表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/596

街中の衝突

 俺はまず、道の中央にいる悪魔を倒すべく剣を強く握りしめた。同時に他に悪魔がいないか確認。視界の端にもう一体いるのを目に留めた。

 そちらに注意を払いつつ、俺は悪魔へ斬り込もうと間合いを詰め――


「ふっ!」


 突如、横からセシルが出て悪魔へ一閃した。攻撃しようと思っていた俺は気勢が削がれ、足にブレーキを掛ける。


 セシルの剣戟は悪魔へしかと刻みこまれ、後退させた。倒すには至らなかったが動きを大きく鈍らせ、追撃を加える隙が生じる。

 彼はそれを見逃さずきっちり剣を叩き込み、倒した。光となって消えていく様を見て、次に俺へ首を向けた。


「馬車の確認を!」

「わかった!」


 返事をしながら横倒しになっている馬車に近寄る。馬は動けないせいかその場に座り込み、車輪が道路を離れむなしく動きを止めている。

 俺は御者台から天幕の中を確認する。そこには天幕を踏みしだきながら剣を構えるフィクハがいた。


「あ、レン君」

「どうも」


 続いてオルバンの声。そしてリミナは胸に手を当て座り込んでいた。


「悪魔、倒したの?」

「え? ああ、まあ……」


 問うフィクハの声が存外明るかったので、逆に戸惑いながら返答。


「そっちは大丈夫だったのか?」

「うん、悪魔によって馬車をひっくりかえされたけど、怪我も無く――」


 説明を加えようとした時、悪魔の絶叫が耳に入った。セシルが倒しているらしい。


「ん? 他に誰かいるの……? あ、会いに行った騎士さんか」

「いや、シュウさんの援護をするべく別口で依頼された闘士」

「……闘士?」


 やや不審げにフィクハは聞き返す。その反応は予想通り。


「ああ、セシルという――」

「は!?」


 俺の言葉にフィクハは驚く。さすがに知っていたか。


「セシルさんが……来ているんですか?」


 今度はリミナがこちらと目線を合わせながら問う。俺は小さく頷き、


「騎士のルーティさんが避難誘導を行い、セシルが率先して悪魔を倒してくれているようだけど」

「……そう、わかった」


 フィクハは答え、僅かに思案した後、


「こっちはしばらくこのまま様子を見るよ。レン君はどうする?」

「なら、悪魔を倒すことに専念する。リミナを頼む」

「了解」


 声を聞いた瞬間、移動を開始。周囲に悪魔がいないかを確認し――

 セシルが中央付近でさらに悪魔を撃破していた。


「セシル」


 俺は声を掛けつつ彼に近寄る。すると、


「耐久力の高い、物理攻撃一辺倒の悪魔だね。それほど強くない」


 さっぱりした言い方で彼は呟いた。


「で、仲間は無事だった?」

「ああ。ひとまず潜んでいる悪魔を倒さないと――」


 告げた瞬間、新たな気配。視線を巡らせると大通りを挟む建物の屋上に一体いた。


「数は、結構多いかもしれないね」


 セシルがそう評し剣を構えた――直後、周囲の建物からさらに悪魔が出現する。


「……おい」


 思わず呻いた。数は全部で六体。姿は牛頭から翼まで同一であり、例外なく俺達を見下ろしている。


「レン、一斉に来そうな気配だから、飛び込んできた瞬間に回避して、一網打尽にしよう。そっちの技ならできるよね」

「……やりたいのは山々だけど、街中だし派手な攻撃はできない」

「む、そうか。なら――」


 セシルがさらに案を出そうとした時、全ての悪魔が同時に跳んだ。やや距離があった悪魔は翼で滑空すらしながら、俺たち目掛け飛び込んでくる。


「回避!」


 セシルは叫ぶと共に足を右に移す。俺は反対の左に跳び、立っていた場所に悪魔が飛来した。

 着地した悪魔は僅かに体を硬直させる。その間に俺はすぐさま体勢を立て直し、反撃に移った。


「ふっ!」


 魔力を込め、一番近くにいた悪魔を斬る。刃が入ったのは肩口で一瞬の抵抗はあったのだが……縦に体を両断し、光となる。セシルは耐久力があると言っていたが、リデスの剣の前には無意味のようだ。


「はあっ!」


 続いて反対側からセシルの声。悪魔に阻まれて見えないのだが、光が空中を舞ったため一体倒したのがわかった。


 残るは四体。その内の二体が俺を向き、威嚇のためか雄叫びを発した。

 全身が振動するような重い音。街の人々なら足がすくんで動けなくなると思われる声だが、俺には通用しない。


 先手必勝とばかりに剣に魔力を込め接近。右側の悪魔を狙って一閃する。悪魔達は俺の動きに反応したのだが、こちらの剣戟が早かった。

 悪魔に刃が食い込み、振り抜いた瞬間断末魔の悲鳴が上がる。それで片方は消滅したが、もう一方の悪魔が間合いを詰め、鋭い爪を振りかざそうとする。

 対する俺はバックステップで距離を取りつつ、剣を構え直す。


 そして反撃――しようとした矢先、右方向から光の塊が到来し、悪魔の横腹に突き刺さった。それにより悪魔はのけぞり、大きな隙が生まれる。

 俺は一足飛びで距離を詰め、悪魔へすくい上げるような斬撃を放った。


 結果、剣は悪魔に直撃し見事消滅。さらに真正面にいた残りの二体はセシルが倒し、街は静かになった。


「大丈夫ですか!?」


 そこへ、右からルーティの声。見ると、兵士数人を伴い近づく姿。


「怪我は?」

「ありません……先ほどの援護は、ルーティさんが?」

「そうです。危ないと思い加勢したのですが……必要、なかったようですね」

「いえ、助かりました」


 答えつつ、今度はセシルに目を移す。彼は悪魔が現れた建物の屋上を見回した後、こちらへ向き直り、


「信用してもらえる?」


 そんなに疑われるのが嫌なのだろうか、この人。


「……狂言という可能性も」


 なんとなく意地悪な返答をしてみた。するとセシルはがっくりと肩を落とす。


「勘弁してよ……」

「何でそんな固執するんだ?」

「……色々、あってね」


 なんだか暗い目をしながら答える彼。うーん、どうやら彼にとって「信用されない」という事実は非常に辛いらしい。

 けど、俺としてはリミナのこともあるし……そこへ、


「終わったみたいね」


 背後からフィクハの声。振り返るとリミナを支えながら歩く彼女と、後方にはオルバン。


「馬車を走らせていたら突然襲撃されて」

「……全員、無事でよかった」


 俺は安堵の声を漏らしながら、手でセシルを示す。


「で、彼がさっき言った――」

「闘技場で見たことがあるから大丈夫。初めまして、フィクハといいます」


 笑みすら伴いつつ彼女は言う。セシルは小さく頭を下げた後、


「後ろの方は?」

「初めまして、オルバンと申します」


 ――自己紹介の瞬間、セシルの瞳が大きく見開かれ、なおかつ光が宿る。


「おい、セシル」


 俺はすかさず横槍を入れる。名前を知っていてナナジアの騎士だと理解した様子。で、眼光の理由が丸わかりだった。


「あ、すいません」


 セシルはすかさず謝る。けれどオルバンは一瞬のやり取りで把握したのか、苦笑した。


「……どうしますか?」


 で、俺に訊いてくる。するとセシルがかぶりを振り、


「いえ、大丈夫ですって」

「信用できないから俺に問い掛けているんじゃないか……」


 呟きつつ、このままでは埒が明かないと判断。俺は質問の矛先をフィクハへ向ける。


「セシルはフィクハさんの仕事に関する人だから、判断はそちらでしてもらうとうれしいけど」

「わかったよ。とりあえず信用しましょ」


 あっさりとした答え。俺はいいのか問おうとしたのだが、


「優勝した人と準優勝した人が一緒になるなんて、ベルファトラス側だってさせないだろうし、敵だってそんな無茶はしないでしょ」


 先に彼女が言った。賭けに勝った。セシルもほっとした様子。


「で、騎士の方」


 次に、フィクハはルーティに問う。


「宿に案内してもらえますか?」

「よろしいのですか?」


 ルーティは聞き返す。フィクハは頷き、


「遠目ながら人を指揮している様子を見て、信用におけると思いまして」

「わかりました。ご案内します」


 ルーティは即座に了承し、先導を始める――そしてセシルを含めた俺達は、無言で追随し始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ