方針の決定
俺とオルバンはリミナ達のいる部屋へ入り、作戦会議を開始。俺とオルバンは立った状態で、椅子に座るフィクハに一連の出来事を伝える。
聞き終えたフィクハは頭に手をやり、面倒そうに声を上げた。
「こちらを襲う理由って、何?」
「こっちが訊きたいくらいですよ」
肩をすくめるオルバン。俺も彼の言葉に同意したいのだが……シュウに関連する事情を知らない彼とは少しニュアンスが異なる見解だろう。
コメントにフィクハはチラリとオルバンを見て、難しい顔をした。きっちりと説明するにはシュウさんの事情を話す必要がある……それをするべきか迷っているようだ。
「ただ、関所を通ってすぐのことなので、検分した兵士が関連している可能性は高いですね」
「そう……で、こちらとしてはどうする?」
「今からここを出ても野宿になりますし、無理に出発するのは逆に危険でしょう。ここの宿にご迷惑を掛ける可能性はありますが、ひとまず結界を張って、現状維持に努めましょう」
「寝る時も四人になる?」
「そちらが良いと言うのなら」
「ま、安全面からその方が良いでしょうね」
フィクハはベッドで横になっているリミナに視線を送る。
「そっちはどう?」
「……私は、構いません」
辛そうにリミナは返答する。熱があるからというわけではなく、何の役にも立てないという焦燥感みたいなものが、そうした顔を見せているように思えた。
「よし、なら荷物とかこちらに持ってきて」
「わかった」
「わかりました」
俺とオルバンは承諾し、宛がわれた部屋へと戻る。それから荷物や掛け布団なんかを持参して部屋に入り、とりあえず部屋の隅に置いた。
「で、ここからが本題なんだけど」
荷物を降ろした時、フィクハが声を発した。
「オルバンさん、今から言うこと、内密にしてもらえません?」
お、話すことにしたらしい……まあ危機が迫っている状況を考えると、仕方ない部分もある。
確認をとるフィクハに、オルバンは何かを察したらしく眼光を鋭くする。
「何やら、事情を知っておいでのようですね」
「確定ではないけど、他に理由がないから」
「わかりました。お約束いたします」
オルバンが頷き、フィクハは話し始めた――
結果として、彼は無茶苦茶顔を険しくする。
「英雄が、ですか」
「信じられないのは同意するけど、今は敵だと認識しておいて」
「わかりました……なるほど、彼が敵だとするなら、多少なりとも現状の予測が立ちます」
「どういうことですか?」
俺が質問。オルバンはこちらを一瞥した後、説明を加えた。
「シュウ殿は名が轟いているのはご周知の通り。フィベウス王国も例外ではないはずで、おそらく国の上層部と繋がりがあると見て間違いない」
「上層部の誰かが私達を襲撃するため人を動かしたってこと?」
今度はフィクハが尋ねる。オルバンは彼女に頷き、
「はい。しかし疑問も残ります。話を聞く上で、シュウ殿は周到に計画を立てているようですし、密かに動いているようです。その中で、なぜ露見するリスクをとり私達を狙うのか?」
「……ふむ、狙われる根拠か」
俺はあごに手をやりつつ色々と推測してみる。
「俺達を目的の障害とみなしたから……? リミナが臥せっている状況だし、今狙うのはむしろ当然と言えるけど」
「すいません……」
「いや、リミナが悪いと言っているわけじゃ」
俺は手を振りつつリミナの発言に応じながら、さらに見解を述べる。
「でもなあ……シュウさんを含め、俺は相手の足元にも及ばない能力しか持っていないし、ここで狙うのも変な気がする」
「彼らの目的を成就するための、重要なアイテムを所持しているとかはどうです?」
オルバンが話を向ける。けれど、俺は首を左右に振った。
「俺はシュウさんと共に行動する人と何度か接触していますけど、物を盗まれるようなことはありませんでしたよ」
「そうなると、まずます疑問ですね」
「あの……」
と、そこでリミナが小さく手を上げた。
「心当たりが一つ」
「何?」
フィクハが興味を抱いたか首を向けると、リミナはゆっくりと一点を指差した。
そこに視線が集まる。場所は――俺が腰に差している剣。
「シュウさんが敵に回っている以上、相手に情報は伝わっているでしょうし」
「あ、そうか……それがあったね」
なぜ今まで気付かなかったのか、という面持ちでフィクハが言う。けれど、俺は首を左右に振った。
「いやいや、確定ではないだろ? それにシュウさんはこれを奪おうとはしなかった」
「独断でやっていると仮定すれば筋は通るよ」
「独断……?」
「情報を知っていて、なおかつ自分の国に入ったのだから、狙う可能性は十分ある」
「あの……?」
そこで話が飲み込めないオルバンが声を上げる。
「その剣が、何か?」
「あ、えっと……リデスの剣なんです」
「は!?」
あ、驚愕した。
「英雄、リデスの……?」
「はい。剣が破損しルールクさんの店に行ったら、これを渡されて」
「な、なるほど……」
と、しげしげと俺の剣を眺めるオルバン。なんだか物欲しそうな顔にも見え――
「けどまあ、狙われる理由は見つかったね」
その間に、肩をすくめ話をまとめようとするフィクハ。
「見当違いかもしれないけど、そういう可能性があると頭で理解しておいた方が気が楽だしね」
「……そうだな。で、今後の方針だけど」
俺は思い当たる節が見つかったので、オルバンの視線を気にしながらも発言する。
「敵の狙いが俺の剣がどうか判断するなら、俺だけ別行動とかどう?」
「それこそ敵の思う壺じゃない。集団で来られたら、レン君も危ないでしょ?」
「そんなことせずとも私が守りしますから、ご心配なく」
自信を伴い語るオルバン。なので、俺は「わかった」と短く呟き、
「ひとまず、現状維持ということでいいかな?」
「そうね。ただ、夜の見張りとかが気になるかな」
フィクハは腕を組み、俺とオルバンを見回してから言った。
「結界を使うつもりだから、奇襲されるようなこともない。けど、一応見張りはいないと」
「私がやります」
彼女の言葉にオルバンが手を上げる。
「魔力を上手く調整すれば徹夜しても問題ないですし」
「そう。なら――」
「ただ、首都まではまだ距離があります。その間ずっと不眠不休はさすがに」
「なら、私が馬車を操作する。移動中眠って。オルバンさんは昼夜逆転になっちゃうけど」
「構いませんよ」
「操作できるのか?」
俺は驚き質問すると、フィクハは力強く頷き、
「シュウさんの弟子をやっていた時、結構操作していたから」
「……荒っぽい運転とかじゃないよな?」
「心配しなくていいわよ。リミナさんもいるし、無理するようなことはしないよ」
まるでリミナがいなかったら飛ばしそうな雰囲気……いや、何も言うまい。
オルバンは口を挟む気が無いのか沈黙。ひとまず意見は出尽くしたようだ。
なので、俺はまとめに入る。
「ひとまず、夜はオルバンさんが見張り、馬車の移動はフィクハさん……俺は馬車操作できないけど、場合によってはオルバンさんの代わりに――」
「レン君は、リミナさんを守ることに専念しなさい」
提案に、フィクハが口を挟んだ。
「誰かを守るには、最低でも一人付き添っていた方がいい」
「わかった。俺はリミナの護衛に専念するということで」
「……お願いします」
最後にリミナの声。すまなそうな色を多く含んでいたが、俺は彼女に笑い掛け、
「ああ、任せろ」
と、しっかり頷いて見せた。




