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ドラゴンについて

 翌日から、俺達は移動を再開した。

 トラブルがあったとはいえ行程としては予定通り。以後も順調に進み続け、いよいよ首都に到達する日となる。


 その間、悪魔などによる襲撃は行われなかった。騎士がいるためなのか、それともこちらの戦力を見てやめたのかわからないが、戦うことでリミナに負担がかかるし、こちらとしては何よりだった。


「さて、レン君」


 車上、俺と向かい合うように座るフィクハが声を上げた。現在馬車はオルバンが操作している。セシルは馬車の一番後方にいて、背面側の天幕を時折開けて外を眺めている。そしてリミナは本日調子が悪く、臥せったまま眠っている。


「首都ダーグスにいよいよ到着する……で、そっちはフィベウス王国の知識とかそんなにないでしょ? 今の内に説明しておくよ」

「ん、そうだな。助かるよ」


 俺の言葉を聞くと、フィクハは「始めるよ」と一言告げて、


「まず、ドラゴンという種族についてからね」


 口火を切った。


「確認だけど、レン君はどの程度知識がある?」

「リミナから少し聞いた程度。人間より長命で、賢者のごとき知恵を持つ種族って言っていた」

「知恵……? ああ、彼女はドラゴンの功績をそういう風に例えているのか」

「功績?」


 聞き返すと、フィクハは小さく頷いた。


「簡単に言うと、人間に魔法の使い方や魔法に関する道具の造り方を教えたのはドラゴン達なの」

「へえ……ドラゴンが」

「魔法という存在を開発したのもドラゴンで……技術という観点では、ドラゴンが人間の祖と言えるわけ」

「だから賢者のごとき知恵、というわけか」

「そう。じゃあなぜドラゴンが人間達に技術を教えたかというと、尖兵的な意味合いが強かったというのが歴史家の見解」

「尖兵?」

「技術を教えた当初、魔物や魔族の活動が活発だったという事実があった。ドラゴン達は当時数を増やしつつあった人間に目を付け、戦わせようとしたのでは……ということ。ドラゴンは長命な分、子供を増やすとかが難しい種族だから、頭数を手っ取り早く揃えようとしたのではないか」

「ああ、確かにそれなら提供したのは納得いく」

「……怒ったりしないんだ?」


 驚き加減にフィクハが尋ねる。俺はそれに肩をすくめて応じた。


「過去の出来事に目くじら立てても仕方ないじゃないか」

「それはそうだけど……まあいいか。で、そういう魂胆があったということでドラゴンを良く思っていない人もいる。けど、逆に信奉するケースもある」


 と、フィクハは右の人差し指を立てつつ、なおも語る。


「けど明確に言えることが一つ。彼らの技術提供をきっかけとして、人間は魔物の対抗手段を身に着け、繁栄することとなった」

「その現状が、今というわけか」

「そういうこと。現在、人間は自分達に合った魔法や道具を開発し、独自の道を進んでいる。ドラゴン達は人間がこんな風に発展し、あまつさえ魔王を倒すことになるとは夢にも思わなかっただろうね」

「違いないな」


 俺が返答した時、フィクハは一度座り直してからさらに続けた。


「で、現在ドラゴンは各地にバラバラ……だけど、その多くはフィベウス王国にいる」

「首都はドラゴンばかりなのか?」

「そういうわけじゃないよ。昔、戦争が起こった時避難してきた人間を収容し、そこから人口が増えたりもしているから」

「それ、対立しなかったのか?」

「居ついた時は反発もあったようだけど、人口が増え生活が豊かになったみたいだから、表だって追い出そうというドラゴンもいなかったんじゃないかな」


 フィクハは言った後、馬車の進行方向を一瞥する。


「現在は人とドラゴンが同じ場所に住んでいる。二つの種族で対立しているとかはないけど……ドラゴンは同族意識が強いから、悪口言うのだけはやめてね」

「しないよ」


 否定の言葉を上げた時、車輪が一度ガタンと響いた。小石か何かを踏んだのか……思っていると、御者台側の天幕からオルバンが顔を覗かせた。


「着きましたよ」


 声と共に、フィクハは俺に前方を指差す。外観を確認しておけという意味だろう。

 彼女に従い天幕に近づき外を見る。前方には、灰色の城壁に囲まれた城と街が存在していた。


「あれは……」


 そして、俺は呟く。その声は予想通りだったようで、オルバンが解説を加えた。


「ドラゴンが持ち得る技術により、城壁より内側を結界で覆うことができるのです。あれらは、その装置というわけですね」


 ――彼の言葉を聞きながら、俺は首都へさらに注目する。城壁はかなり厚く、なおかつ奥に見える純白の城は高さよりも横幅があり、堅牢、重厚というイメージを強く植え付ける。


 そして特徴的なのが、城壁。形は四角形なのだが、四隅に城壁から真紅の色合いを持つ塔が伸びていた。長さは城壁とほぼ同等で、俺の目からはずいぶんと奇異に映る。

 加えて真紅の塔は城にもあった。中央に加え左右の端と合計三つ。オルバンの解説を考慮すると、あれら塔が結界を張る役割を担っているようだ。


「あれは翼を使って飛来する悪魔に対し使用されるものらしいです」


 さらにオルバンは言う。今度は彼に首を向け、話の続きを待つ。


「魔王が侵攻した時、当然ながらフィベウス王国も標的になりました。落城することはありませんでしたが、最初の交戦時、元の姿となり迎え撃つドラゴン達を突破した悪魔は、城壁を飛んで越えることによって街を蹂躙しました」

「その経験から、ああした建物を?」

「ええ。その経験から建てたそうです。以後、悪魔とドラゴンは交戦を繰り返しましたが、城壁を突破されることはありませんでした」


 そこで説明は終わり、彼は沈黙。俺は再度首都へ目を移し、七つある塔を見回した。


「あれこそが、人間にとって技術の祖であるドラゴンの技術というわけか」

「そうね。あと、もう一つだけ説明を加えるよ」


 後方からフィクハの声。俺は視線を彼女に移し、天幕を閉じ向き直った。


「あの塔は常に大気中の魔力を多少乱していて、ここでは他の街から転移魔法を使用してくることはできないから、外に出かけるとなると馬車は必須かな。あ、それと……通常、ドラゴンは変化していることが普通だから、外見上人間とドラゴンの区別はつかない。けど身体能力とかは違うから、兵士なんかはドラゴンが多いはず」

「あのルーティさんもそうだよな?」

「だと思う。で、誰が人間で誰がドラゴンなのかは自己申告されないとわからない。身体能力は異なるから戦えば一発だけど」

「訊くのはやめた方がいいのか?」

「角が立たないようにするには、迂闊(うかつ)に訊かない方がいい」

「わかった」

「けど、判別できる例外もある」


 と、フィクハはやれやれといった仕草を見せ、続きを語った。


「権力の中枢にいる方達は、どちらかを明らかにしたいようで……城勤めしている中で文官の面々は、ローブの色合いによってわかるようになっている」

「ローブの色合いか」

「うん。真紅のローブを着ているのがドラゴン。青いローブを着ているのが人間」

「レン、変に言及しなければ大丈夫だよ」


 そこへ、後方からセシルの声が。そちらを向くと、目が合った。


「人間だろうがドラゴンだろうが、僕らの扱いは変わらないはずだから。ま、事件の犯人を捜す参考になるかもしれないけど」

「そうか……わかった、ありがとうみんな」

「城内で相手がどう動くかわからないけど、レン君も気を付けてね」

「もちろんだ」


 フィクハの言葉に俺は力強く頷き、再び天幕を開けて首都を見る。胸を圧迫するような城壁が間近に迫ろうとしていた。

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