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迎えの者

 程なくして門に到達し、俺達は街へと入った。通行許可証と先導するルーティの進言により、門の通行については何事もなかった。


 俺は天幕を少し開け、御者台越しに街を見回す。中は今まで見てきたものとそれほど変わらない。大通りと、行き交う商人や馬車。そして露店を開いている店主の威勢良い声。ドラゴンの国ということで違う所を探しがちなのだが――

 気になったのは一点。大通りにある左右の建物の屋根。所々赤かったら青かったりしているのだが、


「中には、自分が人間だドラゴンだと語る人もいるのですよ」


 視線に気付いたらしい、オルバンの声が聞こえてきた。


「そこに差別意識があるのかどうか不明ですが……商売をやっていくうえでの処置かもしれません」

「なるほど……」


 とはいえそれほど数は多くない。あからさまに差別しているとか、そういうわけでもなさそうなのでちょっと安心した。


 馬車はそこからさらに進み、T字路へ辿り着く。正面には役所らしき建物と見張りの兵士がいて、彼らはこちらを見て会釈をしていた。

 同時にルーティが頭を下げ、右に曲がる。そこから少し進むと左へ。今度は直進ではあるが、なだらかな坂に入った。


「この流れだと、最初に王様と謁見することになるかな。私はリミナさんのこともあるし遠慮させてもらうけど」


 ふいに、フィクハがポツリと漏らす。それに同意したのは、馬車の荷台の後方にいるセシルだった。


「面倒ですね」

「はっきり言ったわね」

「ええ、まあ。それとこの調子だと、城に滞在することになりそうですけど」

「城か……敵方がどう出るかわからない以上、あまり留まりたくないのだけれど」

「敵が城内で仕掛けると?」


 俺は天幕を閉じながらフィクハに質問。彼女は眉間に(しわ)をよせながら頷き返し、


「兵士なんかを懐柔している上、闘技大会の準優勝者を雇い入れるくらいだから、結構な権力者だと思うのよ。だとすれば、城内にいてもおかしくない」

「でも城で狙ったりなんかしたらボロが出るんじゃ……」

「その辺りは相手だって考慮しているはずだろうけど……用心することに越したことはない」

「そこは場の流れに沿うしかないかな」


 俺が呟いた時、坂を上がりきる。そこでリミナがもぞもぞと動いた。


「ん……勇者様?」

「ああ、リミナ。おはよう」

「おはようございます……時刻は?」

「昼前くらいじゃないかな」

「あ、このパターンだと会食まで要求されそうだね」


 心底面倒そうにフィクハが言った。するとそのフレーズにリミナは反応。


「もしかして、到着したんですか?」

「ああ。今は街に入って城に向かっている途中」

「そうですか」


 彼女は応じた後ゆっくりと上体を起こす。


「謁見があるでしょうから、とりあえず見た目は整えておかなければ……」

「リミナはさすがに遠慮願うと言うさ」

「しかし……」

「今日は調子が悪いんだろ? 謁見最中に倒れられでもしたらまずいし」


 俺の発言にリミナはすまなそうな顔をした。同時に頬が赤く、息も細かく辛そうなのがはっきりわかる。


「そんな調子で謁見すれば、王様だって気を遣うさ」

「そうですね……わかりました」


 彼女が答えた時、馬車が左へと曲がった。さらに天幕越しに「もうすぐですよ」とオルバンの声が。


「よし、準備しようか」

「了解」

「どうなるかな」


 フィクハが承諾し、さらにセシルはこれからの展開を吟味するような顔を見せた。


 それから俺達は荷物を整え――といっても俺はストレージカードがあるのでほとんど必要なかったが――馬車が止まる。いよいよ到着したと思った直後、オルバンが天幕を開いた。


「偉い方がいます」


 告げると、外へ出るよう促した。俺達は互いに目を合わせた後、まずセシルが後方から馬車を降りた。

 続いて俺が降りる。そしてフィクハがリミナを支えつつ馬車を降りる。それを確認してから、まずは周囲を見回した。


 道の左側には役所風の真四角な建物がある。そして右手に堀が見えた。視線を向けると堀は横にずっと伸びており、奥に白い城壁に囲まれた城がある。赤い塔も、当然堀の奥側に存在していた。

 城の入口は一本の太い跳ね橋。その前に赤いローブを着た男性と、騎士が数人立っていた。


 赤、ということはドラゴンのようだ。彼に対してはまずルーティが進み出て、馬から降り一礼する。


「ナダク大臣。出迎え、誠にありがとうございます」

「君こそご苦労だった」


 会話の中、俺は彼らに近づき、まず男性――ナダクと呼ばれたドラゴンへ視線を送る。

 見た目上の年齢は三十代後半といったところだろうか。あごに生やしたヒゲと短く整えられた黒髪。そして鋭く射抜くような青い瞳と広い肩幅を有していることから、武芸でもやっていたのかと胸中思った。


 俺が近づくと、彼は視線を転じた。途端に、僅かながら緊張が走る。


「あ、あの……」

「君が、勇者レンか?」

「は、はい」


 無意識に頭を下げながら応じる。同時に後方から複数の足音が聞こえてきた。フィクハ達だろう。


「まずは、謝罪しなければならないな。此度の件で色々と面倒を掛けて申し訳ない」

「情報が回っているのですか?」


 ルーティが発言。俺達が一斉に注目すると、彼女はちょっと申し訳なさそうな面持ちとなる。


「あ、すいません、横槍を入れてしまい……」

「いや、良い。伝令からこちらに情報が回って来たのだ」

「そうですか」


 ルーティは返事をして引き下がる。そこで男性は再度俺へ顔を向けた。


「私はナダク。この国で防衛大臣をしている身だ」

「防衛……」

「兵の処遇についても私の管理内だ。本来はあなた方を守るはずだった兵が牙を剥いた……その点については、深く謝罪したい」


 なるほど、事件の内容を聞いて管轄内だったから謝りに来たのか。理由を察すると俺は首を左右に振り、ナダクへ答えた。


「いえ、全員無事でしたから……それと、この一連の事件はアークシェイドと関わりがある可能性も……なので、こちらとしても協力したい」

「そうか……ともあれ、立ち話で決める内容ではないでしょうな。さあ、奥へ」


 言って、手で城を示す。


「馬車については、別所に預かるようにする。まずは謁見を済ませてもらいたいが……」


 ナダクは言うと、俺の背後へ視線を移した。振り返ると、リミナが支えも無くどうにか立っている姿。けれど、肩で息をしているのがはっきりとわかる。


「そちらの方は、すぐに処置した方がよさそうだな」

「私が付き添います」


 フィクハがすかさず手を上げる。ナダクは頷くと、騎士の一人の声を掛けた。


「案内を」

「はっ!」


 騎士は一礼し、彼女達の横へ。


「では、他の者は私に」

「はい、わかりました」


 俺が代表して答えると、ナダクは歩き始めた。そして彼の傍に控える騎士の一人が馬車へと駆け、オルバンと交代する。


「行きましょう」


 ルーティの声。俺は「はい」と答えた後、ナダクの背後を付き従うように歩き始めた。

 左にルーティ。そして背後にはセシルとオルバンが歩く。橋を抜け城へ入る瞬間一度だけ後方を見ると、フィクハが騎士と話をしながらリミナと共に歩んでいた。


 大丈夫だな……そう頭の中で思いつつ、城壁にある門を抜ける。その正面には城への門が一つ。既に開け放たれており、先は赤い絨毯が敷かれた廊下が続いていた。

 それを見て一度だけ息をつく。謁見――この世界に来て二回目だが、緊張している。ひとまず噛まないようにだけ気を付けようと思いつつ、城内へと入った。

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