつ、手を伸ばし前側の天幕を少し開けた。

 馬車は細目の街道を進んでおり、前方には山と、森が見える。


「ああ、もうすぐですね」


 御者台にいるオルバンが俺に気付き告げる。どうやら目の前にある木々が目的の『聖域』入口であるらしい。

 俺はじっとその場所を眺める。距離はまだあるのだが、入口付近に誰もいないことはわかった。


「俺としては『聖域』というくらいだから、見張りくらいはいると思っていたんだけど……」


 そう呟いた瞬間、オルバンが急に身を乗り出し前方を注視した。


「……本当ですね。私はルーティ殿から『聖域』に入るための手順を教えられ、それを見張りに伝えるように言い渡されたのですが」

「……え?」


 彼の言葉に俺は眉をひそめじっと入口を眺める。そこでフィクハが天幕から身を乗り出し、俺達と同様正面を見据えた。


「オルバンさん、入る手順というのは?」

「合言葉を見張りに告げると、中に入れてくれるそうです」

「合言葉……ねえ」

「通行許可証なんかを使わず口頭で伝える方が良いと判断したんでしょうね」

「なるほど。ルーティさんもそれを知っているということは、一目置かれた存在なわけね」


 フィクハはそんなことを呟くと、座っていた位置へ戻った。


「たぶん敵が見張りをどうにかしたんでしょ。私達は殺されていないことを祈るしかないね」

「そんなことをすれば露見するでしょうし、見張りを上手く動かしたといったところでしょうか」


 フィクハの意見にオルバンは答え、手綱を操作。馬車の速度が増し、入口がどんどんと近づく。


「入る前に言っておくよ」


 今度は、フィクハが俺達へ切り出した。


「一応私達三人は悪魔が来ても戦える能力は持っている。けど孤立するのはいくらなんでもまずいから、はぐれないように細心の注意を払うこと」

「それには俺も同意」

「こちらも賛成です」


 俺とオルバンが相次いで答える。フィクハは満足そうに頷き、


「で、敵は私のことを狙ってくる可能性が高い。レン君とオルバンさんを倒すよりもリスクは少ないと考えているだろうし……相手がそう動いてきたら、出し抜くように頑張るよ」

「後は怪我しないようにだけ注意しないといけないな」


 俺の呟きにフィクハは「まさしく」と答え、


「ま、私は基本二人の援護に回るつもりでいるから、危なそうだったらよろしくね」

「ずいぶんざっくりとした言い方だな……まあいいか。請け負うよ」

「任せて下さい」


 俺とオルバンがフィクハへ言った直後、とうとう入口に辿り着いた。


「馬車は見張りの方にお願いするよう指示されていたのですが、いない以上どうしようもありませんね」


 オルバンは言いながら一度左右を見回し、


「適当に置いておくので、降りて少し待ってもらえませんか?」

「わかりました」


 俺は同意し、先んじて馬車を降りる。続いてフィクハが降りると、馬車は街道からはずれ、近くに停車した。

 そこまで確認した後、入口に視線を転じる。ぽっかりと人が二人並んで入れるくらいの大きさ。奥は木漏れ日なんかで多少なりとも見える。視界については困らないだろう。


「見張りがいない以上、敵は中に入り込んでいるだろうね」


 フィクハは言いながら静かに剣を抜いた。合わせて俺も剣を抜いた時、彼女がこちらに尋ねる。


「レン君、森の中の戦闘になるけど……使えそうな技はある?」

「いつも使っている雷の魔法は森に引火する可能性があるからできれば使わない方がいいだろうな。となると、氷しか」

「それでいいよ。悪魔が来たら遠慮なくぶっ放してくれれば」

「加減を誤ると、人間とかも巻き込むような気がするけど……」


 言いながら、俺は魔力制御に使っているブレスレットをフィクハに見せる。


「以前『星渡り』の説明をした時話したと思うけど、完全に魔力を調整できない」

「加えて、リデスの剣があるから制御がさらに難しくなっている」

「そうだ」

「なら腕輪は着けたままでいいよ。下手に全力出されて私達まで氷漬けとなりましたなんて洒落にならないし、今の状態でも十分強いでしょ?」

「イザンとかが現れた場合、危ないかもしれないけど……」


 答えた時、準備を終えたオルバンが来た。


「お待たせしました。では、行きましょうか」


 言いながらも目つきは鋭く、ゆっくりと剣を抜き放つ。


「今のところ強敵となるのはイザンだけ。彼については私が戦います。レン殿は、他の敵……特に、モンスター達と戦っていただきたい」

「モンスター、ですか?」

「以前の戦いで力の調整に戸惑っていたようなので、その方がよろしいかと」


 ……彼にはわかっていたようだ。こちらとしても好都合なので深々と頷く。


「決まったわね。それじゃあ行こう」


 最後にフィクハが告げる。そしてオルバンを先頭にして、俺達は『聖域』へと足を踏み入れた。

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