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新たな人物

 俺の視線に何かを感じ取ったのか、目の前の男性は僅かに目を細めた。そして、


「お前の味方か」

「ええ、その通りです」


 俺に言い放った言葉に、新たな人影――オルバンが答えた。


「傭兵に、人型の悪魔ですか。ずいぶんとまあ、本腰を入れていらっしゃるのですね」


 皮肉めいた言葉と共に、彼は腰の剣を鞘から引き抜く。すると、男性は顔を険しくした。


「気配からして、二流の剣士じゃなさそうだな」

「そういうあなたこそ、レン殿に手こずらせるとは、中々の御仁ですね」


 告げた後、彼は男性越しに俺へと視線を投げ、


「レン殿、この男性は私が請け負いますから、背後の悪魔を」

「わかりました――」


 承諾した瞬間、オルバンが動いた。実力の程はわからないが、今は信用するしかない。


 素早く振り返ると、空き地の入口付近で二メートルくらいの体格を持った、筋骨隆々の悪魔が。頭部には顔のパーツが一切存在しておらず、首だけこちらを向いているのが不気味だった。

 悪魔は口すらないせいか言葉も発さず佇み――俺は、剣に魔力を込め走った。同時に後方から金属音が聞こえ、オルバンのことを信じつつ悪魔へ迫る。


 間合いへ到達する寸前で、悪魔は動いた。腕を振りかざし、俺の胸元へ突きを放つ。

 こちらはさらに魔力を収束し、その腕を弾こうとする。両者の攻撃が交わり、俺の剣は横から腕に入った。


 感触が腕に伝わった時、俺は剣を振り抜く。結果、威力が高いせいかあっけなく両断した。悪魔はそれにより怯んだので、今度は腹部に狙いを定め、一閃した。

 斬撃は目標通り入る。両断することは適わなかったが、それでも動きが止まった。俺はここぞとばかりに頭部目掛け縦に一撃。結果、塵と化し悪魔は滅んだ。


 そこで一度路地裏を見据え、誰もいないことを確かめた後、振り返った。見えたのは、立ち位置を反転させ剣を構える男性とオルバン。

 男性は俺のことを一瞥した後、駆けた。二対一で不利になるという見解からか、オルバンを倒そうと攻勢に出たようだ。


 オルバンの真正面から剣が振り下ろされる。鋭く、獲物に食らいつこうとする虎のような俊敏さで剣戟が放たれ――驚いたことに、オルバンは左腕をかざした。

 彼は盾も持っていなければ小手をはめているわけでもない。布しかまとっていない左腕を掲げ、


 男性の剣が衝突した。


「くっ!」


 続いて呻き声。オルバンのものではなかった。攻撃したはずの、男性からの言葉。

 剣はオルバンの腕に当たり、そこから動かなかった。俺は刃と腕がかち合う部分を見て、オルバンの腕に魔力が収束しているのを感じ取る。


 魔力により、腕が盾のようになっているのだと理解できたのだが、それでも驚かずにはいられない。

 息を呑む中、オルバンが反撃に出る。男性を腕により押し返そうとしながら、剣を握る右腕を振るった。


 たまらず男性は剣を引き、斬撃を捌きつつ後退。そこで両者は沈黙し、一度だけ風が両者の間を通過した。


「……悪魔も倒れましたし、この辺りでやめにしません?」


 やがて、オルバンが声を発する。一方の男性は彼を注視し、


「……なぜ『剛壁(ごうへき)』のオルバンがここにいる?」


 問い掛けた。するとオルバンは大いに苦笑し、


「その二つ名は、仰々しくて好きじゃないんですけど」


 答えつつ、彼は小さく肩をすくめた。


「ただ、あなただって同じことでしょう? 『瞬剣(しゅんけん)』のイザンさん」


 オルバンは彼に応じた後、周囲に倒れる人達を一瞥し、再度提案する。


「周りの人達が目覚めてしまうと、こちらとしては厄介です。とはいえ、あなたも二人掛かりで攻められれば負ける可能性があるでしょう? ここは、双方が退くという形でやめにしませんか?」

「……いいだろう」


 男性はやむなくといった態度で同意。剣を鞘に収め、俺達を睨み、


「この襲撃で、お前達は理解しているだろう。これからの旅、覚悟しておくことだ」


 言い残し、彼は俺達に背を向け歩き出した。

 少しして彼の姿が消え……オルバンが、ため息をついた。


「やれやれ。厄介事の臭いですね……色々と疑問は残りますが」

「ですね……それで、この惨状どうしますか?」


 俺は倒れている男性達を見ながら問い掛ける。


「役人を呼びましょう……と、その必要もなさそうですね」


 告げた時、住民が目に入った。辺りを見回すと、戦闘が終わり恐る恐るこちらを覗く人々の姿。さらに、路地の奥から兵士らしき人物が駆ける様子も見えた。


「私が上手く取り成しますから、ご安心ください」

「……お願いします」


 オルバンの言葉に、俺は小さく頭を下げる。危機は脱したが、まだ面倒は続くようだった。






 役人達から解放されたのは、それから二時間も後のことだった。ただオルバンによるとナナジア王国の騎士であることや許可証等を持っていたこと。そして俺が勇者レンだと説明したことで、ひとまず二時間『程度』で済んだという見解だ。


「最悪、丸一日拘束される可能性だってありましたし」


 首を回しつつオルバンは語る。


「急ぎの旅ではありませんが、長居するのも良くないですからね」

「……これから、大丈夫でしょうか」


 彼の言葉に俺は旅を危惧した。


「たぶん、今回の襲撃は関所を通ったことによるものだと思います。それくらいしかここに俺達がいることを知らせる術はありませんし」

「でしょうね。一応怪しいことがないかを見つつ移動してきたのですが、考えられるのはそこしかない」


 オルバンもまた同意。俺はさらに不安が募る。


「誰かから狙われている、ということですよね?」

「そうですね」

「関所の兵士から伝わったと考えると、役人も危ない気が……」

「今の所視線などは感じませんし、大丈夫でしょう……不気味なのは、私達を狙う理由がなんなのか、ですが」


 ――そういえば、この人にはシュウが敵だと話していない。そこを伝えないときちんとした話し合いも難しいのだが……話していいものなのか。


「一度宿に戻り作戦会議を開きましょう。ちなみにレン殿、心当たりとかありませんか?」

「いえ……」


 首を左右に振りつつ答え――ふと、オルバンと先ほどの男性が交わしたやり取りを思い出す。


「あの、一つお伺いしたいことが」

「はい、何でしょうか?」

「えっと、『剛壁』でしたっけ?」


 呼び名に言及すると、彼は即座に苦笑した。


「似合わないと思うんですよね、その呼び名」

「失礼を承知で訊きますけど……オルバンさんって、何か功績が?」

「えっと、まあ……ベルファトラスで行われる闘技大会で、騎士のみが出場を許される大会があるんです。そこで、ちょっと」


 なるほど、彼はそれなりに名が通っている人物のようだ。たぶん、シュウの件もあることからフィクハが国を説得して強い人を選んだのだろう。


「一口に言えば、強力な結界術を使える騎士、ということです」

「先ほどの男性の攻撃も受け止めていましたよね」

「はい……ただ、彼とは比較的相性が良かったためできたことです。彼、イザンは闘技大会で多い戦法である、速さを優先し手数で押すタイプなので」


 闘技大会――イザンという人物もそれ絡みなのだと推測できる。


「あのイザンという人は?」

「ああ、そこも話さないといけませんでしたね……えっと、昨年度彗星(すいせい)のごとく現れ、準優勝した闘士です」


 ……まさかの人物が相手だった。強いわけだ。


「残念ながら一昨年覇者のセシル殿には勝てませんでしたけど、かなりの実力であるのは間違いない――」


 そこまで言った時、俺達は宿の前に辿り着いた。


「さて、作戦会議といきましょうか」

「はい」


 頷き――俺達は、宿へと入った。

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